第28話苦悩のサラ②サラの唇が直人の首筋を吸う。

英語の授業は、対面式だった。

講師は、K大の岩崎教授。

(何冊も教科書、参考書を出している著名な学者)

英文解釈、英作文、英会話が各30分ずつ。

直人は全て無難にこなした。

(実際の英会話は経験がないが、英語は好きな科目)

しかし、サラは苦戦した。

(直人は、その時点では理由がわからなかった)


講義が終わり、サラの部屋に歩く途中、サラが教えてくれた。

「私、日本で生まれて、実は本国に帰っていないの」

「だから、顏はこんなだけど、英語できない」


直人は、「難しい事情:本国に帰ることのできない事情」があると、察した。

ホテル・アフロディーテの支配人から、「事情のある王族、貴族の末裔、大企業の関係者を保護している」と、聞いたからである。

そのまま、余計なことを聞かず、サラの部屋に向かった。


サラの部屋は21階にあった。

サラのメイド:ドミニクがドアを開けた。


「うわ・・・きれい・・・」


直人は、一歩入った時点で目を奪われた。

まず壁一面に、薄いピンクや白のチューリップが描かれている。

ベッドは、たっぷりのダブルサイズ。

大きくて豪華なテーブルと椅子。(直人は材質までは不明、ただかなり高価なものとは理解した)

直人の庶民的な高校生男子の部屋とは異なる、欧米のお金持ちの娘の部屋と理解した。


サラは、驚く直人に声をかけた。

「何も聞かないのね」


直人は、軽く頷いた。

「人には言えない事情もあるよ」

「言いたくないことは言わなくてもいいさ」


少し間を置いた。

「僕が、この部屋に誘われた理由も、よくわからない」

「ドキドキしている」

「女の子の部屋は慣れていないから」


サラは、プッと笑った。

「恥ずかしいの?」

「なんか、面白い」

「今まで女子校で、男の子と話さなかったから」

「それで、興味があったの」


直人は、少し苦しい顔になった。

里奈にフラれたのは、直人が平民で貧乏人(区役所職員の子供)だったことも理由だった。

そして、今はサラの部屋に招かれているけれど、サラに自分が「平民の子」であることを知られれば、おそらく里奈と同じ「対応」をして来ると考えた。

(恥ずかしいとか、浮かれている場合ではない、と思った)


直人が少し考えていると、サラの指が、突然直人の首に伸びた。

「首に不思議なホクロがあるの」

「北斗七星って言うの?」

「触っていい?」(そう言いながら、すでに触っている)


直人は、焦った。(サラの指が、とにかく、くすぐったい)

「そんなに、面白いの?」

「自分では、普段見ないよ」


サラは、指だけではない。

その顔も直人の首に近づけた。

「直人、あの・・・」(サラの声が上ずった)

直人が、避けようとすると、そのまま抱かれた。

(サラの腕が直人の身体に強く絡みついた)


サラは変なことを言った。

「私の一族の言い伝えに、首筋に北斗七星のホクロがある男は、尊重するべしと」

「十字軍の時に、先祖の命を救った人が、そうだったらしいの」

「実は午前中の授業から気になっていて」

「部屋に誘った本当の理由は、それ」


直人が答えに困っている時だった。

サラの唇は、あっという間に、直人の首筋、「北斗七星のホクロ」を強く吸っている。

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