第446話 親交の証

 皆が落ち着いたところで、お茶が運ばれてきた。ここのお茶は、適度な渋みと甘みで本当に美味しかった。


「ところで、先程の戦い見事だったぞ。相手の死角に回る。相手の虚を突く。しっかりと自身が有利になるように動くのは基本だからな。だが、まだ力を隠しているな?」

「えっと……この場で使うのは向いていないなというものばかりですので」


 こんなところで【反転熱線】なんて使ったら、本当に不味い事になる。アマテラスさんの宮殿を破壊する事に繋がるだろうし。


「ふむ。なら、ここで戦わせて正解じゃったな。下手に戦わせて、他の奴等を刺激すれば、こいつ以上に面倒くさい事になったじゃろう」

「…………」


 アマテラスさんに睨まれて、スサノオさんが気まずそうにしていた。ツクヨミさんもやれやれというように首を横振っていた。


「取り敢えず、ハクには詫びと親交の証に祝福を授けるのじゃ。ハクの人となりも分かったことじゃからのう」

「あ! じゃあ、私からもあげる。良い畑にして欲しいからね!」

「では、弟の無礼のお詫びとして、私からも授けましょう」

「我も授けよう。先程の戦いに敬意を表してな」

「主人が失礼をしたお詫びに私も授けさせてください」

「むっ……それなら我も授けよう。最後の一撃は見事だった」

「あっ、えっと……ありがとうございます」


 何か全員から祝福を授かる事になってしまった。嬉しい事ではあるのだけど、それ以上にこんなに貰って良いのかとも思ってしまう。スサノオさんがいきなり勝負を挑んできたお詫びというのも大きいのかな。


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【天照大神の祝福】:光属性、光明属性の攻撃が大幅に強化される。神聖属性に関するスキルの効果を大幅に強化する。太陽光の元にいる間、常にHPMP継続回復の効果を得る。高天原への立入が可能となる。控えでも効果を発揮する。


【天照大神の威光】。MPを大きく消費して、相手に降り注ぐ日の光を遮り、禍をもたらす。また、パーティーメンバーのHP、MP、状態異常を回復し続ける光を放つ事が出来る。光を放っている間は、身動きをする事は出来ない。控えでも効果を発揮する。


【月読の祝福】:闇、暗黒属性の攻撃が大幅に強化される。月光の元にいる間、常にHPMP継続回復の効果を得る。MPを大きく消費して、夜の闇を凝縮させた一撃を放つ事が出来る。控えでも効果を発揮する。


【宇伽之御魂の祝福】:育成している作物の生長速度が上がり、収穫量が大きく上昇する。畑が常に肥沃の土となる。作物を使用した料理にHPMP回復効果を持たせる事が出来る。控えでも効果を発揮する。


【建御雷の祝福】:剣系統と雷系統のスキルの効果を大幅に強化する。ステータスを大きく上昇させる。土、大地系統の攻撃を治める事が出来る。控えでも効果を発揮する。


【櫛名田比売の祝福】:育成している作物の生長速度が上がり、収穫量が大きく上昇する。特に稲田の作物には、大きく影響する。櫛を生み出す事が出来る。控えでも効果を発揮する。


【須佐之男の祝福】:水属性、風属性の攻撃が大幅に強化される。天候を暴風雨へと変える事が出来る。暴風雨を纏い、全てを破壊する一撃を放つ事が出来る。控えでも効果を発揮する。


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 恐ろしいまでに畑の生長速度が上がった。今からギルドエリアに帰るのが怖い。


「何か、祝福以外にも貰ってしまっているのですが……」

「うむ。妾の威光を贈っておいたのじゃ。ちゃんと使えるはずじゃぞ」

「こんな凄いものまで貰って良いんですか?」

「構わん。言ったであろう。ハクの人となりは分かったと」


 そう言って、アマテラスさんは私の頭をポンポンと叩く。玉藻ちゃんもよく尻尾でポフポフしてくるけど、のじゃ口調の人はそうするという決まりでもあるのだろうか。


「ウカとクシナダの祝福を授かったわけじゃからな。良い作物を育てるのじゃぞ。その作物で作ったものを持ってきても構わんぞ」

「イザナミさんみたいな事言いますね」


 私がそう言うと、サクヤさん以外の神様が固まった。


「あれ? 何か変な事言いました?」

「いや、イザナミ様と会ったということか?」


 タケミカヅチさんが確認するので、頷いてから答える。


「はい。黄泉比良坂に行けたので。今では友人として一緒にご飯とかを食べてます」

「ふむ。納得した。主の身体であれば、黄泉の炎も効かないじゃろうからな」

「元気そうでしたよ」

「うむ。それなら良かった」


 アマテラスさんがそう言うと、皆が頷いた。やっぱり、皆と離れた場所で暮らす事になったイザナミさんを心配していたみたい。


「そういえば、先程のスサノオとの戦いを見て気になっていたのですが、ハクさんは【神炎】以外に、神の属性を持っていないのですか?」


 ツクヨミさんがそう訊いてきた。あの戦いで使った属性の中で、神と付くスキルが【神炎】のみだったという事に気付いたみたい。


「はい」

「ふむ。そこまで属性を操る事が出来、神の力をも得る事が出来たのですから、他に会得していてもおかしくはないのですが……」

「そうなんですか?」

「うむ。その内使えるようになるじゃろう。何事も焦りは禁物じゃ」

「そうだよ。良い作物を作るのには時間が掛かるものだからね」

「なるほど。じゃあ、楽しみします」

「うむ。それが良いじゃろう」


 【神力】のレベルが上がれば、他の神が付く属性スキルを手に入れられるのかもしれない。【熾天使】を手に入れた時に手に入ったスキルだから、具体的な収得方法は知らなかった。もしかしたら、【神力】を育てる事が順当な収得方法の一つだったのかな。


「そういえば、私って高天原に入る事が出来るようになっているんですよね?」


 【天照大神の祝福】にそう書いてあったので、一応確認してみる。


「そうじゃな。妾が許可をしたから入る事は出来るはずじゃぞ。直接妾の宮殿に来られるはずじゃ」

「えっ!? ここにですか!?」

「そうじゃ。何じゃ? 嫌なのか?」


 アマテラスさんは、少し悲しげな風にそう言った。アマテラスさん自身がかなり美人だから、そういう顔をされると弱る。そもそも嫌とかも思っていないし。


「いえ、いつでもアマテラスさんの宮殿に入られるということなので、本当に良いのかなと思ってしまって」

「良いに決まっておるじゃろう。寧ろ、適当なところに出る方が危険じゃ。ハクに会うには、妾の許可がいるという風にもしておくとするかのう」

「私もそれが良いと思います。この人みたいな事が起こらないとも限りませんから」


 スサノオさんは、再び気まずそうな表情になる。まぁ、事実ではあるから、何とも言えない。今回はアマテラスさん達がいたのと、相手がスサノオさんだったから、かなり軽く済んでいるけど、こうならない可能性もあるので、アマテラスさんの提案は私にとってもありがたい。

 そんな話をしていると、庭の方から羽の音が聞こえてくる。そっちに顔を向けると、フギンとムニンが入ってきて、私の肩に留まった。


『オーディン様がお呼びだ!』

『神界に来られたのなら、こちらの世界にも来るように仰せです』

「えっ、急に言われても……」


 そう言うと、アマテラスさんがため息を零した。


「全く無作法な奴じゃ」


 アマテラスさんがそう言うと、フギンとムニンが睨む。それに対して、アマテラスさんは即座に睨み返す。言葉には出ていないけど、『ああ?』という声が聞こえてきそうな感じだ。神様としての格が違うのか、それだけでフギンとムニンが萎縮するのが分かった。


「ここで止めても面倒くさいからのう。行ってくると良い。ここにはいつでも来られるのじゃからな。サクヤも良いか?」

「はい。私は、先に神桜都市に戻っていますね」

「はい。ここまで案内してくれたありがとうございました。おかげで、楽しかったです。皆さんも仲良くしていただきありがとうございます。これからよろしくお願いします」


 挨拶を済ませたところで、フギンとムニンが飛ぶので、私も庭に出てから、もう一度アマテラスさん達に頭を下げて、【熾天使翼】で空を飛び、フギンとムニンを追い掛けた。

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