第41話ライブバーにて マスター(フィリップ)の豪快料理を直人は爆食

ホテル・アフロディーテのライブバーは一階にあった。

(巨大なホテルなので、他にも数か所あるとのこと)

100人程度の収容で、シックな煉瓦壁、マホガニーのカウンター、テーブル、椅子。

ステージにはアップライトのピアノ、ドラムセット、ベース、譜面台が数本置かれている。

(すでに半分くらい埋まり、食事をとっている)


直人は沢田看護師、杉本瞳、南陽子に案内されて、入った。

カウンター席に座らされ、マスターに紹介された。

(その後、すぐに沢田看護師、杉本瞳、南陽子は、姿を消した)


マスターはフランス人で、フィリップと名乗った。(30歳くらい)

「ようこそ、直人様、ライブバーをお楽しみください」

直人は、普通に「直人です」と自己紹介。

ライブバーそのものが初めてなので、店内を見回している。


その直人の前に、メニューが置かれた。

他のレストランと同じで「値段」の記載がない。

(飲食費を含めて滞在費は全て無料を実感した)


直人は決めかねた。(あまりにもメニューの種類が多いので)

「マスターのおすすめでお願いします」(決めるのが面倒になった)


フィリップ(マスター)は、人の良さそうな笑顔。

「松阪牛のステーキにしますよ、味付けはシンプルに塩、バター、ペッパーで」

「お米は伊勢米、サラダでなくて、日本の白菜とキュウリのお漬物」

「お豆腐とネギのお味噌汁にしましょう」


直人は、その時点でうれしかった。

凝った料理より、シンプルなものが食べたかった。

日本のお漬物と米、そして味噌汁が本当にうれしかった。


料理が出来るまで、マスターと色々話す。

マスター

「これからはフィリップでいいですよ、マスターなんて英語みたいで好きでない」

直人は苦笑する。

「フランスから見た英語は、野蛮ってことですか?」

フィリップ

「いや、イギリス王そのものが、本来はフランス王の家臣だったからね」

「英語なんて、家臣の、野蛮人の言語だよ」

直人

「確かにそうですよね、イギリス王がフランス王より上位に立ったことは、ない」

「戦争での勝ち負けで捕虜になったことはあっても、敬意は失われなかった」

フィリップは、またうれしそうな顔。

「シェークスピアがロクでもない劇を書くから、フランスがバカにされるけれど」

「そもそもイギリスに美食などない」

「あんな痩せた土地で、ロクな作物がとれないのだから」


直人の前に、焼き立ての香ばしい大ステーキ、丼に入った炊き立ての伊勢米、お漬物、味噌汁が置かれた。


まずステーキを一口食べて、直人はうれしかった。

「お肉って・・・こんなに美味しいの?」

「すごい・・・肉汁まで美味しい」


そして、バクバクと食べ始めた。

「お米に合うなあ」

「お漬物、美味しい・・・こんなの初めて」

「う・・・味噌汁・・・絶品・・・」


大ステーキ、お漬物、お味噌汁、丼一杯のご飯は、あっという間に直人の身体の中に入ってしまった。


フィリップも直人の食べっぷりに、満足。

「いいねえ・・・気持ちがいい」

「料理人冥利に尽きるよ」

「美味しい美味しいって、一気に食べてもらうと、こっちの胸もスッとする」


直人は、恥ずかしそうな顔。

「今まで食事は、勉強の合間に、ササッと食べるだけ」

「味なんて考えない、母さんには悪かったけれど」

「でも、ここまで美味しいと、幸せです」

「ここに通いたくなりました」


フィリップは、熱い緑茶と干菓子を直人の前に置く。

「もうすぐ、演奏が始まるよ」

「今日は、ジャズ」

「でも、最初はバッハを普通に弾くよ」


その言葉通り、中年の男性が一人、ピアノの前に座った。

そのまま、平均律クラヴィア曲集を一番から弾き始めている。


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