第23話 白昼の吸血鬼騒動(2)
スロープを登り切り、車は地上に出た。外の眩しい光に思わず目を細める。こんなに明るい中でも、吸血鬼が出るのか…。ドラキュラって、夜にしか出ないものだって思ってたけど。本社ビルを離れてから1分も経たないうちに宿場町が見えてくる。交差点を渡ったすぐ向こうが、先日飲み会で訪れた店のある通りだ。しかし、信号が赤になり、車は交差点の少し前で止まることとなった。
「あれ、何でしょうね」
朔子さんが指さす先には、小さな人だかりができていた。交差点を渡った向こう側、宿場町の入口のところで、人だかり…5、6人ほどの大人の男たちが赤い何かを取り囲み、しきりに蹴ったり、太い木の棒で殴ったりしていた。少し距離があるうえ、男たちの体に隠れてよく見えないが、赤地に金の華やかな模様と、あのとび色の頭はもしや…。
「朔子さん、この前の女の子です。第七地区のメンバーでで飲みに行った時の」
「えっ? 大変、すぐに人を呼ばないと…」
朔子さんは首から提げてあった折り畳み式の端末…私の元いた世界ではガラパゴス携帯、または単にケータイと呼ばれていたものだ…を外し、片手でカチカチとボタンを押してどこかにかけている。
「もしもし、お疲れ様です、第七地区ドライバー兼本社事務の
信号が青に変わる。後ろの車が次々と止まったままの私たちを追い抜いていく。これだけ目撃者がいて、私たちのほか誰も助けようとしないのかと憤りを感じた。こうしている間も、女の子は蹴られ、殴られ、痛めつけられているというのに。
電話が終わり、朔子さんと黒砂さんは車を降りて外へ出てゆく。私も続こうとするが、朔子さんに、危ないので島村さんは中で待っていてくださいと言われ、車内に戻る。さっきはえらそうなことを言ったが、結局私も傍観を決め込む情けない大人の一人になってしまった。何もせず走り去っていった運転手たちのことはもう責められない。
交差点を渡った向こうでは、黒砂さんと朔子さんが暴漢6名と何か話し合っている。暴力の嵐から解放された女の子(確かヤエちゃんといったか)はうつぶせに倒れた姿勢のまま動かない。ほどなくして、「天界交通」と車体横に書かれたワゴン車1台と、普通車1台が私の乗っている車の横を通り過ぎていき、揉めている人たちのところに停車した。朔子さんの車をドアロックもかけないまま放置して大丈夫なのかという心配はあったものの、私は車を降りて現場へと向かった。
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