レッドホーン討伐戦(3)

「無事倒せたんですねっ! ってデカッ!?」


 先頭を遠くから見ておりエス達がレッドホーンを倒したと判断し、馬車と共に戻ってきたニコはその獲物の大きさに驚きの声をあげる。


「うわぁ……よく倒せましたねっ!」

「……運が良かっただけ、こんな行き当たりばったりな事、次はしちゃダメ」

「そうだな、この剣だって出たとこ勝負だったわけだし」


 実際戦闘時間は短かったが、実際はいつやられてもおかしくない、薄氷の上の勝利であったのだ、反省点が多すぎて大物を狩りはしたが素直に喜べはしない。


「と、とりあえずこのレッドホーン馬車に載せちゃいますねっ!」

「……うん、そうしよっか」


 ヘルとニコが馬車から道具を取り出して、レッドホーンを荷台に乗るように解体しようとし始める、特にニコは牧場出身なので解体には自信があるようだった……のだが。


「んー、これは難しいですね、このままギルドに持っていくしかないかもです」

「……頭は保存庫に入れれるけど、胴体は頑張って入れるしかない……かな」


 その頭も保管庫にそのまま入れると角のせいでかなりスペースを取ってしまうので、なんとかしないといけないと考える女性二人。


「どうかしたのか?」

「いえ、さすがにこの巨体だと解体しないと馬車に乗せれないんですが……」


 ニコは首の切断面から内側にナイフを入れ、引きながら皮を切断しようとしたのだが、レッドホーンの革が頑丈過ぎて刃が通らないようだ、


「……脚も全部ダメ、筋肉が硬すぎてまともに切れない」

「なるほどな、頑丈過ぎるのかコイツは」


 ヘルにはトライで買った上質なナイフがあり足首の皮は切れるのだが、切断するとなると難しいようだ。


「ヘル様、そのナイフお貸しいただいてもよろしいでしょうかっ!」

「……うん、いいよやってみて」


 ヘルのナイフを使ったニコは、もう一度首からナイフを入れていく。

「そうですねぇ、このナイフなら解体できますけど、時間かかりますし、馬車に乗せてギルドで解体したほうが良いですね、涼しいですし」


「……じゃあそうしよっか」

 とは言えこれだけの巨体ともなると馬車に入れるのだって大変だ。


「……どうやって入れようか?」

「引きずるのはもったいないですしね、応援を呼びますか?」

「……それが一番良いかも」


 通常のレッドホーンですら体重は五百キログラムはある、その三倍大きいこの特異個体ならば体重は一トン半はあるだろう。


「というか馬車に乗せても大丈夫なのか?」

「それは大丈夫です、さすがに重いので平地だけですが、ホーなら街まで運べます」

「なるほどな……」


 エスはレッドホーンの腹下に手を入れて、ゆっくりと腰から立ち上がる様に持ち上げようとしてみる。

「……エス、無理だよ一人でそん……な?」


 エスも戦う前であるならば、このレッドホーンを持ち上げることなど無理だと決めつけていただろう。だがレッドホーンの攻撃を後ろに飛んで逃げた時、自分のこの機械の身体は予想以上に性能が高いというのを理解していた。


「持ち上がったぞ……」

 なのでレッドホーンを持ち上げれる可能性が高いと考えていた。


「……うそ、そんなにパワーがあるなんて」

「俺でもびっくりだけどな、生身の頃の百倍は持てそうだ」


 そうは言っているが、エスの視界は薄く黄色の枠が出ており、重量制限が近いことを示す警報が出ており、脳内ではキーが【重量制限の七十五パーセンとです】と注意を促していたので、そう長く持ち続けるのは危険なようだ。


「とりあえず馬車に乗せるぞ……!」

「……うん、お願い」


 エスは馬車の中にレッドホーンを詰め込んで、残ったスペースを半身を馬車から出るような状態でエスとヘルの二人が馬車に乗る。


「しっかり捕まってますかっ!」

「……大丈夫だよ」

「こっちも平気だ、出発してくれ」

「了解ですっ!」


 重い荷物を載せた馬車が、ゆっくりと動き始める。

「おい、本当に大丈夫か?」

「大丈夫です、動き出しこそ遅いですけど、動き始めれば」


 ニコの言う通りだ、ホーは最初こそゆっくりと動き始めたが、少しずつスピードを上げ始め、平時と同じとは言わないが半分ぐらいのスピードで走っている。


「スピードが乗れば負担が軽くなるんですよ、その分加速するまでがキツイんですが……ホーなら大丈夫だよねっ!」

「ヒヒンッ!!」


 ホーはニコの問いかけに答えるように大きくいなないて、更にスピードを上げる。

「あっ! ダメですよホー、スピード出し過ぎちゃ……もう」


 どうやらニコの呼びかけに答えようとホーはやる気を出してしまったようだ。

「ま、これぐらいの速度なら平気です」

 ホーが元気よく走るのを、ニコは笑顔で見守った。



 ザントに着いたのは昼になってから、エス達の姿を確認すると、検問の魚人兵士達はそこで待っていろと伝えてから、急いで誰かを呼びに行く。


「誰を呼びに行ったんですかね」

「ウオントじゃないか?」

「え、お偉いさんがわざわざ出迎えなんて……ってホントだっ!?」


 検問所にある待機所からウオントが出てきてニコは驚くが、実はエスもヘルもこうなるかも知れない事はなんとなく予想していた。


「……お疲れ様です」

 ウオントが出てきたので、エスとヘルも馬車を降りて挨拶する。


「首尾はどうだ?」

「無事討伐できました、獲物は後ろに積んであります」

「なに……?」


 ウオントはこんなに早く討伐したのは予想外だったらしく、疑いながらも馬車の中身を見て、積んである巨大なレッドホーンを見て驚嘆の声を漏らす。


「ほぉ……これは驚いたぞ旅人、これはこちらで引き取っても良いか?」

「……お望みとあらば、ただ取り出すのは、大変なのでご注意ください」

「あいわかった、おい兵隊長、用意していた者を呼んでこい」

 兵隊長は敬礼し、走りながら検問所の中に入っていく。


「どうやら、過小評価し過ぎたみたいだな、昨日の事は改めて詫びよう」

「……いえ、こちらこそご足労いただきありがとうございます」

「にしてもだ、よくぞ二人で倒せたものだ……しかもこれだけ早く」

「……幸運だっただけですよ」


 兵隊長が鎧を来た兵士をかなり連れてきて、レッドホーンをロープで縛り引きずり出すかのように強引に自分達の荷車へと移そうとする。


「まったく、勇士を集めたのが無駄になったな」

「やっぱり討伐隊を作るご予定だったんですね」

「うむ、そちの言う通りだ、一等級では足らぬ可能性があると組合に指摘されてな、私も同じ見解だった故、偵察だけで戻ってくると予想し兵を集めさせたのだがな」


 陸上の戦闘が苦手な魚人だが、陸上で戦えないわけではないようで、とにかく人数を集めて犠牲覚悟で討伐できないかと考えていたようだ。


「透明になったのか、やはり」

「えぇ、自分だけは見えたのでなんとかなりましたが……」

「感謝する、ならば何人は犠牲になったであろうからな、私ならば」

「そんなこんなに強そうな兵がいるんですかれ……」

「いや、私の見立てなら半数は負傷していただろうよ」


 エスの言葉にウオントは首を振りながら答える。自国の兵士を知り尽くしているウオントがそう見立てたのだから、半数の負傷というのも正しいのだろう。


「この街にはどのくらい泊まっていくのだ?」

「……明日には旅立とうかと」

「ならば宿代は私が出そう、食事代もだ」

「……いいんですか?」

「ははは、それぐらい私個人でいくらでもできるさ、第一王子を信じたまえよ」


 ウオントはそう言って笑いながら検問所へ入って行った。

「あの人、王子様だったのか……」

「……粗相しなくてよかったぁ……」


 目の前で話していたのが予想以上に大物だったと知って、エスとヘルは脱力したのだった。

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