幕間 寝顔を見つめる私と、やがて走り出す君

さて図らずしも、ちーくん(彼の下の名前から取ったあだ名)の真横に近づくことが出来た。こうなった理由はとっても簡単だ。あれはつい1分前位のことだった。


「こいつ寝てるな、どうしたものか……あ西谷」

「?何か用……?」

「お前どうせ新田の事好きだろうからこいつ起きた時に鍵渡してくれ。ほい鍵。」

「え?いや……その……」

「じゃあ俺ら行くから!じゃ!」


そう言って日直?らしき人が私に鍵だけ渡してきた。なんかさらっと凄いこと言ってた気がするけど気にしたら負けだ。そして私に鍵がわたるとちーくん除くクラスの全員が急いで物理室に突撃しにいった。恐らく彼らはちーくんに大小様々な恐怖を感じるのだろう。


何せちーくんは何度も何度も生徒指導を受けているから。勿論その指導内容は多岐に渡る。人を殴るな、奇抜な髪型をやめろ、課題を出せ、夢を追うな、課題を出せなど。彼によって不登校に追い込まれた人も居るとか。それもあってかちーくんはクラス、いや学校中の人から恐れられている。私を除いて。


「……zzZ」


こうして寝顔を見ている分には全然害は無い。そして可愛い。ちーくんは本当にかっこよくて可愛いのである。あぁ大好き。本当に全部好き。私のものにしたいくらいには。


「……zzZ」


ちーくんについてなんでこんなに詳しいか?それはちーくんについて色々調べてきたからだ。助けられた後、私はすぐに彼を尾行した。希死念慮は全て彼への愛に変わっていた。重いと受け取られても構わない。彼が私を受け入れなくとも、私は彼の全てを受け止める気だ。


「こんな重い愛じゃ……だめ……かな……」

「……zzZ」


小声でそっと耳元に呟いた。彼は気づくだろうか。そういえば学校の中ではちーくんと全く面識はないんだったっけ。本名をフルネームで伝える前に先に手料理もどき作って振舞ったり、一緒に買い出しに行ったり家に突撃するなんて不思議な関係ではある。ただやっぱり学校でもちーくんと話したい。あわよくば結婚まで持ち込みたい。


「まあ、現実にそんな事起こるわけないか……」


ちょっと悲観的な考えをしながら、彼を蕩けたような顔で見つめる。本当に可愛いな、ちーくん。今にでも唇を奪ってハートも奪いたい。もう私は無敵の人なのだ。ちーくん以外に生きる理由なんて無い。


「ん……あれ……」


ちーくんが起きてきた。やっぱり寝起きでもかっこいいし可愛い。もう本当に大好き。と冷静さを取り戻して……


「もしもーし……もう皆……」


少し肩を4回タッチして、彼に目の前の現実を告げた。これが正真正銘私達のファーストコンタクトだよ、大好きなちーくん。

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