緊急反省会。
「……エス、座って」
「はい」
試射が終わったエスは、ヘルに言われるがままに椅子に座らせる。特にヘルがこの一週間で一番真剣な表情をしているために、場の空気は重い、
「……急遽、反省会をしたいと思います」
「はい……」
「……正直、必要な時に必要な機能を引き出すっていうのは悪くないと思ってた」
「そこは俺もどうしようかと考えたけど、機能が多くいからキーに任せてたんだ」
エスに搭載されている機能は、彼が自分で何を装備しているか、どんな能力があるかを探すにはあまりにも多くて複雑なせいで、一つずつ試すのは大変である。なので困った時にサポート用人工知能であキーに聞くことで解決しようとしていた。
「……だけど、今回の事でわかった、最低限試すものは試さないとダメ」
「そうだな……」
命の危険を後になって知らされたヘルの力説に、エスに反論する余地はない。
「……ということでだよ、キーに何を持ってるか聞かないと、あと魔導剣の方も」
「魔導剣の方は実際使ったし良いんじゃないか?」
「……念のため、だって実は切ったら爆発するとか言われそうだもん」
「いやいや、さすがにそんな機能は無いって……」
エスは「多分」と小さく最後に呟く。彼自身未知の部分が多いので、自分の機能に対して何一つ自信をもって言えることがないからだ。
「……本当はキーと直接話せればいいんだけど……無理だよね?」
「さすがに、俺の口から喋ることはできるかも知れないけど」
【可能です】
「すまん、できるらしい」
「……ほらぁ」
ヘルが呆れたように脱力してうなだれる。とりあえずヘルが立ち直るまでの間にキーを喋れるようにした方がいいだろうとエスは判断する。
(それで、どうやって外部とコンタクトするんだ?)
【マスターが基地から持ち出した小物中に、私の遠隔ユニットがあります】
(そういや、持ち出せそうなものは持って行ってたな……)
エスが基地から魔水晶を持ち出す時、よくわからない小物の機械も何個か入るからという理由で持ち出していた。その中にキーが外で会話できる為の小型の機械があったらしい。
(……どれだ?)
ただ機械があるとわかっていても、それがエスにはどの機械なのかわからないので取り出すのに苦労する。
【こちらです】
腰の次元収納スペースに手を入れているエスに、丸いボールのような機械が触れる。
(ありがと……よし)
それをエスは取り出して、机の上に壊れるかもしれないのでゆっくりと置いた。
「……これが、キー?」
「キーが外で喋るためのユニットだよ。本体は俺の中にいる」
「……へぇー、短いけどテレパス系の魔術みたい」
魔法みたいと言われたが、これは科学の産物であり、仕組みとしては電波通信によってこの小さなユニットとエスを繋げている。ただそういった仕組みを知らないヘルにとっては、科学と魔法の区別がつかないのも無理もないだろう。
もっとも、動力は魔水晶が発している魔力によるものなので、魔力を使っているから魔法と言われればそうなのかも知れない。
【初めましてヘル様、そしてニコ様、よろしくお願い致します】
「初めましてっ!」
「……直接会うのは始めてだね、よろしく」
キーの外部ユニットは白くて丸いボールにカメラがついているだけのシンプルなもので、その場で転がるぐらいしか出来ないようだが、喋るだけなのでこれで十分だ。
【では、早速ですが一ついいでしょうか】
「……うん、聞かせて」
【先程の、魔導剣の爆発機能ですが、可能です】
その瞬間、キーとコンタクト出来たことでにこやかになっていたヘルの表情が再び凍りつき、エスは気まずさで目をそらした。
「……ねぇキー、もしレッドホーンの時、爆発させてたら、私死んでた?」
【死亡率は高くありませんが、可能性は存在しました】
「……あはは、ほらぁ!!」
ヘルは叫ぶように大きく椅子の背もたれに体重を預けて背中をそらして天を仰ぐ。
「……やだよぉ、味方の攻撃で死にたくない……」
【安心してください、そのような場合こちらで静止します】
「……お願い、本当にお願いね、キー」
疲弊が混じらせながら、ヘルはキーに懇願する。こうなってくると既に二回ほどキーにヘルは命をエスから救われている形になっており、今後の旅の安全もかなりこの人工知能に依存している事になる。
「……こんなの……魔物の隣より危険だよぉ」
「いやぁ、さすがにそこまでは」
「そこまでだよ!!」
エスはヘルに怒鳴られて冷や汗をかきながらどうにかなだめようとするが、自分が原因ではあるのでどう言おうとも説得力はない。
「……魔導剣って他に効果はあるの?」
【はい、あの時の
「……待った」
再びヘルは天を仰ぐ。
「……とりあえず、沢山聞きたいことはあるけど、五パーセントって知ってた?」
「いや、正直俺はあれが通常の出力だって思ってたが」
「……そっかー、それは良いんだけど、もし、その通常出力だとどうなってた?」
【通常出力を五十パーセントと仮定しますと、攻撃時に周囲に発生する余波による熱で、ヘル様に深刻な
熱傷とはいわゆる
「……わかった、今決めた、今後暫くは特別な必要がないなら、攻撃の出力は全部、キーに任せるようにしよう、ね?」
「わかっ……わかりました」
若干涙目になりながら必死に訴えるヘルに、思わずエスも口調が丁寧になった。実際自分ではまだ威力の制御もできないので、キーが調節してくれるのは助かるので最初から反対する気もないのだが。
【かしこまりました、指定があるまでは自動で調整します……ただ注意が】
「……なにかな?」
【私はあくまでもマスターに付属するシステムであり、サポートするために作り出された性能でしかありません、どれだけ権限を与えようとも選択するのはマスターや、マスターが許可した貴方達のような者達のみです、私はサポートしかできません】
「……そうなの? 自分で動こうとしないの?」
【そのような行動は許可されておりません】
「……したいとか、思わないの?」
【はい、過度に自立した行動はシステムから逸脱しております】
「……もし私とエスが許可しても?」
【仰ることが理解できかねます、私はサポート用AIです】
エスはある程度AIやロボットが創作などで広く知られた時代の人間だから、ロボットがしてはいけない原則などの概念や、それが破られてロボットが人類に反逆したという作品が数多くあるせいで、この原則がシステムとして決められたものだとよく理解できた。
しかし、ヘルはそんな物は知らないし、ある程度学習して言葉で答えるこのシステムをどうしても人格があると捉えてしまい、自由が欲しくないのかと考えてしまう。
(そういう優しいとこはいいけど、AIなんて知らないもんな……)
「ヘス、これは……」
だがこれはただのシステムに過ぎないと理解しているエスでさえ『これは人間が作った道具』として説明するのは何故か抵抗があった。
「……エス?」
「いや、今はこのままでいい、もうちょっと時間が必要だよ、ヘルにも……俺にも」
「……わかった」
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