--二つ目--

二人で駆けて落ちる夏


 今よりもうんと小さい頃。

 オレは本家の連中によく泣かされていた。


 わざわざ家族がいない頃合いを見計らって幼気いたいけなクソガキを連れ出して、自分の領土でアレやコレやと教育という名の虐めを繰り返す。


 いや、アレはもはや虐待か。

 表沙汰になれば間違いなく犯罪者として名を残すレベルだ。完全に覚えているわけではないが、それでも少なからず記憶に残っているのが怨めしい。


『なんでこんな事もできないんだ』

『ダメな子ねぇ』

『親も親なら、子も子だな』


 何人もの大きな大人に囲まれて、絶えることのない悪口に晒される。一体何が楽しいのか理解不能だが、奴らは楽しかったのだろう。なんて不愉快な話だ。最終的には親父が烈火のごとく怒りながら駆けつけてくれなかったら、オレの心は冗談抜きで死んでいたかもしれない。


 汐凪本家の連中は嫌いだ。大嫌いだ。


 原因は親父にあると奴らは責任転嫁をしてくるが、そんな訳がない。そもそも小さな子供を勝手に連れ出してあれやこれやする事を是とする時点でイカレている。


 繰り返しになるが、オレは汐凪家は嫌いだ。

 憎んでいると言い換えてもいいかもしれない。


 …………ただ――――――


『晴兎、今日は一緒に遊べる?』


 あんなクソ野郎達の被害に遭っても、なお強く輝いている可愛い従妹の事は嫌いじゃなかった。あいつだけが本家にいる最悪な時間の中でオレの味方だった。

 自分だって辛くて悲しいはずなのに、蔑まれてる誰かを救い上げてくれる女の子。


 上京してからは直接会う機会も極端に減った少女に対して、オレは密かに誓ったのだ。その誓いの内容は――――。



『晴兎』


 内容……は。


『晴兎、起きて』


 ないよ―――。


「あと三秒で起きなかった場合、晴兎を置き去りにして私だけ下りるけど構わないわよね?」

「……もう少し構ってくれると嬉しいな」


 ひとときの眠りから目覚めたため、残った眠気を吹き飛ばすために頭を振る。

 ガタンゴトンと音を立てて揺れる電車内はそこそこに賑やかで、ビーチサンダルと帽子を装備した子供を中心に家族連れが多い。次点は若いカップルか。


「何? 自分がどこにいるかもわからないくらい寝ぼけてるの?」

「んー、どうやらそうらしいな。ってなわけで、どこにいるか思い出すために優しくしてくれると嬉しい」


「何をしろって?」

「お目覚めのチューなんてどうだ」

「……ぅぇ」


 ドン引きしてるのがありありと伝わるリアクションをする真里那。

 夏の暑さに負けないよう車内は冷房が強めに効いているはずなのに、可愛い従妹の視線は身体が凍りつきそうな程にクールだ。


「脳がバグってるのね、ご愁傷さま。あとで病院に行きましょうね」

「残念ながら正常なんだ。行くだけ無駄だな」

「そうね、生まれつきならお医者様も匙を投げるしかないわ」


 隣り合って座る真里那がわざとらしい溜息を吐く。

 イメージ通りすぎる返しに、オレはケラケラと笑ってやった。


 そんなやり取りをしていると、車内アナウンスが流れる。

 聞こえてきた駅名は、降車すべき場所だった。


「よし、降りるか」

「荷物は忘れないようにね」


「子供かオレは」

「中身は永遠に子供なんでしょ? 自分でそう言ってたじゃない」

「待て待て、それは違う。永遠に子供なんじゃなくて、永遠に若者だ。全然意味が違うから間違えてもらっちゃ困る」

「……ものすごくどうでもいいわね」


 続々と降りていく乗客の流れに乗って、オレ達も駅のホームに降り立つ。

 なんとなく、潮の香りが届いた気がした。


「つまらなそうな反応どーも。けどな真里那? もしオレの中身が縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲むおじいちゃんおばあちゃんだったらどう思う」

「それは……イヤだけど」


「だろ? だったらこのまま若くギンギンな状態でいられた方がイイじゃないか。なあ従妹きょうだい

「今の発言、下ネタだったら●すわよ?」

「バイオレンスが過ぎるだろ!?」

「至って当然の反応じゃないかしら。それにコレぐらい言わないと、あなたはまったく気にしないじゃない」

「ああ。さすがは麗しい従妹様だ」


 よーくオレのことをわかってらっしゃる。

 ざっつらいとー。


「気持ちの籠ってないお世辞はいいから。それで、逗子駅に着いた後はバスに乗ればいいのよね?」

「ああ、改札口を出たらすぐ目の前に乗り場がある」

「一色海岸は、この辺りだととても綺麗な海だって情報を見たし。すごい楽しみだわ、どんな感じなのかしら」


 クールぶってはいるが、今回のお出かけを一番楽しみにしているのは間違いなく真里那であろう。前日からウキウキ気分が全身から漂っている。


 本人は気づいてるか知らんが。


 同行しているオレとしては、悪い気はしない。むしろ相方の陽の気に当てられてテンションが上がってるくらいである。


 こんなオレ達は、周囲から仲の良いカップルに見えたりするのだろうか。

 もしそうなら残念だがハズレだ。


 真実はチャラくてスカポンタンな従兄と、

 絶賛家出中のアホ従妹なのだから。


 まあ、そんなことはどうでもいい。

 今はとにかく長い長い夏休みの途中。今日も今日とて、オレは家出娘の気が済むまでお付き合いするだけなのだから。


「お、バスが来たみたいだな」

「行きましょっか」


 どうせなら、楽しまなくっちゃな!

 そう心がけながら、オレ達は海へと一直線に向かうバスに乗り込んでいった。


 ◆◆◆

 

 神奈川県にある一色海岸には『世界の厳選ビーチ100』に選ばれた事がある、プライベートビーチ感ただよう綺麗な海水浴場がある。

 皇族が静養する屋敷の傍にあるこの海水浴場は、美しい砂浜の他に両脇にある磯で遊べるとあって遊ぶにはもってこい。オレも初めて来た時は、お世辞にも美しいとは言えない東京湾からさほど離れてもいない地域にも綺麗な海があるのだなーと、都民に対して失礼な感想を抱いたっけな。


 個人的にこのビーチで「すげえ」と感じたのは、ライフセーバーさんの監視の他に警察官のミニ詰め所みたいなのが設置されてたとこだけど。実際はどうか知らんが安全さにかけてはピカイチではなかろうか。

 こんな場所では犯罪は早々起きない――というかやる気にもならんだろ。


「ま、何にしても自衛は大事なんだけど」

 

 貴重品は海の家のロッカーやらに預けて、パパッと水着に着替えたオレは短時間で砂浜に拠点を作っていた。といってもそんな立派なものではなくレジャーシートを敷いてパラソルを立てた程度のもんだ。

 これで一緒に来ているのが野郎ばかりなら、さっさと海に向かって走って一発ダイブをかますのだが、本日はそうもいかない。


 可愛い従妹を放って遊びに行くような外道ではないのだ、オレは。

 少なくとも今日は!


「だから、できれば早く来てほしい……」


 絶好の遊び場である海を前にして、太陽眩しい砂浜でじりじり焼かれるだけの時間はなんとも勿体ないと感じてしまう。時間は有限、限りある青春の時間は一秒も惜しんで事に当たるべきでありソレを失わせるからにはそれ相応の代償を――――。


 などと。

 めんどくさいことを考えていたところへ、後ろから耳に向かって狙いすましたかのように凛とした声が響いた。



「待った?」



 申し訳なさそうな雰囲気はゼロに近い。

 ただ自然な、余計な飾りっけもない態度だったことだろう。


 しかしそれでも。

 振り向いた瞬間、目の前に立っていた真里那の水着姿は非常に眼福だった。


「スク水じゃないのか」

「変態。こんなビーチにスクール水着で来たら逆に目立ってしょうがないわよ」

「別にスク水じゃなくても目立つだろ。スリングショットとか」

「変態」


 ここまで連続すると、変態呼びもいっそ清々しい。

 まあ本当に真里那が心の底から対象を変態認定していた場合、そもそも無視するか背筋が凍るような氷点下の睨みが飛んでくる。だから今は大分マシな方だ。


 思うに、変態呼ばわりはコイツなりの照れ隠しなのだろう。

 ハッハッハ、愛い奴め。


「うわ、気持ちわる」

「オレのガラスなハートが砕け散るから止めい。あー、それとな真里那」

「なによ」



「可愛いぞ。似合ってる」



 素直に思った感想を口にすると、ほんのり真里那が頬を染めながら「ありがと」と返してきた。ついでに「晴兎はセンスは無いのに褒めるのは上手いのね」なんて付け加えてもきた余計なお世話だコノヤロー。


「オレのようなセンスの塊に向かってなんて暴言を吐くんだ、後悔するぞ」

「だって……“俺の海パン!”なんてプリントが最悪レベルでクソダサイし」

「クックックッ、イイだろー? 知り合いに貰ったんだ」

「嫌がらせじゃない、よね?」


 ちげえよ純粋な善意だよ。多分。


「でも役に立つかもね。そんな水着の人がいるところに気軽に近づいてくる人は少ないだろうから」

「いやいや、むしろ興味津々で声をかけてくるかもしれないぞ。その水着、どこで売ってるんですかってな」

「来ないって。もしそう言ってくるようなら絶対にからかってるわよ」


「来る」

「来ない」

「来る」

「来ない」

「来――」

「はいはい、分かった分かりました。私の負けでいいからどうでもいい論争は終わりにして、行こ」

「ナマ言ってごめんなさいは?」

「波打ち際で首まで沈めて欲しいなら承るわよ」


 それは半分本気の目だった。

 なので遠慮なくオレはこの論争たたかいを終わらせる。


「ほらほら、いっぱい泳ぐんだから。早く早く!」

「へいへい。あんまり急かすなよ、はちきれんばかりのビキニの胸元がポロリしても知らんぞー」

「しないわよ、ばーか」


 変態に続いてバカときた。

 だがその口調は柔らかいもので、罵倒にしてはとても優しいものだ。ゾクゾクとはしないが悪い気分ではない。


「うっし、いっちょ泳ぐかぁ」


 水泳好きな従妹になるべく付き合えるよう気合を入れて、オレは先に駆けだした真里那の後に続いて海へと飛び込んでいった。


 ◆◆◆


 防水仕様の時計なんぞ持ってきていないため、何分泳いだかは分からない。

 体感だと最低1時間。

 それ以上だとしてもなーんも不思議ではない。つまりは、そう感じる程度には泳ぎまくったはずだ。


「ちょっと晴兎。泳ぐスピードが落ちてるけど調子でも悪いの?」

「……お前が絶好調すぎるだけだっつーの」


 大分息の上がってしまった俺は、仰向けでぷかぷかと浮きながら体力回復状態に入っていた。一方で真里那にはまだまだ余力があるようで、疲れた気配すら微塵もない。


「何それ。都会の生活でなまってるんじゃない?」

「夏バテって事にしとくと平和だぞ。誰かさんの水中体力がゴリラだとバレずに済む」

「へえ~? じゃあそのゴリラの握力を体感してみる? 安心して、案外握力はそんなに強くないから」

「お、お前なんて恐ろしいことを……男の急所たるチンとタマを握りつぶすとか」


「もしもしおまわりさーん? 今、海の上で卑猥な物を握らせようとしてる男がいまーす」

「ほんとに来たら怖いから止めれ」

「バカなことばっかり言ってると、いつかほんとに捕まるわよ」


「大丈夫だ」

「何がよ」

「セーフな相手を選ぶ」

「こら。私だってアウトよあ・う・と」


 本当にアウトな奴は、そんな面白がるような素振りは見せないもんだ。

 とはいえ親しき仲にもなんとやら。今回はこの辺にしておこう。


「休憩がてら、海の家でなんか食おーか」

「私は焼きそばがいいわ」

「ああ、オレも同じ気持ちだよ。じゃ、早速戻って――」


 身体を向きを変えて陸地へ行こうとしたその時。

 

「ん?」


 太陽サンサンな青空が、唐突に曇っていくのが分かった。

 確か今日の天気は晴れ時々曇りではあったが、それにしたって雲行きが怪しい。雨が降り出すわけでもなさそうだがコレは……?


 そんなオレの疑問をふっ飛ばしたのは、海水浴場全域に響く放送だ。

 浜からそこそこ離れた位置にいたオレ達にも内容はハッキリと伝わった。


 要約すると。


『急に濃い霧が発生したため、浜に上がってください。なお一時的に遊泳を禁止とします(※霧が晴れるまで)』だそうだ。


「………………」

「真里那、睨むな睨むな」


 さっきまで超楽しそうにしていた従妹様だったが、今この瞬間からその表情は大変ご立腹そうな仏頂面へと変貌を遂げたのだった。

 

 いやはや、夏の海でも濃霧って発生するもんなんだな。

 一つ余計な知識が増えたわ。


 同時に、

 オレの次なるミッションが『真里那の不機嫌っぷりをどうにかせよ!』に変わったわけだが。



 ◆◆◆



「泳ぎ足りない」

「だな」


「……磯でも遊びたかった」

「泳ぐのとは別の楽しさがあるからな。あ、焼きそばはどうする?」


「……いらない」

「そっか。まあ、霧が出てる浜辺で食うのもなんだよなぁ」



 こんな感じのやり取りを何度か繰り返したが。

 結局すぐに霧が晴れることは無さそうだったため、本日の海水浴は大変残念ながらの早期撤退と相成ってしまった。


 海水浴場から駅に戻るバスに乗っている間。

 真里那はとても怨めしそうな目で過ぎてゆく海岸線を見送っていて、気軽に声をかけるのも難しい。というか迂闊に話しかけたらとばっちりが飛んできそうで怖ぇ。

 だがあまり放置したらしたで後が怖いため、オレは今か後かの違いだけかもしれないという最悪な二択を迫られているわけで。



 結局は、『今』を選んだ。



「よし! こうなりゃしゃあ無いからな、気持ちを切り替えるぞ」

「……どうやって?」


「海水浴がダメになっても、遊ぶ方法なんざ無数にあるってことだよ」

「??」

「このまま繰り出すぞ! 神奈川で有数の名所にな」

 

 駅前に到着する前にそう切り出して、オレ達は素早く次なる目的地へ向かった。

 その辺に設置されていたパンフレットを片手に、どこそこに行こうと相談しながらの弾丸ツアーの始まりである。


「さあ、いざゆくぞ銀河鉄道!」

「……宇宙にでも行きたいの?」


 ◆◆◆


 テンションアゲアゲで電車移動することしばし。

 鈍行と特急電車を乗り継ぎながら向かった先で待っていたのは……。


「着いたぜ箱根ふぉうーーーー!!」


 とても有名な温泉地かつ観光地でもある箱根だ!!


「って、ちょっと待ちなさいよチャラ従兄」

「なんだい家出従妹」


 薄手のシャツとミニスカートな少女に顔を向ける。


「なんで箱根? あの海水浴場から近くの観光地だったら鎌倉や江の島があったじゃない。あっちの方が断然近いわよ」

「そこをあえて一歩先まで行ってみるのが楽しいんだろうが。実際どうだ? 鎌倉や江の島だと思ってたら実は箱根でした~はサプライズになっただろ」

「それは……まぁ」


 まんざらでも無さそうな従妹の様子にオレ氏ガッツポーズ。予想の斜め上というのは上手にやれば喜んでもらえるもんなのである。


 ……ま、それ以外にもちょ~っとだけ“理由”はあるんだが。

 ココであえて真里那に教えることはない。オレが偶に気にかければいいだけの話なのだから。


 電車を降りた人の流れに沿って歩きながら、隣でパンフレットを眺めている真里那のワクワク顔を覗き込む。うんまぁ、ひとまず不満ではなさそうで何よりだ。


「どこか行ってみたい場所はあったか?」

「んー、どうせなら有名なとこには行ってみたいけど……。箱根って何が有名なの? 一番は温泉よね」

「色々あるぞ。温泉って一口に行っても場所や種類もたくさんだし、日帰り入浴もあっちこっちにある」


 テレビの旅番組や名物・名所探しで放送される回数だって半端ではない。箱根自体は昔からある観光地なためノスタルジィあふれる老舗もあるが、同じくらい新しく出展する店舗もある。その目新しさが生まれる度に、紹介・宣伝がされるわけで、さぞ話のタネには尽きないことだろう。


「季節によっても見どころは変わるんだ。春は桜やツツジ、夏はあじさいに花火、秋はススキに紅葉狩り、冬は雪景色ってな」

「風情があるのね。……というか随分詳しいじゃない、そんなに何回も来てるの?」


「東京都心部から近くにある温泉地なんでね。気軽に来れるんだ」

「ふーん……一体誰と何の目的で来たのか教えてもらえるのかしら? さぞ色んな都会の女と楽しんだんでしょうね」

「そりゃもうしっぽりと過ごしましたとも」

「いつか刺されたらこう証言してあげるわ。『いつかああなると思ってました』ってね」

「はっはっはっ、魅力たっぷりな従兄で済まんなぁ。嫉妬するお前も可愛いZE☆」


「……………………」

「その“うわぁ、うっざっ”とビシバシ伝わってくるジト目は止せ。癖になったらどうするんだ」

「もう手遅れでしょ」

「さよか。そんなことより大したもん食べてないし腹減ったろ? 駅前の商店街で何か食べようぜ」


 露骨な話題逸らしと受け取られたかもしれんが、真里那から拒否の言葉はない。むしろお腹から小さな同意の音が聞こえたぐらいだ。


「……何が美味しい?」

「食べ歩くならスイーツで饅頭・タルト・プリン・煎餅。もう少し腹にたまる物だとカマボコや串物、あとはカレーパン」

「たくさんあるのねぇ」

「まあな。で、どうだ? せっかくだから目についた物片っ端から行ってみるか?」

「もう、そんなに入らないわよ。……でも、許されるなら食べ歩きしてみたい、かな」


 髪の毛先をいぢりつつ、ぽそっとわずかな欲求が飛び出す。

 そこには憧れを越えた羨望のようなものがあった。


 汐凪家は厳粛なお家であり外面を非常に気にするため、真里那は学生生活において買い食いもロクに出来なかったはずだ。そんなことすら体験できない環境には憤慨しかない。


 だがしかし!

 今この場でそんなことすら『許さん』とほざく輩は存在しない。

 許す許さないも無く、真里那はやりたいようにやればいいのだ。そしてオレはその欲望を叶えてやりたい。


 なのであえて強調する。


「いいぞ、いっぱい食え」

「だからそんなに入らないっていうのに」

「特殊能力・甘いものは別腹を使えばいいだろ。どうせならオレが“もう勘弁してください”って泣きそうになるぐらい堪能しちゃえよ」


「あら、言ったわね? 言質とったから遠慮なんてしないわよ?」

「望むところだ」


「ふふふっ、そしたらまずはオススメのお店に案内して。涼しいとなお良いわ。さっきから暑くて暑くて」

「任せておけい」


 自信たっぷりに駅前へ飛びだし、商店街を散策する。

 その間、真里那はお腹の虫が満足するまで色んなものを食べ続け……。


「あー、太っちゃうわーコレは。絶対に太っちゃう」

「そう言いながらもめちゃくちゃご満悦そうだな」

「だって美味しいんだもの」

「さよか」


「晴兎は太った私でも愛してくれる?」

「なんだそのめんどくさい質問は。だがあえて答えよう、答えはイエスだ。なんでオレにも一口くれ」

「新しいの頼めば?」

「もうそんなに入んねえよ。だから一口」


「はいはい、ほらあ~~~~~、んっ♪ 美味しい♡」


 ご当地ソフトクリームをオレに食わせると見せかけてやっぱり自分が食うフェイントを使う真里那は、してやったり顔だ。


「おまえ……」

「ふふっ、冗談よ冗談。ほら、好きなだけ食べていいから」

「太ったオレでも愛してくれるか?」

「ええー、どうしようかしら…………」


 からかうように悩んでみせる。

 いつの間にこの従妹様はこんな悪そうな女になったのだろうか。


 うんまぁ……大体は悪い事(※本家基準で)ばっか教えてるオレのせいか。





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