第36話台湾からの少女香麗②
午前中の講義は、無難に終了し、昼食の時間となった。
香麗は、直人から離れる気がないようだ。
「ねえ、直人君、お昼一緒にしない?」
直人は、拒む理由がない。
香麗が行きつけの中華料理店での、昼食となった。
「ここよ」
香麗は、輝くような、弾けるような愛らしさで、直人を、その中華料理店に誘った。
信じられない程の豪華な内装、まるで中国の宮殿に迷い込んだような感じ。
いわゆる町中華しか入ったことのない直人は、最初は、足がすくんだ。
その宮殿の中を歩いて、個室に入った(用意してあった)
香麗は、(部屋を不思議そうに見る)直人を見て微笑んだ。
「そんなに、けばけばしくないでしょ?」
「確かに、そう思う」
「いい雰囲気の南画みたいな感じ」
「でも、舟に乗って琵琶を弾く女の人の絵か」
「もしかすると白楽天の琵琶引の絵?」
※琵琶引
白楽天が九江郡に左遷されていた時期、偶然、溢浦(ぼんぼ)(九江郡から揚子江に流れる川)のほとりで宴会を開き、その後、客を見送った。
その夜、琵琶を弾く音を聴いた。
弾き手は都出身の女。
その都仕込みの演奏(田舎には、もったいない演奏)にすっかり感激し、都落ちした女の身の上話にまた感じ入り(白楽天自らも都落ちしていたので)、さらにもう一曲を求めた。
その時の長詩。
香麗は、直人の手を握った。
「さすが、直人君」
直人は、握られるまま。
「なんか・・・感じるよね」
「僕も都落ちだから」
(女にフラれ、階段を落とされ、東京から都落ち、家族と話もできない)
(直人は、琵琶を弾く女の気持ち、白楽天の気持ちを同時に身にしみて、感じた)
香麗は、直人に寄り添った。
「私は、中国本土から台湾に追放された政党幹部の末裔なの」
「時の流れで、その末裔として、政治に引きずり込まれるかもしれない」
「中国本土との戦争になるかもしれないし」
「そうなると、命の危険も強くなる」
「親は、それを心配して、私をここに入れたの」
「だから、私も都落ちの仲間よ」
直人
「家族は、聞いていい?」
「無事・・・なの?」
香麗は、頷いた。
「今は、両親は、シンガポールにいるよ」
「シンガポールのアフロディーテ」
「妹は、パリのアフロディーテ」
「だから、無事」
「もし、政変が起これば、動くかもしれない」
直人
「台湾も、今は難しいから」
「平和に済めばいいけれど」
香麗は、直人の手を強く握った。
「うん、でも、直人君、話しやすい」
「似たような境遇だからかな」
直人は、首を横に振った。
「僕は、政党幹部とか、偉い人の子ではないよ」
「間違えて命を狙われただけ、それでここに来た」
「貧乏人の平民の子」
香麗は、直人を正面から見た。
「暗殺する人は、その人のオーラの強弱を見るの」
「直人君、オーラが強い、だからかも」
「オーラが弱い人は、人をひき付けない、だから危険もないの」
直人は、香麗の意外な言葉に、困惑している。
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