第447話 ヴァーラスキャールヴ
フギンとムニンには、すぐに追いつく事が出来た。向こうが合せてくれたのかな。
「ねぇ、このまま飛んで、オーディンさんのところに行けるの?」
『出来ねぇに決まってんだろ!』
『同じ神界と言えど、ここと我々の世界の間には次元の壁があります。それを抜ける必要がありますので、我々に離れず付いてきてください』
フギンとムニンが加速するので、私も【天翔】で加速してぴったりと後ろに付く。そうして飛んでいると、サクヤさんに高天原に連れてきて貰った時と同じような感覚を経て、別の神界へと入った。一面に草原が広がっていた高天原と違い、こっちは物凄く大きな木が天を貫いていた。ギルドエリアにある世界樹よりも遙かに大きい。
『ユグドラシルだ。これが国を繋いでいる。オーディン様は一番上にいらっしゃる。分かったか!』
「うん。教えてくれてありがとう」
『へっ!』
私が気になっている事に気付いたのか、フギンが説明してくれた。ぶっきらぼうだけど、ちゃんと教えてくれるあたり根は優しいのだなと分かる。
「それじゃあ、ここが一番下なの?」
『いえ、違います。世界の再構成を行った際、上からアース神族のいるアーズガルズ、ヴァン神族のいるヴァナヘイム、妖精が住むアルフへイム、ドワーフの住むスヴァルトアルフへイム、元地上であるミドガルズ、巨人のいるヨトゥンヘイム、氷の国であるニヴルヘイム、炎の国であるムスプルヘイム、そして死者の国であるヘルヘイムとなっていました』
「いました?」
『俺達の意志と関係なく、世界の再構成が行われたのさ! ミドガルズ以下の国は地上と混ざっちまった!』
『あなたの世界に大きな影響を及ぼしたでしょう。今は、まだ表に現れていないようですが、これから先どうなるかは分かりません』
「そうなんだ」
これから追加されるエリアの中には、元々ここにあった世界が融合しているようなエリアが出て来るって事かな。
『そして、私達がいるここはアルフへイム。ここから更に二つ上の階層に向かいます。付いてきてください』
「うん」
フギンとムニンが速度を上げて上昇するので、私も後を追う。分厚い雲を二回程通り抜けると、高天原のような黄色い空が広がる雲の上の街が見えた。そして、その中でもユグドラシルに近い場所に大きな宮殿がある。
「というか、一番上でもユグドラシルの方が高いんだ」
『ここから天辺まで行くことも出来ますが、あまりおすすめはしません』
「そうなんだ。分かった」
『オーディン様は、こっちだ! 付いてこい!』
「うん」
そのまま一番奥にある宮殿へと案内される。どうやら、この宮殿がオーディンさんのものらしい。宮殿の前に降りると、肩にフギンとムニンが留まる。
『ここがヴァーラスキャールヴ。オーディン様は、この奥だ!』
「勝手に入って良いの?」
『オーディン様からは許可を得ています』
「そっか。じゃあ、お邪魔します」
フギンとムニンを肩に留まらせながら、宮殿の中に入っていく。宮殿はかなり広いし、天井も高い。私三人分以上の高さはあるかな。そのままどんどんと奥に進んでいく。フギンとムニンは何も言わないから、それで正しいはず。
そうして着いた場所には、三段くらい高い場所があり、そこにある玉座のような場所にオーディンさんが座っていた。その足元には二匹の狼がいた。立派な毛並みだが、フェンリルには負ける。
「フギン、ムニン、ご苦労だった。貴様もよく来たな」
フギンとムニンは、私の肩から飛び立って、オーディンさんの傍に控える。
「はい。それで、何か急用があったんですか?」
「急用という程ではないのだが、貴様が神界に来たという事を知り、貴様に会いたいと言う奴等がいてな。フェンリルを解放した貴様に興味を持ったらしい」
「興味?」
「ふんっ!」
オーディンさんと別の方向から声が聞こえたかと思ったら、ハンマーで身体を殴られた。横から振られたハンマーは、夜霧になった私の身体をすり抜けていく。まさか、こんなところで【夜霧の執行者】を一回分消費するとは思わなかった。
攻撃された事に対する条件反射で振り返りながら蹴りを入れてしまう。攻撃してきた神様は、私の攻撃を腕で受け止めた。かなり硬くて、鋼鉄の塊を蹴っているような感覚だった。まぁ、ゲーム内の私なら鋼鉄くらい蹴り飛ばせると思うのだけど、この神様は一ミリも動かなかった。【ベクトル操作】を使っていたのにも関わらずだ。
「ふっはははは! 我の一撃を避けるだけでなく、反撃してきたぞ!」
赤い髪に赤い髭の神様は、豪快に笑っていた。私としては笑えない状況ではあるのだけど、それはオーディンさんも同じみたいで、片手で頭を抱えて呆れていた。
「いやぁ……話には聞いていたけど、本当に混ざっているみたいだねぇ」
そんな神様の後ろからピエロのような派手な服装をした神様が出て来た。ニヤニヤしていて胡散臭い感じが強い。
「ふむふむ……君が僕のフェンリルを解放して手懐けたと……なるほどなるほど……それだけの理由はありそうだねぇ。僕の名前はロキ。悪戯好きの無害な神様さ。こっちは、雷神トール。我々の中で一番力強い神様さ。よろしくねぇ」
そう言われて手を差し出してくるので、取り敢えず握手をしておく。この握手をしている間に、何かされるかと思ったけど、特に何も起こらず手を放した。
「良いねぇ。警戒心が強いねぇ。それに戦闘力も高そうだ」
「おいおい、そんなもん、さっきの蹴りを見りゃ分かるだろう」
「僕は君とは違うからねぇ。こうして直に見て触ってようやく分かるのさ」
ロキさんは、両手を振りながら離れていく。その間に、トールさんが入った。
「気に入った! お前に我の祝福をやろう!」
「えっ?」
有無を言わせずに祝福授けられた。
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【北欧雷神の祝福】:全ステータスが大幅に上昇する。更に、攻撃力が大幅に上昇する。雷、雷霆系統のスキルの効果が上昇する。MPを大きく消費し、全てを打ち砕く雷の鎚を叩き付ける事が出来る。控えでも効果を発揮する。
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どんどんステータスが上昇するし、雷のスキルが強化されていく。というか、ただ一発入れただけなのに、祝福を授けられるまで気に入られるとは思わなかった。
「また来た時に拳を交えようぞ。はっはっはっはっは!!」
トールさんは、豪快に笑いながらどこかに行ってしまった。それ見たロキさんがやれやれと言わんばかりに手を上げながら首を振る。
「言っておくけど、僕はそう簡単に祝福なんてしないよ」
「あ、はい。分かってます。きっと、ロキさんの考え方の方が普通だと思いますし」
これまでの神様がポンポン祝福しているだけで、ロキさんみたいに簡単に渡さないという方が普通だと思う。大分レアなスキルのはずだし。
そう言ったところで、ロキさんの身体がピクッと動いた。
「普通? 僕が? これでも色々な神を騙して悪さをしているんだよ? そんな僕が普通?」
ロキさんは身体を横に揺らしながらそう言ってくる。普通と言われる事が嫌いな神様だったのかな。でも、そんなロキさんはすぐに高笑いし始める。
「フハハ! フハハハハハハハ!! 面白い! きっと僕の事を知らないだけなのだろうけど、本当に面白いよ! 神様相手に普通なんて言えるとはね! 僕は、君の事を普通だとは、とてもじゃないけど無理だね! 君のそれは神を相手にしている態度ではないよ。普通は、畏れ多いと感じるはずだからねぇ。フフ、気が変わった。普通じゃない君を、もっと普通ではなくしてあげよう」
そう言うと、ロキさんは私に祝福を授けて、トールさんと同じくどこかに行ってしまった。その足取りは、怒りというよりも楽しさを感じさせるようなものだった。
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【北欧欺瞞神の祝福】:自身もしくは他者の姿を変える事が出来る。効果時間は五分。MPを消費して、対象のスキルの効果を反転させる事が出来る。効果時間は五分。控えでも効果を発揮する。
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割と凶悪なスキルを手に入れた。プレイヤーに使ったら、ステータス上昇のスキルがステータス低下のスキルに早変わりだ。変身出来る方の効果は、どういう時に使えば良いのか分からないけど。
「すまない。気難しい奴でな」
「いえ、ちゃんとお話出来ませんでしたけど、良かったんでしょうか?」
「ん? ああ……勘違いさせたな。あいつらはただ見に来ただけだ。貴様に会いたいと言っている奴は別にいる」
「そうなんですか。ここにいれば良い感じですか?」
「ああ。それと、貴様にヴァーラスキャールヴへの立入を許可しよう。節度を持って動け」
「ありがとうございます」
【北欧主神の祝福】の効果に、ヴァーラスキャールヴへの立入許可が追加された。これで、こっちの神界にも自由に出入り出来るようになった。節度を持てと言われたから、あまり動き回る事は出来なけど。
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