無能ながら舌鼓を打つ俺と、それを見守る君

俺は今歩いている。隣に声の可愛いヘルメットを被った女性(?)を連れて。目指すはスーパー。しかし懸念点がひとつあった。


「ヘルメット、外さないんですか?」

「ヘルメット……ですか……」


この暑い中外さないとなると余程の理由があるのかもしれない。疑問だったからという安直な理由で聞いていいものだったのだろうか。死のうか。


「は……恥ずかしいと言いますか……その……」

「恥ずかしい……ですか……」

「はい……何せ来るまで三日三晩応対の練習をしたもので……」

「あ、それはそれはすみません……」


応対の練習、というのだから相当恥ずかしかったのだろう。命の恩人に酷な事を聞いてしまったかもしれない。


「謝罪として何かさせてください、ただでさえ今は無償で作ってもらおうとしてるのに申し訳ないです……」

「じゃ、じゃあ……」


どんな事が来ても受け止める。それが死でも何かの危機となっても。俺は今猛烈に謝罪がしたいからだ。


「その……手……繋いでください……」


相変わらずの小声だ。と思いつつ優しく彼女の手を包み込んだ。息が少し荒くなっている気もするが、それほどまでに恥ずかしいならすぐにでも止めた方が良い気がしてきた。


「そのまま……スーパーまで……」


しかし恩人の頼みとあらば断れない。手を繋いだままスーパーまで耐えられるかな。なんて思ってるとスーパーに着いた。


「あっという間でしたね……ではニューライスフィールドさんはこれを……」

「新田でいいですよ。このメモに書かれているのを運んでくれば良いんですか?」

「はい……私はこっちのを持ってくるので、10分後くらいにここでお会いしましょ……」


そうして10分間、俺は死に物狂いで食材をカゴに詰め込んだ。そしてまた彼女も。


「ごめんなさい……待ちましたか?」

「今来た所ですよ!運命みたいですね!」

「運命…… 結婚……」


何か言ったかな?小声過ぎて最後のは聞こえなかったけど。まあレジに並ぼう。


「次の方〜」

「はい、クレジットカードで……」

「かしこまりました!」


クレジットカードか、彼女は大人なのかな。その位しかあのカードに対するイメージは無い。まあそう思いつつ難なく袋に食料を詰め込んで。


「帰りもお願いしますね……」

「はい……」


心無しか彼女の顔が少し赤い気がした。そして家に帰る。こんなのが日常だったら良いのに。そう思って夕日にライトアップされた一本道を2人で歩く。微かに幸せを感じた。


「ただいまー」

「ただい……お邪魔します……」


ただいまでいいんですよ?その方が俺も幸せですし、なんて言う暇もなく彼女は料理に取り掛かる。調理方法は至ってシンプル。魚を焼くだけ。そこにパックご飯を温めるだけなので本当にシンプル。しかし食卓に並んだ時はこれがまた美味しそうに見えるのである。


「美味しそう……でもあれ、ニシヤさんの分は?」

「私のもありますよ……ほら……」

「あ、確かに……こんなに美味しそうなら毎日作って貰いたいくらい……」

「良いですけど……まずはお食べになって?」


え、良いのか、なんて思いながらも俺はいただきますと言って食べ始める。


「美味い!おかわりありますか!?」

「焦らなくてもまだまだありますから……」


俺は舌鼓を鳴らした。その俺を見守っているであろうどこか蕩けたようなヘルメットがまた可愛らしい。


ああ、こんなのが毎日続いたらな。

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