第4話 異世界への道 (3)

 私の足は無意識のうちに歩道橋を渡ると、商店街を突っ切って進み、以前通っていた小学校の方へと向かっていた。薬局の角を曲がって、アパートも兼ねた5階建ての商業ビルの前に出る。ビルの1階にある焼き鳥屋さんは、近所の子どもたち御用達の店で、私も両親が離婚する前は、500円玉を握りしめ、放課後の小腹を満たしに駆け込んだものだった。今はお金がないので滅多に行かない。最後に食べたのは、いつだっただろうか。

 ふと、幼馴染のタカシ君のことを思い出す。彼とは保育園からの付き合いだったが、小学校に上がってからはクラスが違ったこともありほとんど話す機会がなかった。唯一接点ができたのがこの焼き鳥屋さんでだった。4年生のとき、母の恋人と一緒に住むのが嫌で、私は家出を決意した。日が暮れてきて怖いし、雨もぱらつき始めてきたけどどうしようと、公園の屋根付きの砂場にうずくまっていた時、タカシ君がたまたま通りかかり、事情を聴いた後、ねぎ塩の焼き鳥を紙袋のまま、3本ほど差し入れてくれた。それをきっかけにタカシくんのことを意識するようになったのだけれど、思いを伝えるどころか、まともに話もできないうちに卒業の日を迎えてしまった。賢くて勉強もできた彼は、東大への進学実績で定評のある名門私立中学に進んだという噂だったが、元気にしているだろうか。良い意味で「エリート」らしくない気さくな笑顔が目に浮かぶ。彼もみのり同様、私とは違う世界の住人だった。

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