三度目の野宿。
「今日の夕食はシンプルに白身魚のフライと、揚げ野菜にしてみました」
「……ありがとう、じゃあ食べよっか」
今日は風も強くないので、馬車の中ではなく外にテーブルを作って食事をする。
「……なんか夜でも落ち着けて食事できるのっていいね」
「あぁ、最初にコルケに行ったのは正解だった」
本当は魔物が住む山の中ではあるし、何か異変があるのは確かである。なのでゆっくりとテーブルを出して椅子に座って食事を取らないという判断もできるのだが、魔物が疲弊するまで逃げて来なければいけないという事や、エスの探知に何も引っかからなかったことを考慮してゆっくりと食事を取ることにした。逃げなければならないのなら、椅子や机は置いて逃げればいい。
「それにしても静かだな」
「……うん、静か過ぎる、本当に探知に何もないんだよね?」
「あぁ、念のためキーに他の探知機能は教えてもらったし、今も調べて貰ってるけど、何の適正反応も見られない」
エスがキーに教えて貰えた探知系の機能は三つ。
・
・生体感知システム
・レーダーシステム
このうち一番エスが信頼しているのは、
生体感知システムは、魔力が少ない、もしくは持たないような生き物の感知システムだそうで生体が発する微量の赤外線や、筋肉が動いた時の神経の動きから出る電波を感知するシステムで、赤外線を利用しているらしい。
最後のレーダーシステムはマイクロ波を小刻みで発射して、なにか物にぶつかれば返ってくるのを利用している。コウモリが音を出してその反射で洞窟の形を知るのと似たような仕組みだ。
この三つのシステムで一番汎用性が高いのは
生体感知は高精度なのはいいけど、敏感過ぎて常時起動するのには向いていないし、範囲も数メートルに絞られるので今はオフにしている。
レーダーシステムは数十キロに及ぶ超広範囲なのが利点ではあるが、遮蔽物の影響が大きすぎるので、今みたいな森の中では使いにくい。このレーダーが役に立つのは見晴らしのいい場所か、海の上だろう。
「ここからでもザントは見えるんですねっ!」
「街の明かりのおかげだな」
最新鋭の技術を持っているエス、それでもやはり一番馴染みのある探知システムは目視なのだ。自分の目で見て確認する、元が人間であるのだから、コレが一番安心できる情報だと彼は思う。
「こう見ると結構高くまで登ってきたんだな」
「……そうだね、五百メートルぐらいって言ってたから、意外と一番高いところはもうすぐなのかもね」
「……そうだ、思い出した」
ヘルは唐突にエスの右腕を触って、揉むように確かめる。
「ヘル?」
「……後でこれ、きちんと確認しないと、だね」
「これって?」
「……撃てなかったんでしょ、攻撃」
レッドホーンとの戦いの時、彼は魔導砲を撃とうとしたが
「ヘルを巻き込むって警告が出てな、剣に切り替えた」
「……その判断は良いけど、根本的に撃とうとして撃てなかった時間……あれ、私じゃなきゃ、普通の二等クラスの前衛だったら……死んでたよ?」
ヘルの言う通りだ。。
「封印か、魔導砲は」
「……なんで?」
「咄嗟に使えなかった兵器は信用できないだろ」
「……だったら、信用できるようにテストすればいいんだよ」
ヘルは崖の外、海の方向を指差す。
「……あっちなら、世界を一周しなきゃ人は居ないから撃っても大丈夫」
「試し撃ちか、だがエネルギーの空撃ちになるぞ?」
ヘルはエスの言葉を聞いて、静かに首を横にふる。
「……あのね、たしかにここで撃ったら、エスの寿命は一日減るよ、でもこの機能が使えないまま魔物に殺されたら、一日どころじゃないんだよ?」
「すまない、ヘルの言うとおりだよ」
エスは魔導砲を使うために、右手首を変形させて海の向こう、水平線の方向へ狙いをつける。
「とりあえず百パーセントで撃つ必要はないよな?」
「……一旦十パーセントでもいいかも、百ならその十倍って感じだし」
「なるほどな……キー、出力十パーセントで」
【了解です、魔導砲出力十パーセント、いつでも撃てます】
全力だと味方を巻き込むほど強力な武装、ただそれは単純に着弾した時の衝撃が強いせいだとか、撃ったエネルギー弾の幅が広いからであって、実際の威力には期待していない訳では無いが、アンチマテリアルライフルぐらいあればいいだろうと思っていた。
(アンチマテリアルライフルの十分の一でも、拳銃ぐらいの威力があってくれれば)
「じゃあ撃つよ」
「……うん」
エスが力を込めて魔導砲にエネルギーを込め、解き放つ事をイメージして撃つ。
ズゴォォォォンッッッ!!!!!
放たれたエネルギー出できた銃弾は、一瞬で水平線を超えていく。弾が通った後の軌道は電気が帯電したように、青い魔力が暫く弾け続け、エネルギー攻撃なのに撃った衝撃を肌でビリッと感じる。
「マジか…………」
三人とも、暫く呆然としてエネルギーが向かった先をただ眺め続け、数十秒してからようやくエスがボソりと呟く。
「……ねぇ、エス」
「なんだ、ヘル?」
「……あの時、止めてくれてたのってじんこーちのー、えっと、キーだよね?」
ヘルが言うあの時とは、エスがレッドホーンを撃とうとした時だ。
「あぁ、巻き込むから全力で撃つなと……」
「……そっか、キーって私の声聞こえるの?」
【はい、エス様が得た情報は私にも共用されております】
「聞こえてるよ」
「……そっか、じゃあ返事はできないかも知れないけど、一言言わせて、ね?」
ヘルはゆっくりとエスに近づいて、彼女より身長の高いエスの両肩に手を載せて、潤んだ目で見上げながら、少し震える声でこういった。
「……キー……ありがとう……この世間知らず止めてくれて……」
その言葉は、今までのヘルで一番感情を顔に出したものだった。
【例には及びません、今後も当機の制御の方は、お任せください】
「例には及ばない、だってさ」
「……うん、ごめん、ありがと」
ヘルはゆっくりと脱力するようにエスの肩から手をおろしてその場に座り込む。
「いや……ヘルの言うとおりだったな、試すべきだ」
「……何が怖いってさ、キーがいなかったらこの十倍の攻撃を……あのレッドホーンと一緒に私が受けてたんだなって思うと……」
この十倍の威力となるとレッドホーンはおろか、一緒にいたヘルも一緒に虚空へと消え去って塵も残っていなかっただろうし。
「明らかに威力が高すぎる……全力で撃つのは封印だな」
「……そうしてね、そんなの撃ったら周りがどうなるかわかんないんだし」
軽く撃っただけでも反動があったのだから、十倍となるとヘルはともかくニコは空を舞っていたかもしれない。少なくとも軽い気持ちで使うものではないだろう。
「これなら五パーセントでも十分そうだしな……にしても」
エスは次の言葉を言おうか一瞬悩んだが、この考えを共有したほうが良いと思ったので敢えて口にする。
「先史文明は何を考えて……いや、何を想定してこんな武装作ったんだろうな……」
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