第18話心を病んだ少女 茜 ①

案内されたホテル・アフロディーテの談話室は、ログハウスのような内装。

(杉本瞳の説明では、他の階にも、いろんな内装の談話室が多くある、とのことだった)


部屋自体は、それほど広くない。

大きな一枚板のテーブルと木の椅子が数脚。


その椅子に、少女が一人、ポツンと座っていた。

直人は、その少女を一見して、わかった。

「あ・・・茜・・・ちゃん?」

確か、小学生の時に、同じクラスだった。

隣の席に座っていたこともある。

(最初は、ハツラツとして、可愛い子だった)


しかし、今は、かなり痩せて、髪もボサボサ、肌が荒れている。

茜が、直人を見た。

(その目が潤んでいる)

「・・・直人君・・・」


直人が軽く頷くと、茜は、オズオズと手を伸ばして来た。

「うん、お久しぶり」


直人は、そっと茜の手を握った。

(元気?は言えなかった)(とても、そんな様子ではないから)

茜の細い手を握りながら、直人は思い出した。

茜は、県議会議員の娘だったこと。

ただ、茜は先妻の娘、後妻から苛められていた、それも知っていた。

(近所だったし、茜の漏れて来る泣き声が、噂になっていたから)

しかし、中学から別になった。(直人は私立校に通った)


メイドの杉本瞳と南陽子は、クッキーと紅茶を二人の前に置き、姿を消した。

「直人君も?」茜が聞いて来たから、直人は「事情」を「言える範囲」」で言った。


茜の目がまた潤んだ。

「それも、怖いよ」


直人は、茜の「事情」は聞き辛かった。

それでも「いつから?」と、時期を聞いた。

茜は泣き出す寸前の顏。

「高校1年から・・・お父さんに・・・」

間があった。

「私、捨てられたの・・・」


直人も、辛くなった。

茜の隣に座ろうと思った。(小学生の時のように)


茜は、座った途端にむしゃぶりついた。

「直ちゃん!ああーーー・・・」

言葉になってはいない。

直人はずっと背中を撫でていた。

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