第26話 子育て営業所(2)

 さて、先日自警団に襲われているところを救出されたばかりのヤエちゃんだが、幸い、ろっ骨が折れているのではないか、というアケボノさんの見立てより、外傷は軽く、保護されてから3、4日ほどで退院することができた。本来迎えに来るはずだった店の人は、ヤエちゃんが負傷するに至った事件―果物屋でメロンを奪おうとし、止めに来た店番の腕に噛みついたこと―を知り、そんな乱暴なことをする子はもううちにはおけないと、引き取りを拒否したのだった。彼女の唯一の保護者であるはずの実母とは連絡が取れず、やむなく天界交通で引き取る運びとなった。

 さらに細かい引き取り先としては、朔子さんが自宅で世話をすると申し出てくれたのだが、話し合いの結果、人手の多いところの方が安心だということになり、第一営業所での受け入れが決定した。


「しかし、新年度切り替わりでもなんでもない、こんな微妙な時期に、うちの営業所に新人が2人も来るなんてなぁ。嬉しいけど、どうすりゃいいんだ? 島村さんはともかくとして、あの子じゃあ小さすぎてできる仕事もそんなにないだろ」


 本社で人事の仕事をしているアケボノさんから、ヤエちゃんの教育係を任されたウィルさんは当惑気味だった。ただ身寄りのない女の子を引き取って育てるだけでは、コストはかかりこそすれ、会社側には何のメリットもないので、ヤエちゃんの側にもできる範囲の手伝いはしてもらおう、というのが本社首脳陣の考えだそうだ。だから、実際には正式な受け入れ先が決まるまでの一時預かりでも、形の上では、将来天界交通に就職することを条件に、衣食住を保証され、無償勝住み込みで働く「社員見習い」としての「採用」ということになっている。


「あまり難しく考えず、簡単なことから協力してもらえばよいのでは? 例えば、玄関と事務室の床掃除なら、きっとすぐに覚える。後は、花壇の水やりなんかも…」


 黒砂さんの提案にウィルさんも同調する。


「そうだな。自立の道筋をつけるために、島村さんのやっている家事を手伝ってもらうのもいいかもしれない」

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