第29話苦悩のサラ③サラは直人の手を自分の胸に誘った。

直人にとって、サラからの「首筋へのキス」は、完全に想定外のものだった。

そのうえ、サラの抱きつきは、かなり強かった。

結果として、そのままベッドに押し倒されてしまった。

(直人自身、情けない、と思ったけれど)


サラの唇が、直人の首から離れた時点で、ようやく声をかけた。

(二人は手をつないで仰向けになった)

「サラは、ドラキュラだったの?」

(変な表現と思ったけれど、それしか浮かばなかった)


サラにとって、意外な言葉だったようだ。

本当にうれしそうな顔だ。

「そうかな、ドラキュラか、サキュバスでもいいよ」

「なんか、美味しかった」

「すごく抱きやすい身体ね、直人って」


直人は意味不明。

「サキュバスはともかく、抱きやすいって何?」


サラは、また笑った。

「表現が難しいな」

「お手頃ってあるよね」

「いい感じってこと、大き過ぎない」

「腕がしっかり回るしさ」


直人は、ようやく平静を取り戻した。

「そんな、人形ではないよ」

(そう言いながら、サラの人形のように整った顏を見た)


「それで・・・」

サラのきれいな指が、再び直人の首筋に触れた。

(直人は、またビクッと身体を震わせた)


サラの口調も、ようやく落ち着いた。

「私の父の系統が十字軍からなの」

「アルビジョア十字軍ってわかる?」


直人は、驚いた。

「え・・・南仏の?」

「確かイノケンティウス3世の大虐殺?」


サラは、直人の首筋をまた撫でた。

「私の先祖は、カトリック側」

「でも、カタリ派の攻撃で負傷して、瀕死の状態の時に」

「首筋に北斗七星のホクロを持つ男が馬に乗せて陣営まで運んでくれて」

「そのまま、消え去った、そんな伝承があるの」


直人は、戸惑った。

「僕は日本人だよ」

「関係ない」

「関係あるのは、カトリック、それだけ」


サラは首を横に振った。

「そうとも言い切れないの」

「日本の戦国期に、カトリックの宣教師も、また従者も多く日本に来ている」

「その中に、首筋に北斗七星のホクロの子孫がいないとは言い切れないでしょ?」

「日本人女性が、性の相手をして、子を産んだ、そんな事例も多くある」

「その子の、子孫とかのDNAが関係している、決してあり得ない話ではないの」

「そういうDNAが、引き寄せるとか」


直人は、これには笑った。

「確かめようがないもの、それ」

「おとぎ話かな」

(ほぼ、妄想としか思えない)


サラは、いきなり、直人の手を自分の胸の上に置いた。

直人が驚いて手を引こうとしたけれど、サラの力が強くて無理だった。


サラは、満足そうな顔だ。

「直人、このままにして」

「すごく、ドキドキして・・・」

「でも、気持ちがいいから」

「幸せな気持ち?直人の手も好き」


直人は、手のひらで、サラの胸の鼓動を感じていた。

(サラの心の中に、救い出し願望があるのかな、そんな分析をしていた)

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