第38話直人は事件(事実)を知る。

香麗との「交情」を終え、着替えを済ますと、杉本瞳と南陽子が、部屋に入って来た。

杉本瞳は、香麗に深くお辞儀をして、直人に用件を告げた。

「香麗様には申し訳ありませんが、直人様に急な用件が発生しました」

「今回は、この時点で、直人様は、退室していただきます」


香麗も(もちろん、直人も)、事の重大さを、杉本瞳の表情から、感じ取った。


直人

「香麗、またお話しよう」

香麗は、ストレートな言い方。

「私は、お話して、また直人をいただきます」

「お風呂も一緒に入りたい」

「一晩中愛し合いたい」

(直人は、しっかり頷いて、香麗の部屋を出た)


廊下を少し歩くと、南陽子が厳しい顔で「重大な案件」を告げた。

「直人様のご学友の里奈さんと良樹さんの件です」

「詳しくは支配人室で、説明いたします」


直人の顏も引き締まった。

支配人室に呼ばれるということは、よほどの事と思うから。

それと、「カリキュラム」の後の、初対面の女性との「交情」の是非も、確認したかった。

交情の相手、メイドの杉本瞳、南陽子は一様に満足そうな顔をするが、本来の「愛」ゆえの交情ではない。

「求められたら応じて欲しい」とメイドには言われたけれど、それについてホテルは関知しないのか、犯罪ではないのか、それを確認したかったのである。


そんなことを思いながら、見覚えのある支配人室に着いた。

支配人室に入ると、内閣官房の小野田氏と、支配人の藤田晃が立ちあがり、直人に一礼。

(直人は、何故、そんなに深々とお辞儀されるのか、意味がわからなかった)


ソファに向かい合わせに座ると、内閣官房の小野田氏が、口を開いた。

「直人様には、早速のご活躍、ありがとうございます」

「日本政府として、感謝申し上げます」

(小野田氏は、再び頭を深く下げた)


直人は、そんなことを言われて困惑した。

返す言葉がない。

(実際、講義を受けて、初対面の外国人女子と交情しているだけだから)

(それも、自分の意思ではないけれど)


直人の困惑を察したのか、支配人の藤田晃から声がかかった。

「直人様のご懸念も、察しております」

「それについては、後ほど説明いたします」

(直人は、支配人が「初対面の外国人女子と交情」を説明すると、察した)

(ただ、支配人は笑顔なので、危険性を感じない)


内閣官房の小野田氏が再び、口を開いた。

「直人様の、ご学友の里奈さまと良樹さまの件です」

(直人は、手ひどく馬鹿にされ、フラれた痛みを、思い出した)

(今でも辛い)(何より、貧乏人と、その出自非難が、辛い)


「事実から申し上げます」(小野田氏の表情が引き締まった)

「里奈さまと、良樹さん、既に、この世の人ではありません」(事務的な口調だった)


「え?」(直人は、言葉が出ない)

(確かに憎い、しかし、この世の人ではない、そこまでは考えていなかったから)


小野田氏は、ますます事務的な冷たい口調。

「里奈さんの浮気に怒った良樹さんが、学園の屋上で、包丁で里奈さんを刺し殺しました」

「その後、良樹さんは、屋上から飛び降り自殺しました」

「夜半のことで、警備も手薄」

「尚、余談になるかどうか・・・里奈さんの体内に、良樹さんの体液が残っていたようです」


驚いてますます声が出ない直人の前に、今日の朝刊(全国紙)が置かれた。

A社,Y社、M社、S社と置かれた。

一様に、「高校生同士の痴話喧嘩が、殺人に発展」

「自殺した男子生徒の親は政治家辞任」

「殺された女子高生は、派手な交友関係で知られていた」と書かれている。


直人は、どう考えていいのか、全くわからない。

自分が良樹だったら、里奈を殺すだろうか、飛び降り自殺までするだろうか。

(確かにフラれてショックはあった、それ以上に「生まれ」差別が辛かったけれど)

(どう考えても、そこまでの想いは、里奈にはなかった)


しかし、里奈と良樹が死んだ事実は、すでに知ってしまった。

フラれ、「出自」を馬鹿にされた苦しみは残るけれど、それを言い返す相手が、この世にいない。


直人は、ただ「わかりました、ご連絡ありがとうございました」と返事する以外、何もできなかった。

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