第30話苦悩のサラ④「事情」を少し話し始める。
サラは、直人を部屋に「連れ込んだこと」に、何の後悔もない。
むしろ、素直に応じてくれて、うれしかった。
直人には、自分に「卑猥な下心」が全く感じられない。
少なくとも欧米系の男子(強引で傲慢な俺様系)(俺に従え系)では、ないと思う。
直人の首筋の「北斗七星のホクロ」と先祖の逸話の関係を、直人に言いながら、自分でも無理があることは、わかっている。
でも、そうまでしたのは、直人を引き留めたいから。
サラは、アルビジョア十字軍の話を静かに語った。
(直人は歴史に優秀なので、知っているとは思ったけれど)
(午前中の講義で、優秀性を理解した)
800年以上前のこと。
当時のローマ教皇が、異端のカタリ派撲滅を掲げ、南フランス一帯を十字軍と称して戦禍に巻き込んだ。
ただ、南フランスのカタリ派はカトリックとも共存していたので、実際の街攻略においては、ローマ教皇を中心とする攻略側は、両教徒とも全くためらいなく虐殺した。
人々が神の加護を求めて集まった教会まで焼き払った。
生きながらの、磔刑を行ったのである。
そのうえ、街の中に隠れて生き残っていた若い男女を、見境なく強姦し、その上で殺した。
老人は当然のように虐殺、生まれたばかりの子供は、地面に叩きつけて殺した。(異端を滅ぼす目的だったけれど、ただ街全体のジェノサイドでしかなかった)
財産は金目のものを全て奪った。
要するに、カトリックが当時繁栄を極めていた南フランスを無理やり屈服させ、人命と都市、領地、財産を野獣以上の狂暴さで暴行略奪しただけのこと。
そして、自分の先祖は、その暴行略奪に加担し、その時に得た富で、今の繁栄する一族の基礎を作った。
サラは、直人の顏を見た。
「こんなことは、直人には言いたくなかったけれど」
直人は、顔が蒼い。(むごたらしい話のショックは隠せない)
「うん、サラ、ありがとう」
「よく言ってくれた」
サラは、直人の返事に戸惑った。
「ありがとうとか、関係ある?」
直人は、天井を見た。
「でも、それを意識する限り、先祖を意識する限り、サラは辛いんでしょ?」
「自分には関係ないと、思い切れないんでしょ?」
「・・・800年前の先祖の話であっても」
直人は、少し間を置いた。
(サラの顏に、まだ何かがあると、察した)
「もしかして、それ以外にも何か?」
「隠していることとか」
「それ以上の理由がある?」
「言える範囲でいい」
「ほのめかすだけで」
サラは、苦しそうな顏になった。
途切れ途切れに説明した。
「私は、信じていないよ」
「でも、その時に焼き払った教会から奪った十字架・・・と言われているものだけれどね」
「小さな、でも、すごく豪華な宝石でできた十字架なの」
「今はとても値段がつけられない」
「家の当主が持つ決まり」
「でも、一族の中に、無理やり求める人も多い」
「一族でありながら、盗賊まで使って探しに来ることもある」
「今の当主が身に着けているのは、コピーなのにね」
直人は、サラの隠している意図を何となく察した。
「それで、子供の頃から日本なの?」
声を小さくした。
「それを持たされて、隠すために、ここ?」
「・・・実は、この部屋にあるとか?」
サラの胸がビクンと動いた。
(その動きに連動して、サラの胸の上の、直人の手も動く)
直人は、低い声で続けた。
「僕は気にしない、本物かどうかも、わからない、日本人だし」
「その現場を見ることも無理」
「失礼かもしれない、でも客観的に見れば、800年もあれば、途中何があったかわからない」
「もしかするとコピーもたくさんあって、ここにあるのは、その一つかもしれないよ」
サラがようやく言葉を返した。
「そもそも、略奪したもの、実際は、何の恨みも無い人々の血と涙を犠牲にしながら」
「・・・とにかく、持っていたくないの」
(その声が、また震えている)
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