第13話 ただいま研修中

 翌日、私は予定通り朝9時に天界交通の本社に来ていた。制服の支給があるというので2階の女子更衣室へと向かう。「島村」と書かれたピンクのテプラのシールが貼られている一番奥のロッカーを見つけ、扉を開ける。中には何も掛かっていないハンガー2本のほか、黒い制服が畳まれた状態で入っていた。どんなものか服を広げて確認した時、私は衝撃を受けた。私の手にした黒い制服は、スーツではなく、太もも丈の超ミニのワンピース。しかもチューリップのように膨らんだ袖は半袖で、おまけに胸から腰までを覆う、フリル付きの白いエプロンまでついている。まさかとは思ったがご丁寧に黒地に白のフリルが付いたヘッドドレスまで用意されていた。バスガイドなのに、なぜアキバ仕様のメイド服? 色々と謎だったがとりあえず着てみる。

 ―ああ、だめだ。太くて醜い脚が丸見え。趣味でコスプレイベントの時に着るならまだしも、仕事中に、しかも異性のお客さんがいるところで身に着けるとなると、なにかとよろしくない気がする。こんな露出度の高い服は、公共交通機関という公の場での仕事にはふさわしくないと思うし、万が一服装が原因で変なことに巻き込まれたらどうしてくれるんだ。中学の制服はスカートを腰のところで巻き上げてうんと短くしていたくせに、(心の中で)偉そうにクレームをつけてみる。いや、体を隠したいという思いはクレームではなく正当な権利の主張だ。上の人に会ったらメイド服をスーツに替えてもらえないか相談してみようと思ったが、1階の会議室に到着するとすぐに研修が始まってしまい、機会を逃した。

 研修は1日目からなかなかにハードだった。社訓、雇用条件と就業規則についての説明、会社での1日の流れと、仕事内容の説明、接客マナー、ロボットアームやマイクをはじめとする機材の取り扱い方法…とても1日では覚えられないような内容を、寝不足でもうろうとした頭に詰め込まれる。午前と午後の研修が終わり、夕方5時になってオフィスを出るころには私はすっかり疲れ切っていた。

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