第2話
明莉と斉木はリューカルトンの客室1931号室向かうためにエレベーターに乗った
「明莉さん、お話はちょくちょく聞いておりますが…大丈夫ですか?自分はまだそこま…」
明莉は胸ポケットから名刺を出した
荒瀬 情報調査社
「荒瀬さんの情報が有益であった事は事実よ、何か相手に思惑があっても今はいいわ」
「…」
「不満そうね」
「いえ…初めてのコンタクトはいつなんです?」
「羽村の猿男が初っ端に岐阜ら辺の所をまとめたあたりにコンタクトがあったのよ、荒瀬の情報のおかげで私はこの位置を維持できてる」
「いつまで使うつもりですか?」
「さぁ…使えなくなればその時は…ね」
会話が終わりエレベーターが開き案内を見て進み1931号室のインターフォンを鳴らすと男の声で返答がきた
「何方かな?」
「明莉です、遅れて申し訳ない」
トビラが開き男が出迎えた
「いえいえ、私も先程チェックインを済ませたところですから」
「失礼致します」
明莉と斉木は会釈をして部屋に入り荒瀬の案内で対面になるように明莉はソファに腰掛け真後ろに斉木が立つ形になり
「何か飲みます?お二人共?ルームサービスで…」
「そういうのいいわ、本題に入りましょう」
明莉は遮ったが荒瀬は電話に手をかけながら
「お忙しいのは重々承知ですが…小谷さんとの会食だったのでしょう?少しリラックスする意味合いでも何か飲みましょうよ、適当に頼みます、お気に召さなければそのまま置いといて問題ありませんから。もしもし1931号室の荒瀬です…」
ここまで言われたら経つ手がないので明莉は黙って会釈をし、ルームサービスを頼み終えた荒瀬が明莉の対面に座った
「すみませんね、勝手に頼んでしまって」
「こちらこそお気を遣わせてしまいすみません」
「会食はどうでした?」
「小谷社長が懇意にしている方に人払いをされましてね、重要な話はあまり聞かされてないわ」
「小谷さんが懇意にしてる方ってもしかして、松田 啓介?」
明莉は少し驚いた表情をした
「ご存知でしたか?」
「…まぁ…なるほど…小谷さんの快進撃の理由は松田啓介か…」
斉木が割って入る
「そんなに優秀なんです?松田啓介ってのは」
「えぇ、元々どこかの傭兵を辞めた後このマーケットに参入、武器弾薬、車、ヘリなども手配する男でね、何年か潜めていたようですがここ数年でまた名前を聞くようになりましてた、色々な所に金を使ってなかなか尻尾を掴ませない厄介な男です」
話の途中でインターフォンが鳴り斉木が応対した
「荒瀬さんルームサービスです、入れちゃって良いですか?」
荒瀬が黙って頷き、斉木が招き入れルームサービスは紅茶とコーヒーの用意をし季節のケーキを配膳し部屋を後にした
「さぁ、お二人ともどうぞ」
「荒瀬さんいただきます、斉木も座っていただきなさい」
「ありがとうございます」
明莉が紅茶を飲みながら尋ねた
「頼んでいた物は?」
荒瀬がノート端末を出して操作し明莉に提示した
「…柴山と丹野はあと一歩…滝は福島、羽村は…苦戦してるようね」
「そうですね、ここに来て少し小谷さんのやり方に反発にしてる連中が徐々に増えてきています、まぁ表立ってではないですけどね」
「……」
「あれだけ強引にやれば…高齢を理由に北関東のご意見番の田上連合の足田さんを無理矢理さんを引きずり下ろして組織解体はやりすぎでしたね」
「徳宮さんの動向は?」
「徳宮さんは今地域開発の件で地元民がデモを起こしていて頭を抱えていますよ、まぁでもあの松川さんだ、上手く処理するでしょう」
「ありがとうございます荒瀬さん。斉木、例の物を」
「ハッ!」
斉木が携帯を操作し荒瀬に振込をし明莉の方へ視線を向けた
「明莉さんありがとうございます」
「こちらこそ有益な情報有難いですわ、さて長居するのもアレですから、斉木帰るわよ」
明莉と斉木が立ち上がろうとすると
荒瀬がお代わりの紅茶を明莉のカップに注いだ
「まだいいじゃないですか、明莉さん、そう言えば…シマの件どうなりました?」
「…分かっている事をいちいち答える必要ある?」
「…酷い話だ…」
「あの人にとってもう利用価値が無いと思われているのよ、私は」
「足田さん側の連絡役だった時に明莉さんは小谷さんに引き抜かれましたよね?」
「えぇ」
「足田さんから小谷さんに乗り換えた理由は何です?」
「そんな事聞いてどうするの?」
明莉が荒瀬の目を真っ直ぐ見て言った
「さぁ…なんでですかね、貴方程の有能な方だ、そのまま足田さんの元にいたらそれなりのお立場だったでしょう?」
コーヒーを飲みながら荒瀬が答えた
「有能ならこんな仕打ち…」
「今の小谷さんがあるのは明莉さんという有能な方がいるからです、世間では四天王なんて言われていますが実質小谷さんのNo2は明莉さんだと私は認識してますよ」
「買いかぶりすぎです」
「そうですかね…?これは私見ですがこの社会もそろそろ小谷さんのような剛腕なやり方ではなく明莉さんのように緻密に事を成す時が来たのかもしれません」
荒瀬の発言に斉木が驚いて目を見開き
明莉は一瞬戸惑ったが
「…荒瀬さん、そういう発言は小谷に対する反目と取られかねませんよ?」
「いやいや、商人として一意見を述べただけです、実際少なからず小谷さんへの不満や相談は私の耳にも入ってきています。関西の方々や細原さん、真木さんから相談を持ちかけられていますよ」
「明莉さん帰りましょう、予定が押し…」
斉木が話を遮るように割って入った
「斉木、下のラウンジで待ってなさい」
「明莉さん!」
「いいから!」
「しかし…」
斉木は荒瀬を睨みつけたが荒瀬は目線を合わせずコーヒーを啜っていた
「いいじゃありませんか、ここには我々しかいないんだ。斉木さん、貴方は明莉さんの1番信頼を得ている方だ、その貴方が今の明莉さんの立ち位置を心配しない訳がない」
「ハッキリ言わせてもらえば俺は底が見えないアンタを信用してねぇ!」
「斉木!」
「いいんですよ、明莉さん、彼の思いを聞くいい機会だ」
「てめぇが何企んでるか知らねぇがな!明莉さんを巻き込むな!今はシマはねぇけど俺がそのうち明莉さんを何とかしてやる!」
斉木が声を張ったがその言葉は荒瀬に向けてでは無い明莉に向けて聞こえるように言った
「それはいつです?いつ明莉さんはシマを得て立場を確保できるのですか?「そのうち」なんてきませんよ?行動を起こさないと。斉木さん私はね?社会全体としての問題もそうですが世を引っ張るリーダーは女性であるべきと考えています、裏社会も明莉さんのような有能で聡明な方が取り仕切るべきです」
飲んでいたコーヒーカップを置き荒瀬は明莉の目を真っ直ぐに見た
「その傷…小谷さんからでしょう?お可哀想に…」
明莉は前髪で隠していた傷の所に手を当てた
「…たった1つ意見を言っただけで…」
明莉は涙ぐみながら声を押し殺しその言葉を吐いた
「意見を頂けるというのはとても有難い事をですのに…キチンと眠れて無いのでしょう?」
「感情を押し殺して…やりたくも無い汚れ仕事を押し付けられ…みかじめ料を払わないとごねた宗教法人への見せしめに殺しまでして…火までつけて…目を閉じると今でも殺した連中に追いかけられる…そこまでしたのに…私は…私はぁぁ!」
「明莉さん落ち着いて!もう帰りましょう!荒瀬!てめぇが余計な…」
「私が楽園のヘビだと感じるならどうぞ引き金を弾けばいい!それをしないという事は斉木さんにも思い当たる節がおありなのは私にだって分かります。その物騒な物を納めなさい」
荒瀬に窘められた後に明莉が銃口を握り
「斉木、しまいなさい」
斉木は下唇を噛み締めながら拳銃をしまい明莉が口を開いた
「小谷さんを引退させるにはどうしたらいい?荒瀬さんの言う通り私の所にも色々話が来てる、これ以上敵を作るのは得策ではないのは重々承知なの」
荒瀬は立ち上がり窓のカーテンを閉めながら
「仮に引退してもああいった方は権力を譲りませんよ、それに…現状まだ誰にも跡目の話は無いでしょう」
「なら…どうしたら…?」
「貴女もお分かりでしょう?ハッキリ申し上げますがシマも取られた貴女が跡目になる確率は低い、貴女が浮き上がるには…」
「浮き上がるには…?」
「小谷さんを殺すしかない」
斉木は絶句し明莉はやはりと言った感じた
「…小谷さんを…?」
「できる訳が無い!こんな与太話!ふざけんのも大概にしろよコノヤロウ!明莉さん!ここに残ったのは間違いでしたね!帰…」
斉木が明莉の腕を引っ張ったが明莉は動かなかった
「斉木さん?できる訳がない理由とは?」
「…明莉さんがまだ参入前の今藤との戦争の時、出所不明だが今藤の宿泊先の小谷さんは情報を持っていた、そこを少人数で急襲できたから勝てた。浅野が裏切った時だって何故か小谷さんは直前に掴み羽村と松川さんに後ろを託せたから逃げられた、あの人は先を見越してる…出し抜く事なんて…」
「松田 啓介ですよ、それを可能にしてるのは」
「松田?あの人が?」
「えぇ、松田という男の1番の強みは物のやり取りじゃない…彼は1級品の情報をすぐに掴み1番効果的なやり方とタイミングで相手に売り渡す、だから小谷さんは今までやれてきたんですよ。言い方を変えたら…小谷さんと松田を切り離せれば可能です、最近小谷さんは静岡と神奈川の境めに別宅を建造しましたよね?そこを拠点にする筈です。なのでそこに行くタイミングの時に松田を切り離して小谷さんと連絡を取らせないようにすればいい」
「情報の精度は貴方より上?」
明莉が荒瀬の目を真正面に見た
「…悔しいですがね、松田は超一流ですよ。恐らく小谷さんの資金洗浄なんかもやってるハズなのでそうとう小谷さんとは深い関係です。それに松田という男は偏屈なのに人の懐に入るのが抜群に上手い」
「アンタとその松田って奴との関係は?アンタが松田側じゃないって証拠もねぇ」
斉木が割って入った
「…いいでしょう…私が持ちかけた話だ」
そう言うと荒瀬はスーツとシャツを脱ぎ左肩の弾痕を見せた
「これは前に松田に撃たれた傷でね…傷の事は私の甘さも認めますが…当時の私のツテや顧客を全て奪われ両親、家族を殺されました。何度殺しても殺しても足りないくらいあの男を殺したいんです、これでご納得頂けたかな?貴女方は小谷を何とかしたい、私は松田を殺したい、ウィン・ウィンの関係の関係でしょう?ねぇ明莉さん? 」
「分かったわ…まずは服を着て」
荒瀬が服を着直しながら話を続けた
「これである程度は信用して頂けましたかな?」
「実際にはどうやる?」
「まずは小谷さんに不満を持つ方々に明莉さんへの支援を確約させる。そして小谷さんが別宅に泊まる日を掴む、その日に松田を孤立させて連絡をできないようにすれば…そうですね、実際やるなら…腕に覚えがある連中を雇えばいい」
「そうね、やるなら少数がいいわ、躊躇しない連中を小谷が別宅に泊まる日にぶつける、日程は探ってみるわ、また連絡します。」
そういい明莉は立ち上がり斉木を連れて1931号室を後にした
ようやくだ…あのクソ程に忌々しい松田を殺せる。今でもあのニヤケ面が忘れられない…俺から全てを奪った人間…今度こそ必ず…
荒瀬は携帯を操作し
「もしもし…あぁ…例の奴の位置わかってるな?揺さぶってみろ、なんなら殺したって構わん」
電話を切った荒瀬は落ち着いていたが拳には力が入っていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ホテルのシステムに侵入……っと、はい成功、保安データ……監視カメラデータ…見つけた、こいつだ」
弟村の選んだバーガー屋に行く前にオープンスペースのカフェに松田、名城、弟村がいた
「社長、顔写真こっちに送ってください」
名城もPCを操作しながら言った
「送ったよ〜そっちで取引実績調べてみて」
「かしこまりました」
「俺もなんかしますので言いつけて下さいよ」
申し訳なそうに弟村は言った
「別に気にしないでいいよ、適材適所さ、その代わり弟村君は色々なものを操縦できる。これは僕にも椿ちゃんにもできない。だから気にすることないって」
「こっちの取引実績には写真の男はいないですね」
「ーん…やっぱりもっと前か…よし、名前は分かった。荒瀬 村邦の名前でホテルに部屋を取ってる」
「…荒瀬…荒瀬…村邦…社長hitしましたよ、そっちに送ります」
「なになに…荒瀬 情報調査社…この名前には見覚えのあるな…」
「え?もうそこまでわかったんです?!」
「こいつは政治ゴロだよ、官僚や議員連中の弱味を徹底的に調べあげ強請る、相手の財務、資産状況も調べあげて払えなくない額で払えるギリギリのラインで請求するんだ…ただ啓介との繋がりが全然見えない」
「ならお手上げってことですか?仕方ないで…」
慰めたつもりだろう、弟村が声をかけた
「まだ諦めちゃいないさ、僕の取引実績じゃなくて啓介の取引実績を調べてみるよ、まぁほぼほぼ消失しちゃったけどね」
名城が端末を閉じ弟村に耳打ちした
「弟村さん…我々見られていますよ」
「分かってます、どうします?」
「店の反対の通りに車1台恐らく車の中に数名、ここから2時の方向に2人…」
名城と弟村の会話を聞いていた松田が口を挟んだ
「この距離でしか監視できなくてそれもバレバレ…大した連中じゃないな」
「え?気づいてたんですか?!」
「シッ!椿ちゃん声大きいよ」
「相手と出方を見たくてそのままにしといた、とりあえず君たちがバイオレンスな事をしでかす前に車の方は通報しておいたよ、そろそろお巡りさん達がくるんじゃないかな?」
3人が通りのワンボックスカーの方を見るとパトカー2台がワンボックスカーにつけ警察官が降りて車を囲った
「2人共!今だよ!」
その様子を見ていた松田達の監視役で居た2人組を名城、弟村が近づき名城は指輪に仕込んだ弛緩薬の針を後ろから首元に刺し1人を戦闘不能し
「え?!どうされました?!この方が急に倒れました!大丈夫ですか?!誰か!救急車お願いします」
店内が騒然とし名城は介抱する振りし寝かせた後弟村はもう1人の真後ろに立ち
「騒ぐな!痛い目を見るぞ両手出せ!」
と小声で言った
「……俺たチ頼まれタダけ…」
「どうだかな、それを今から話してもらう」
弟村は男の右手を固め
「痛イ!乱暴スルな!」
「とりあえずこっち来い」
男の右後ろに弟村、左後ろに名城が張り付き松田の元へ戻った
「2人ともお疲れ様、もう拘束解いていいよ、この状況で何もできんでしょう?みんな座りな」
松田の対面に男が座り名城、弟村が男を挟むように座った。名城は足首に隠してある小型ナイフを、弟村は同じく隠し持っていたサプレッサー付きのコンパクトキャリーピストルを男の脇腹に突きつけた
「あのね?2人ともそういうのしまいなよ」
「そうはいきません」
「同じく」
「はぁ…たまには言う事聞いてよ…まぁお巡りさんいるからくれぐれも目立たないようにね」
2人は黙って頷いた
「さて…君は何者?」
「何モ知らナい、しゃべラなイぞ」
「お、随分と上手な日本語だねぇ、この辺の大陸系グループは龍華かな?総帥の江さんは元気?」
男はビクッとし
「…なんデお前ナんかがシってる?」
「お前なんかって…随分だな、君達用の偽造パスとかと用立てたりして取引してるからね、このまま僕に不逞を働いたって事で君を突き出してもいいよ、江さんの拷問は酷いからねぇ…あー怖い怖い」
「……」
龍華の名前を聞いた男は震えだした
「ありゃりゃ?震えちゃったよ、でも僕の質問に答えてくれれば穏便にすますしこの事は誰にも言わない、だよね?2人とも」
「えぇ」 「はい」
「だってさ、どうする?このまま僕と睨めっこする?それともお喋りする?」
「ナにが知リたイ」
「じゃあしつもーん!誰に頼まれたの?」
弟村が銃口を横腹に突きつけた
「早く言えよ」
「……イッたら他カら仕事したコトバレる…」
「別にバレないよ、もしそうなったら僕が江さんに言ったあげるから、君らって基本同族からの仕事以外しないでしょ?なんでこんな事したんだい?金かい?」
男は黙って頷いた
「目先の欲に囚われたらダメだって…んで仕事を受けた後に他に言ったらボスにばらすとでも言われた?」
また頷いた
「でもさ?僕に話した方が良くない?僕だったら君らの問題を不問にさせられるけど君を雇った人間はどうかな…?どのみちチクられて終わるよ」
「じャあどしタらいイ?」
「雇い主に電話して、僕が話すよ。それが嫌ならすぐに江さんに連絡する」
男は携帯でどこかに電話をし繋がったのか電話を松田に渡した
ーどうした?何かあったか?ー
「やぁどうも、その声…さっきの荒瀬君だよね?」
ー…やっぱり大陸系は口程じゃないな。殺したのか?ー
「殺しなんてしてメリットないよ、で?君は何したいの?僕に?」
ーさぁ、なんでしょうね…頭脳明晰な松田 啓介さんになんて分からないことなんて無いでしょう?ー
「お褒めの言葉をありがとう、まぁそのうち分かるか…でもね?察するに僕を殺したいなら君がやらなきゃダメだよ、人を使って自分の手を汚さないなんて卑怯者のやる事だ。こんな生業だ、恨まれる覚悟も殺される覚悟もある、だから君自身が僕に銃弾を撃ち込まないと意味が無い」
ー……さすがご自身で引き金を弾く貴方の言葉には重みがありますねー
「…正論を言ったまでだよ」
ー正論…か、笑わせないでくださいよ。人をはべらし顎で人を使い平気で残忍な事をしてきた人の言葉とは思えませんね、おっと…これ以上無駄話をするのはやめときます、それでは…ー
「ありゃ、バレてた」
松田は携帯の発信源を探知していたのだがあと一歩の所で電話を切られた
「おイ、俺はドうしタら…」
「あぁもう帰っていいよ、万が一江さんに詰められたら僕に聞けって言っていい、あっちの車の連中は…まぁなんとかして。椿ちゃん、弟村君出ようか」
「はい社長」
「了解っす!車のまわしてきますね」
「いいよ、一緒に行くよ」
「社長ねぇ…今アンタ狙われてんだからたまには素直に従いなさいよ」
弟村はやれやれと言った感じでサングラスをかけ直した
「君らがいるから大丈夫だよ」
「この人無視していいですから、弟村さんよろしくお願いします」
名城に言われて弟村は車に戻った
「なんで椿ちゃんの言う事は聞くのさ!」
「さぁなんででしょうね」
「…もぅ!みんなして!」
会計を済ませ店を出ようとした松田の手を名城が掴んだ
「勝手に動かない!」
「痛いよ!痛い痛い!」
「勝手に動いた貴方が悪いんです!」
「ちょっと!加減してよ!なんか変だよ、椿ちゃん」
「…私が護衛してても貴方は誰かの為に身体を使う…もう私は貴方の安否を気にしたくありません」
「大丈夫!僕頑丈だか…」
「真面目に聞いてください!今回は社長だって目的が分からないんでしょ…」
名城が言い終わる前に店の外からエンジンを3回吹かす合図がした、これは弟村の合図だ
「車が来たので乗りますよ」
「はいはい…もぅ…」
「何か?!」
「はい!何でもありません!」
これではどちらが雇い主か分からないなと松田は店の天井を仰ぎ名城の案内で車に乗った
弟村にしては珍しく大きな車を手配していた、3列シートで車内も広い
「しかし…荒瀬?でしたっけ?何が目的なんででしょうね?」
運転席の弟村が尋ねた
「まだ今のところはね…やっぱり啓介に対してとてつもない恨みを持ってるのは確かだ」
「強い恨み…ですか」
「うん、あの口ぶりだと啓介と直にやり合ってるね、でもそんな話僕は聞いてない…いや、聞かされてないが正解か…」
「社長、やはりホテルを変えましょう」
名城が間に入った
「なんでよ?」
「もうあのホテルはバレてると考えた方がいいです、それに…」
「それに?」
「相手が社長を殺す気で来た時、貴方は「気が済むなら好きにしなよ」と言ってご自身の生命すら躊躇なく差し出しそうですから」
「…恨みの原因は僕だっ…」
パチン!
名城の右手が松田の頬を捉えた
「今の貴方ではない人の事でしょう?!どこまで人が良いんです?!」
そう言った名城の目は少し潤んでいた
「名城さ…ん?」
ミラー越しの弟村は唖然とした
「いつもいつも「君達がいるから大丈夫」なんて言って好き勝手振舞ってますが私には逆に私達が貴方の盾にならないようにしか見えない!ご自身の命はどうでいいのですか?!」
「そんな事……」
「ならもう少しご自身を大切にしてください!貴方が居なくなったら…私は…」
「ごめん、椿ちゃん。分かったから…」
「分かってない!周りが無事なら貴方は自分の生命はどうでも良いんですか?!…もう…私は置いてかれるのは嫌です…キチンとお守りさせてください」
車内に重い空気の中運転しながら弟村が口を開いた
「そうですよ社長、俺と名城さんは護衛なんですから。俺達に仕事させてください、それに俺また就活すんの嫌っすよ、もう暫くPeace Cpに居させてください、それと…社長の椅子の下に箱あるでしょ?開けてください」
弟村の言う通り開けてみると中にはシルバースライドのG18Cコンペンセイター付きとマガジン2つ、ロングマガジンが1つ入っていた
「それ車に置いとくんで社長持っててください」
「あのね?僕だってこれくらい持ってるよ」
そういい松田は腰に下げたG19を見せた
「それ空砲でしょ?社長」
「……バレてた?」
「バレバレですよ、ねぇ?名城さん」
名城は黙って頷いた
「これでも一応「元」警官なんでね、持った時の重さである程度分かりますよ」
「参ったなぁ〜やっぱり2人とも優秀だねぇ」
「茶化さない!」
「はい…」
「まぁまぁ名城さんも怒らないで、言いたいこと俺は分かってますから。社長?俺ら一応護衛です、護衛対象が生命捨ててたら俺らどうすりゃいいんです?」
「別に捨ててなんて…」
「空砲の意味も分かってます、でもね?俺から見たらここはふざけた上司がいてちょっと怖い同僚がいるチームです、誰が欠けても俺は嫌っす、社長が撃たれて心配すんの俺も名城さんももう嫌なんですよ」
「…あの時はさぁ…」
「最後まで聞く!」
「はい…」
「…続けますよ?社長は自分の目の前で誰も死んで欲しくない…って気持ちあるでしょ?そう思うならそれ使って俺達も守ってくださいよ」
「そしたら君らの意味ないじゃん!どこの世界に護衛されてる人間がその護衛の護衛すんのさ?言ってて疲れるよ、弟村君」
「護衛対象が護衛を護衛する?早口言葉で3回言ったら良いですよ、ですがそれが何です?屁理屈だろうがなんだろうが俺はアンタに死んで欲しくない、そのためにはどんな屁理屈だって言いますよ」
「アッハハハ!分かった、僕の負け。心配かけてごめん、2人共」
「すみません…生意気言って」
「別に気にしてないよ、ただ…椿ちゃん、弟村君…知ってると思うけど僕…銃が…」
名城が松田の手を握った
「私を助けてくれた時の事、覚えてます?」
「…うん」
「あの時は本当にありがとうございました、私の為に無理までさせて…」
「無理なんかしてない、君を助けるのは当然だよ」
「あの時は私でしたがこれからはご自身を助けるといいますか…」
「分かってるよ、椿ちゃんの言いたいこと。もう粗末になんてしないから、2人に誓う。さ!今後の事をディナーを食べながら考えようか!まずはお腹一杯にしないとね!」
3人が乗った車はホテルへ向かっていった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます