第20話元ゼロ戦製造工場
「恋人達の聖地だからそこに絵馬をぶら下げてなんか書いておいてよ?」
何気に呟いた言葉に頻りに頷いていた。
その姿が可愛かった。
郁美を血眼になって郁美を探している俺の頭の片隅に道中でやり取りした会話を思い出していた僕はダムの上で東へ西へとウロウロ歩いては時折、ダムの遥か下の方を覗き込み、それが何の役にも立たないと分かっていてもその行動を止められなかった。
しかも舌先が痛んだが、気を取り直して時子さんと二人、ゼロ戦製造工場へ降りて行った僕達は、ゼロ戦工場の工場長酉島直樹と言う人に「工場は今は、稼動してないから管理人としてなら置いてやっても良いよ?」
「但し工場の一角を住家として使ってもらう。」
「住み込みだ! 飯と風呂は有る!」
「大きな荷物だな、非常用日用品入りのリュックサックか?」
「工場の隅っこでも置いておけ!」
「 邪魔にならん様になっ!」
そうやって住まわして貰う事にしたが、俺はこの時代に順応して良いものかどうか、是非を問いたいと思い時子さんに父が盆休みで徳島から諏訪山公園にジャンボジャングルジムを見学に来た女子高生と、高校三年生だと言う事を打ち明けた。
工場はだだっ広い作業場とゼロ戦の格納庫に使っていたらしくその名残が自棄に蒸し暑い、湿気と油のにおいで咽かえりそうだ。
しかし時子さんは、平成と言う今の元号が理解できないらしく、「天皇閣下が逝去されて元号が変る筈がないわ!」
と、一向に耳を貸そうとしないばかりか、工場長の酉島にリークしてしまった。
ゼロ戦工場はその名の通り、等間隔に並ぶゼロ戦が、完成間近で、エンジン始動試験やプロペラ回転試験が執り行われ、そこの責任者として迷彩模様の軍服を着た酉島直樹が、責務にあった。
その秘書兼、アシスタントとして、北条時子が任務していた。
ジャーナリストでありながら彼女は、戦闘機の完成まで最終試験をクリアした機体のみ出荷に当たり直接製造していないからフリーのジャーナリストの地位で居られると俺に説明していた。
最終テストとか、十分製造に携わっていますけど…?
俺は口答えを差し控えて工場内の二人と眼をあわせなかった。
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