第3話病院での生活と転院の話

直人は、病院のベッドから、車椅子に乗るまで、約2週間かかった。

看護師の沢田杏里は着替えから清拭、排泄まで、全て面倒を見てくれた。


ただ、直人は、まだ高校3年生の男子。

若くて美しい女性に身体を見られる、排泄を見られるなど、本当に恥ずかしかった。


だから、車椅子に乗って、まず排泄が出来た時は、うれしかった。

不思議に思ったのは、いつまでも個室から出られないこと。

それと転落事故(事件?)について、何もわからないこと。


だから、沢田看護師に何度も聞いた。

しかし、いつも返事は同じ。

「直人さま、まずは、リハビリが進んで歩けるようになってから」

3週間目を過ぎた頃、自分で着替えが出来るようになった。

ただ、清拭だけは、沢田看護師がやめない。

(つまり自分でシャワーも風呂にも入れない)


困るのは、局部の清拭になると、沢田看護師が楽しそうな顔になること。

「直人さんの、ここ、好きなんです、いい感じです」

「いいですね、若々しくて、熱くて」

直人は、そう言われても、耐えるだけ。(恥ずかしい、それしか言葉にならない)


そんな日が続き、4週目に入った。

沢田看護師が、書類を持って来た。

「直人さま、院長から転院許可がおりました」


直人は意味不明。

「転院?退院でなくて?」


沢田看護師は、にっこりと首を横に振った。

「既にご家族にも連絡しました」

「しっかりと直して欲しいとのことでした」

「まだ、リハビリが続きます」

「転院先と申しましょうか、施設は、ホテル・アフロディーテになります」

「こちらのパンフレットをご覧ください」


沢田看護師から、直人に渡されたのは、豪華なホテル・アフロディーテの封筒に入っていたパンフレット。

表紙は、青い空に巨大な白亜のホテルだ。その向こうに青い海が見えている。


沢田看護師は説明を加えた。

「和歌山県にあります」

「海の幸、山の幸で、ここよりはお食事もよくなります」


そう言われても直人は、よくわからない、ただ呆然となっている。

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