第25話伝言紙切れ

黄昏村から諏訪山公園を抜けてヴィーナスブリッジまで行った。


徒歩だと道のりは山の起伏が激しいためヘトヘトになりながらもやっとの思いで恋人達の聖地へ辿り着いた。


 昼食後に出かけたのでブリッジに立ち街並みに眼をやるとネオンや照明が全開ではないがユラユラと、揺らめいていた。


ここへ立ちたかった。


 郁美と・・・。


 郁美の肩を抱き、寄せる・・・。


それから・・・それから・・・。


想いを残し、何か伝言は?と、探したが、見当たらずもう一神戸市街の夜景を見て帰ろうとすると、神社のおみくじ大の長細い紙切れを見つけた。


 それを結わえたのは郁美かな?と、思いつつも紙切れを開いたが、そこにはたどたどしい字で、水の奥底に居る」


と、書かれてあった! 


 郁美の字だ! ここへ来たんだ! 


俺は身震いしてもう一度夜景を省みたが、そこはもう明かりがなく暗黒の世界が広がっていた。


 ただ、ヴィーナスブリッジの外灯がポツンと寄り添い、俺を照らしているだけだった。


「水の奥底に居るって、水がないものね?」


イキナリ耳元で唐突に話し掛けられても返答のしようがない。


 時子さんは何時もイキナリで神出鬼没だと、要警戒マークを付けよう。


 まあ時子さんが言うには、黄昏村は頻繁に起こる湊川氾濫の治水の為に水没したのは明治38年の事で、それから以降、水難事故で幾つもの命を飲み込んで行った貯水池の水がなくなる筈はなく、「広大君が全部飲んだのね?」また、カオスな事を・・・。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る