第12話 暴徒襲来(3)

「まったく、しょうがない連中だな。市場のごろつきが、盗賊ごっこなんて慣れないことするからこうなるんだ」


 護送車に入っていく人の列を見ながら、ウィルさんが呆れたようにつぶやく。


「どうせ、魔界バスかくろがね観光自動車に雇われたんだろう」


 ウィルさんによると、この世界では、大企業がヤクザやカツアゲで暮らしている非行青少年を雇い、ライバル会社のオフィスを襲撃させたり、恐喝まがいのことをしたりするのはよくあることらしい。


「なんせこのめちゃくちゃな世の中だ。会社って言っても、内乱に乗じてできた新興のところは大体ヤクザと変わらないもんだよ。うちは元々はヤクザとは縁のない、一応ちゃんとしたところなんだけど、先代の社長が強引な人で、創業にあたって色々とやらかしてくれたからな…。そんであちこちから恨みを買って、他のバス会社やヤクザから付け狙われるようになったってわけだ」


 じゃあ、天界交通の社員になったからには、これからも色々なところで襲われるかもしれないってこと? とんでもないところに就職してしまったなぁと思う。それでも、働く場所と生活していけるだけの収入があって、なおかつ食べるもの、住むところに困らないならまだ恵まれている方なのだと思う。100%納得できる幸せなんてあるはずもない。特に職場のこと・仕事のことは難しそうだ。多少嫌なことがあっても我慢しなくてはいけない場合もあるだろう。だけどやっぱり、流血沙汰に巻き込まれるのはちょっとなぁ…。


 しかし、問題は何よりもまず、夜間のセキュリティのことだった。門のカギが壊れてしまったので、敷地内には外から入りたい放題の状態になっている。玄関のカギはまだ無事だが、爆弾を持っている連中がうろうろしていることを考えれば、安心はできない。どんなカギを導入するか、他にどんな防犯設備(例えば、監視カメラ、防犯ライトなど)を用意するべきかが決まるまでは、門の前に本部の警備部隊が常駐し、不審な人物が侵入しないよう見守ってくれることになった。これで少なくとも今夜は安心して眠れるはずだったが、襲撃時の動揺が自分の中で長引いてしまったせいか、なかなか寝付けない。結局朝まで起きていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る