エピローグ
第60話 エピローグ
きれいに舗装された、海沿いのまっすぐな道路を車は走っていく。道の両側には街路樹のヤシが並び、南国のようだった。明るい夏の日差しが目に眩しい。この風景だけだったら完全にリゾート気分なんだけどな、と残念に思う。私がこの海辺の町に来たのは、観光のためではなかった。
「着きましたよ」
海を臨む国道から一本内側に入った細道を奥に上がり、小さな雑木林のようなところに入ったあたりで、運転席の若い女性職員が私に声をかける。車は減速し、林が途中で途切れたところ、噴水や花壇のある小さな広場で止まった。目の前の、門を隔てた先には、別荘を思わせるような、真っ白で大きな建物が建っている。事情を知らない人が見れば、リゾートホテルか何かだと思うだろう。
車から降りることもせずぼやぼやしていると、門が開き、スーツを着た背の高い男性がこちらに向かって歩いてきた。失礼になってはいけないと、私は慌てて車を降り、相手に一礼する。私を連れてきてくれた隣の職員さんも同じようにしている。
男の人は鷹揚に微笑み、私たちにお辞儀を返す。
「施設長の、
アケボノという響きに私は一瞬ピクリと反応したが、言うまでもなく、目の前の明保野施設長は、私が知っているあのアケボノさんとは見た目からして全くの別人だった。背が高いのは同じだが、施設長の方は50代後半から60代前半くらいで恰幅がよく、バス会社のアケボノさんの方は年齢がおそらく40歳前後、体つきもすらりと細く痩せていた。名前の音が同じなのは、運命でもなんでもなく、ただの偶然なのだろう。その証拠に、女性職員の方は
アケボノさんの引率により無事元の世界に帰ることのできた私は、劣悪な養育環境から逃げ出すために長期間家出していたという扱いになっていたらしく、警察と児童相談所の判断で、「発見」後すぐに児童養護施設に入所することになった。もともとは私の父親またはその親族が引き取ることになっていたようだったが、父を含め候補者全員が引き取りに難色を示したらしく、このような結果になったそうだ。母親とは、未だに連絡がつかない。そんな嫌な話、わざわざ教えてくれなくていいのにと思う。
公言するほどのことではないが、私はチハ姉とケンカして以来、しばらく中断していた物語づくりをまた始めることにした。ペンネームは
異世界でバスガイドしてます ~天界交通(株)は今日もてんやわんや~ 紫野晶子 @shoko531
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