第448話 北欧の美の神

 スキルに効果が追加された事は良いけど、このままオーディンさんと無言のまま過ごすのは嫌だな。何か話題はないかと考えていると、急に後ろから抱きしめられた。抱きしめてきているのは、とても綺麗な女神様だった。


「!?」

「オーディン様。この子が例の子ですか?」

「ああ。フェンリルを飼い慣らした少女だ」

「ふ~ん、思ったよりも小さな女の子ですね。この子は貰っても?」

「ああ、連れて行け。我の用は終わっている」


 オーディンさんがそう言うと、女神様は私を抱えて移動し始めた。


「えっ!? わ、私、自分で歩けますよ!?」

「そう? じゃあ、これで歩きましょうか」


 女神様はそう言うと、私を下ろして手を繋いだ。女神様の雰囲気的にソフィアさんに似たようなものを感じる。


「私は生と死、愛、豊穣を司る神フレイヤ。あなたのお名前は?」

「ハクです。吸血鬼、天使、悪魔、精霊、鬼、竜の混ざりものです。あっ、一応、神を追加されたのかな」

「本当に変わってるのね。これから私の宮殿に行くのだけど、なるべく私にくっついて移動してね」

「え? はい」


 言われた通り、少しフレイヤさんに寄る。何か危ない事があるのかな。そう思っていると、周囲から神様が群がってきた。


「ごめんなさいね。しばらくは、この子と遊ぶ予定なの」


 フレイヤさんがそう言うと、神様達が嘆き始めた。


「フレイヤさんって、人気なんですね」

「皆、私の身体が目当てなのだけどね」

「身体……って、そういう……?」

「何を想像しちゃったの?」


 フレイヤさんはそう言いながら、私の頬を突いてくる。別に男性とはしていないけど、アカリとはしているから、そこまで初心でもないのだけど。


「一応、言っておくと、私は恋人いますよ?」

「ええ、知っているわ。愛の指輪があるから」


 私の左の薬指には最愛の指輪が填まっている。そこの追加効果にある【愛】から私に恋人がいる事に気付いたって感じなのかな。


「着いたわ。ここが私の宮殿フォールクヴァング」

「おぉ……大きいですね」

「色々とやる事があるからね。さっ、中に入って」


 フレイヤさんに連れられてフォールクヴァングに入っていく。見た目から分かるように、中も広い。特に中央にある広間は何に使うのだろうと疑問に思う程広かった。その広間を横目に、フレイヤさんの居室のような場所に入る。キングサイズよりも大きいのではと思う程でかいベッドとテーブルと椅子、それに執務机っぽいものも置かれていた。

 私は、フレイヤさんと対面になるようにテーブルの椅子に座る。


「さてと、色々と訊きたい事があったのよ」

「何ですか?」


 ここからが、オーディンさんに頼んで私を呼んだ本題だろう。


「フェンリルを解放したのはどうして?」


 まぁ、北欧神話の神様達からしたら、これは大きな疑問になるのだと思う。


「もふもふが欲しかったからです」

「もふもふ? そう。割と自分勝手な理由で解放したって事ね」

「あ、すみません……」


 オーディンさんからも責められはしたので、フレイヤさんから責められても仕方ない。


「良いと思うわ!」

「えっ!?」


 責められていると思ったら、直後に肯定された。あまりの落差に驚いてしまう。


「何か使命感に駆られでもしていたらどうしようって思っていたの。そんな事なくて良かったわ。もふもふ。つまり、フェンリルへの愛で動いたって事でしょう? 愛! 素晴らしいわ! 恋人への愛! 家族への愛! 友人への愛! どんな愛でも素晴らしい!」


 フレイヤさんは、生き生きとした様子だった。そういえば、司るものに愛があったはず。だから、愛への思い入れが強いのかもしれない。神様は一癖も二癖もないといけないのかな。


「愛の行動! あぁ……本当に思ったとおりの子で良かった。あなたが抱いている愛を教えてくれるかしら?」

「愛ですか?」

「そう! 恋人との愛が良いわ! 何か悩みがあったら聞かせて。相談に乗るわ」


 フレイヤさんは、ニコニコと笑いながらそう言う。本当に恋バナがしたいだけのようだ。


「誰にも言わないで下さいよ?」

「勿論。信頼を損なって、あなたとの繋がりが途切れたら嫌ですもの」


 どこまで信用できるか分からないけど、ロキさんよりは遙かに信用できるかな。あの神様は何を考えているのか分からないし。


「でも、悩みらしい悩みもないですよ」

「愛し合っているのね。でも、どんな繋がりも絶対とは言い切れないわ。本当に一点の曇りもないと言えるかしら?」

「曇り……」


 そう言われて、少し思い当たる事があった。


「私の愛が重すぎないかは心配です。向こうも、私を求めてくれていますが、私から強く求めすぎてしまって、ちょっとやり過ぎちゃう事もあるので」

「あらあら……それで、相手の嫌な事までしてしまったのかしら?」

「いえ、直接言われた事はありません」

「なら、そこまで深く考える必要はないかもしれないわね。もし、本当に気になるのなら、相手に確認してみると良いわ。怖いかもしれないけど、相互理解に一番必要なのは言葉と想いの共有よ。言葉に出来るのなら、一番良いわ。愛には愛を持って応える。偶には、相手から愛を受け取る事も必要かもしれないわね」

「なるほど……そうですよね」

「まぁ、もう恋人なのだから、互いに遠慮しすぎるなという事よ。恋人になったから、夫婦になったからと言って、そこがゴールではないわ。まだまだ序盤。一人で走っていた道を二人で走る。互いに支え合いながらね。そのために必要なのは、互いを信頼する心。さっきも言った相互理解よ。今の幸せな状況に甘えていては駄目」


 何か、思ったよりも為になった。結構当たり前の事だけど、改めて口にされると、ちゃんとやっていたかどうか心配になる。当たり前だからこそ、気付いたらやっていなかったという事にならないようにしないと。


「そういえば、フェンリルの方にも愛があるのよね。そっちは恋人とは違う愛?」

「そうですね。フェンリルのあの毛並みが好きなので、恋人に対するものとは違いますね。どちらかというと、家族みたいなものでしょうか。私のところには、他にも沢山いますけど、皆家族みたいなものですね。その中の一人という感じです」

「家族愛ね。良いわね」

「後は、姉とその友人達もいますけど、そっちも家族みたいなものですしね。姉は家族ですけど」

「ふむふむ……姉妹愛ね」


 アク姉に関しては、愛が重すぎるけどね。普通の姉妹以上に可愛がられるし。まぁ、私も慣れているから、平然と受け入れているけど。


「そうですね。後は、家にヘスティアさんがいるくらいでしょうか。さすがに、ヘスティアさんを家族と言って良いのか分かりませんが」

「ん?」


 うんうんと頷いていたフレイヤさんがきょとんとしながら、私を見てくる。


「ヘスティアって、炉の神の?」

「はい」

「なるほど……簡易的な神殿にして、顕現しているのね……私もどうにか顕現出来れば良いのだけど」

「無理なんですか?」


 オーディンさんが普通に来ていたから、フレイヤさんも来られるのではと思ったけど、フレイヤさんの口ぶり的には無理という風に受け取れる。


「依り代がね。昔は、自由に降りられたのだけど、最近は神殿とか依り代になるものが必要なのよ。ヘスティアは、暖炉や炉が神殿代わりになるから、顕現出来るのだけどね。そういう神殿もなければ、依り代もないから」

「なるほど……」


 今の話から察するに、サクヤさんはあの桜の森が依り代とか神殿みたいなものなのだろう。ヘスティアさんも特殊な炭を用いているから、あれが主体となるというのが分かる。でも、そう考えると、オーディンさんが普通に来ていたのが気になる。


「オーディンさんは、普通に来られていたみたいなんですけど、それはどういう事なんですか?」

「オーディン様は、一応主神だから、自由に顕現が出来るの。そこそこ力を使う事になるけれどね。後は、一応風を司る神様でもあるから、神の風があれば顕現する条件を満たせるかもね」

「へぇ~……因みに、フレイヤさんの神殿とかはどうやったら作れるんですか?」

「まぁ、無難に石像を置いたりとかかな。豚の生贄とかは、いちいちしないといけないし。それでも顕現までは無理だけれどね。そうだ。私も祝福をあげるわ」


 そう言って、有無を言わせずに祝福された。基本的に、こっちの了承無しで祝福を授けられるので、口を挟む隙間もない。


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【北欧美神の祝福】:【愛】の追加効果を持つアクセサリーを装備しているとき、その効果を上昇させる。この効果は対となる【愛】のアクセサリーにも影響する。豚の繁殖が上手くいきやすくなる。さらに、豚から取れる素材の量が増える。【降霊術】による死者との対話が確実に成功する。フォールクヴァングへの立入が可能となる。控えでも効果を発揮する。


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 何故か豚限定の効果まで含まれていた。そういえば、さっきも豚の生贄とか言っていたし、フレイヤさんに纏わるものなのかもしれない。そして、何よりも最後の一文が驚きだった。


「これで、私の宮殿に直接来られるでしょう。これならいつでも会えるわ」

「なるほど……これって、オーディンさんじゃなくても授けられるんですね」

「まぁ、宮殿を持っていたらというのもあるけれどね。他にも諸々詰め込んであるから、何かしらに使えるはずよ」

「はい。ありがとうございます。ところで、私って、ここからどうやって帰れば良いんでしょう?」


 思えば、ここまで常に誰かに連れられて来ているので、どうやって帰るかは全く分からなかった。転移するためのポータルもないし。


「それなら、私が送り帰せるから安心して。そろそろ帰らないといけない時間かしら?」

「そうですね……そろそろ戻らないといけないです」


 色々な神様と話したり、移動時間だったりで、結構良い時間になっていた。すぐに帰る事が出来ない以上、そろそろ帰った方が良いと思われる。


「それじゃあ、送るわね。またいつでも来て」

「はい。また来ますね」


 今度はエレベーターで一気に下降するような感覚を経て、ギルドエリアに戻ってきた。アカリと話したい気分だったけど、今はログインしていないみたいなので、お預けとなった。

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