動物王国コルケ(4)
「お雇いいただけるんですかっ!」
「うん、ただ三時間じゃなくて一日でお願いしたいんだけど」
「了解です、お値段は銀貨十枚ですがいいですか?」
三時間銀貨五枚の値段設定に対し、一日で銀貨十枚ならば破格の値段設定と言える。
「前払いでいいよね」
「ありがとうございますっ!」
本来ならば少しは疑ったほうがいい値段設定にも思えるが、昨日のうちに決めていたのもあって、若干の違和感はありはしたが、ヘルが銀貨十枚を支払う。
「それでは、観光案内ですねっ!」
「うん、それと馬車を書いたいんだけど良いお店はあるかい?」
「あー馬車ですかー……ありますよー!」
一瞬彼女は暗い表情を見せたが、スグに笑顔に戻る。
「……事情があるのかな?」
「あるんじゃない、まあでも案内はしてくれるみたいだし」
敢えて気にしないでおこう、そういう意図がエスにはあった。
「……そうだね、とりあえず観光を楽しもっか」
ヘルにもその意図は伝わったので、何も気づかなかったフリをして、案内をする元気な彼女の後ろを歩いていく。
「この国は広いんですけど、人口は少なくてですねー、とりあえず移動手段は何にしましょうか、馬車と牛車が選べますし、もちろん徒歩でもいいですけど、ほんっとうにこの国広いので、あんまり徒歩はオススメしないですがっ!」
確かにこの国は昨日宿屋で見た景色を考えてもかなり広い。少なくとも反対側の壁が大通りならば見えていたトライの二倍、いや三倍以上はあると見ていいだろう。
「馬車でいいよ、牛は遅いから」
「了解です、ではこちらにどうぞ」
彼女に連れられて向かったのは昨日食事を買いに訪れた牧場の小屋。
「ここで馬車も雇えるんだ」
「はい、ここは一番門に近い農場なので色々兼業させられてるんですよっ!」
牧場の敷地内に入ると、昨日弁当を売っていたオジサンが土を払いながらゆっくりと小屋から歩いて出てくる。
「どうした、なんか用事か?」
「はい、いつものようにレンタル馬車を一台お願いします」
「はいよ、料金は銀貨一枚ね」
この料金もヘルが支払うと、ガイドの少女が「待っててくださいねっ!」と言い小屋に向かい、暫くしてから馬車を運転しながら小屋から出てくる。
「……運転できたんだ」
「はい、あ、案内料金に運転料は込みなので御安心をっ!」
「……わかったよ」
サービスが良すぎて疑いたくなるが、この少女の笑顔は疑いたくない。
「では出発しますねっ!」
二人が馬車に乗り込むと、あまり揺らさないようにゆっくりと馬は進み始める。
「安いんだな、馬車も」
「はい、ちょっと安すぎて疑われる方もいらっしゃるんですけどね」
それはヘルの事だなとエスはヘルを見ると、彼女はぷいっと視線をそらす。
「ちょっとした仕組みがありまして、この国の馬を売り込むって目的があるのとですね、馬とか牛とか、あとはペットとかの動物を売ってる稼ぎがメインなので、こういうのはオマケみたいな扱いなんですよ」
「これも広告で体験してもらう為に安いのか……弁当と一緒で」
「はい、大人しくていい馬で、スピードもある、観光で常用してても怪我も少ない、どうですかーって感じです」
確かに今この馬車を引いている馬は本来ならば引退してても、おかしくないぐらい老齢の様に見える。しかしそんな見た目によらず、この馬車を引っ張るのをまるで意に介していないぐらい力強い。
「なるほどな、確かに売り込みには丁度いい」
「……これ、普通の馬じゃないよね」
「そうなのか?」
「……だって、強すぎるもん」
この馬車は大きな荷台に雨風を避けれる頑丈な革でできたテントを楕円形に貼ったもので、人が二人並んで座れるぐらいの大きな横幅に、ある程度物資を運べるように奥行きも深く、出入り口は絹の布で閉じて荷物を雨風から守れるようなもの、つまりはキャラバンなどで使うようの馬車であり、左右並べば八人までは乗せれる。
「……普通の馬なら最低二頭ぐらい必要だよね」
「その通りです、よくご存知ですねっ!」
年老いてまで普通の馬の二倍強いとなれば、ヘルが注目するのも当然だろう。
「この馬は国の特産品でして、実は馬の魔物を定期的に混血させてるんですよ」
「魔物とのハーフなのか?」
「はい、ですが御安心を、ノウハウはきちんとしてますので勝手に暴れませんから」
確かに少女に命令されても馬は暴れる様子はなく、落ち着いて歩いている。
「ま、他の国には絶対マネできませんけどね、牧場主が特殊なんですよ」
「……そうなんだ」
この馬ならば周囲の国は是非とも欲しがるだろう。馬車だけではない、これだけ強い馬ならば用途は馬車だけではなく、農耕や軍馬にも使えるだろう。
「あ、そろそろ第一牧場エリアを抜けて、森林エリアですよっ!」
馬車はカコンという音とともに少し傾いてなだらかな傾斜を登り始める。
「森林エリアは何が?」
「この辺はですね、いわゆるリラックスエリアです」
「リラックス」
「鳥とか、鹿とか、触っても良い動物が住んでるエリアなんです」
ふと上を見上げてみればドングリをかじっているリスがいるし、木々間でこちらをジット見つめている鹿もいる。
「触りたいなら馬車を止めますよ、餌の販売所は近くにありますし」
せっかくの申し出だ、エスは少しぐらいは触っても良いかと思っているが、ヘルは目的じゃないからと我慢しようとしている。
「んー、ま、見てるだけでも愛らしいですからね、でも傷つけないでください、重罪に問われちゃうので……この国だと」
「なるほど重罪に……ん?」
急に愛らしい動物とは真逆の言葉が出てきて思わずエスは硬直する。
「え、動物を傷つけたら重罪なの?」
「最悪の場合ですよ、
この国は動物で生計を立ててる人が多く、それだけ動物を大事にしているのはわかるのだが、動物のほうが身分が上だとすると変なところがある。
「身分が上なのに牛とか食べるのか?」
「食べますよ、必要であるならば罪には問われませんし、許可証も必要ではありますが……ただそれでも
なんだかややこしいとは思うが、それで国が成り立っているのならば問題はないし、部外者が口を出すわけにはいかないその国の文化というものなのだろう。
「この馬も、引っ張って頂いてるって精神でムチとかは禁止なんですよ」
「へぇ……」
「動物様に生かしていただいているという精神で日夜過ごして……まあ建前なんですけどね、ぶっちゃけちゃうと」
そこをぶっちゃけてしまっていいのかと、思うが、そういう精神は大事だという事なのだろう。
「それに、そういう仕事ってやっても良い身分の人がいらっしゃいますので」
「動物よりも身分が上の人?」
「動物よりも……というとどう答えていいか悩みますが……っと」
馬車が一度ドンという音を立てて揺れる。音の原因は進行宝庫ではなく、後ろだ。
「おや、観光案内中だったかね、いやはやコレは失礼、ついでに餌はあるかね?」
いい声をした男性の声が背後から聞こえてくる、それが人間だったりしたなら、なんだこいつはと反感をかったのだが、そうではなかった為、エスとヘルの二人は呆気にとられる。
「おや、どうかしたのかいお客人」
「クジャクが喋ってるからだと思いますよ」
馬車に勝手に乗り込んできて偉そうに喋っているのは、綺麗で艶のある、マリンブルー色の毛並みをた、蝶ネクタイをしたクジャクだった。
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