第9話 第一営業所(3)
「さて、島村さん。来たばっかりで申し訳ないんだけど、さっきの事務室の片づけを手伝ってもらえないかな」
皆がお茶を飲み終え、一息ついたところでウィルさんが言う。
「書類の整理は俺とクロが仕事の合間にやるとして、そうだな…防災備蓄品の点検をしてもらおうか。壊れてるものとか、賞味期限が切れてるものがあったらよけてもらって」
そういうわけで、面会室を出て、事務室に戻る。確かに壁際の段ボール箱には、それらしいものが入っている箱がいくつもあった。乾パンの仲間と思しきクッキーの箱、カレーのレトルトパックではなく缶詰、黒ずんだ軍手、年代物のランタン、すでに封の開いているおむつの袋など…。別棟の防災倉庫にしまいっぱなしだった毛布の洗濯も頼まれた。施設用の大きな洗濯機と乾燥機が地下1階にあるのでそれを使えばいいということだった。
「毛布をきれいにしておけば、次、急なお客さんが来た時にも困らなくて済むし、今日分の島村さんの寝床も用意できるから」
ウィルさんは少し申し訳なさそうにしていたが、用事を言いつけられるのは別に嫌ではなかった。掃除当番や給食の配膳当番なら小学校の時からやっているし、家庭でも、両親が離婚し母と二人暮らしになってからは、掃除、洗濯、料理、皿洗い、ゴミ出しといった家事はすべて私に丸投げだった。自宅でのこき使われっぷりに比べたら、非常食と防災用品の仕分け、毛布10枚、20枚くらいの洗濯くらいなんてどうってことない。毛布の洗濯は、大型洗濯機でも1回1枚から2枚が限界なのでえらく時間がかかりそうだし、実際夜までかかったが…。問題の洗濯はともかく、防災用品のチェックにはそれほど手間取らなかった。昼食より前には片付いていたので、心配して様子を見に来たはずのウィルさんが驚いていた。
「ありがとう。助かったよ。少ないけどお駄賃」
無地の茶色い封筒と、赤い包み紙にくるまれた板チョコのようなお菓子を渡される。封筒を開けると見たことのないお札が一枚入っていた。隅の方に1000の文字。どうやら私は「1000」のお札と縁があるようだ。向こうの世界で母が置いていく生活費は毎回1000円だった。それはさておき、問題はこのお札が元居た世界の何円くらいに相当するのかわからないこと。まあ、わざわざ前に「少ないけど」をつけるということは、それほど大金ではないということだろう。このお札1枚でどのくらいの物が買えるのかは、後で買い物をする機会があったときに訊いてみることにする。
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