第445話 クシナダの平謝り
結構揺れたけど、アマテラスさん達に動揺はない。それどころか、顔を顰めていた。クシナダさんは、困ったような苦笑いをしている。
「姉上! 何やら面白い者がいると聞いたぞ!」
土煙の中から現れたのは、タケミカヅチさんに似た体格をしている男性の神様だった。切っ先の欠けた剣を担いでいる。
「お前は普通に来るという事が出来ないのか? また追放にするぞ」
「はっはっは! 普通に来てはつまらんでしょう! おっ! クシナダじゃないか。お前も来ていたんだな!」
「はい。それはさておき、ハクさんが驚いていますので、自己紹介をお願いします」
「むっ! そ、そうか……我はスサノオ! クシナダを救った英雄よ!」
これまでとはまた違う自己紹介だった。一応、クシナダさんを見て確認する。クシナダさんは私を見て頷いたので、本当の事だと分かる。
「馬鹿なことしかしない馬鹿の間違いじゃろう」
「うっ……いや! そんな事はどうでも良い!」
「良くないじゃろう」
アマテラスさんのツッコミを無視して、スサノオさんは私を見る。アマテラスさんに青筋が立つのが分かった。
「貴様、腕が立ちそうだな! 我と勝負しろ!」
「えぇ……」
「やってやれ。そしてボコって泣かせてやるのじゃ。遠慮は要らんぞ。せっかくじゃ。妾達も主の強さを見させてもらう」
「えぇ……わ、分かりました」
「ふん! やるぞ!」
アマテラスさんにも言われてしまったので、スサノオさんと試合をする事になった。さすがに、殺し合いまではならないはず。私も困るし。
「すみません! うちの人が、本当にすみません!」
クシナダさんが、平謝りに謝っていた。うちの人という事は、クシナダさんの旦那さんなのかな。
「いえ、お気になさらず」
そう言ってから、私も庭に出る。スサノオさんは、本当にやる気満々みたいで鼻息が荒かった。さすがに、ここで神殺しを使う訳にもいかないので、取り敢えず、白百合と黒百合を出して、血で強化する。
すると、スサノオさんが興味深げに私を見ていた。
「ほぅ……やはり、中々にやるようだ」
スサノオさんが切っ先の欠けた剣を構える。私も白百合と黒百合を構えた。
「では、始め!」
アマテラスさんの開始の合図と共に【雷化】でスサノオさんの背後に回る。こうして背後に回るのが、私の常套手段だ。これは、スサノオさんも予想していなかったようで驚いていた。でも、私を見失った訳では無い。すぐに振り返りながら剣を振ってくる。
私はそれを受け流して、スサノオさんの脇腹に回し蹴りを当てる。【ベクトル操作】で重みを持たせて、【黒腐侵蝕】と【氷結破砕】を発動させる。侵蝕出来たのも凍り付いたのも表面だけだった。でも、僅かにダメージは与えられたし、スサノオさんは私に蹴り飛ばされる事になった。
「ぬおっ!?」
私が小柄だからと油断していたらしい。驚きながら吹っ飛んでいったスサノオさんだけど、すぐに体勢を整えて着地する。そこに、思いっきり黒百合を投げつけた。
黒百合は、剣で弾かれた。簡単に弾いてはいるけど、スサノオさんの表情は険しい。
「いつもよりも身体が重い……」
どうやら、【嫉妬の大罪】の効果は働いているらしい。でも、呪いや魅了などの状態異常は効かないみたい。【氷結の魔眼】は多少働いているかな。でも、すぐに割られているから、効果はないに等しい。この手の小細工は通用しないと考えた方が良さそう。
「【共鳴】」
黒百合を呼び戻しながら、スサノオさんに向かって駆ける。スサノオさんは、ニヤリと笑って、空いている手を前に出した。その瞬間、私に向かって暴風が吹き付けてくる。【支配(風)】で逸らそうとしたけど、私の言うことを聞かない。つまり、向こうは更に上の支配を持っているという事だ。
呼び戻した黒百合と白百合を合わせて、大斧を作り出し、暴風を切り裂く。その間に、スサノオさんは、背後に回っていた。巨体のわりに素早いみたい。振られる大斧の柄で受け止める。
その直後に、大斧を大鎌に変えて、刃の内側にスサノオさんを捉える。
「うおっ!?」
すぐに気付いたスサノオさんは、私から離れた。だから、【雷化】で先回りをして、大鎌に【死神鎌】を発動しつつ【神炎】を纏わせる。思いっきり振るって、スサノオさんに攻撃する。スサノオさんは、すぐに剣で受け止めて弾こうとしたけど、【ベクトル操作】で攻撃の重さを上げていたので、受け止めるだけに終わった。
直後に大鎌から手を放して、素手になり、闘気を解放しつつ【鬼王】と【黒鬼気】を発動させる。そして、火、雷、闇、影を纏わせた拳をスサノオさんのお腹に叩き込む。さらに、【ベクトル操作】で拳の重さを上げて威力を上げる。
「おわっ!?」
スサノオさんの身体が浮いて、空高く飛んでいった。そして、庭の中央に頭から落ちて埋まる。念のため、双剣に戻した白百合と黒百合を回収して何が起こっても良いように待機する。
「うむ! そこまで!」
アマテラスさんがそう言って、スサノオさんのところまで歩いていく。その間に、白百合と黒百合を血に仕舞う。
「痛てて」
「油断するからそうなるのじゃ」
「いや……武器から手を放すなんて思わんでしょう。それに、いつもよりも身体が重い気もしてたし……」
「それ自体が、ハクの力じゃろう。だから、主は馬鹿なのじゃ。馬鹿が」
「に、二度も言わんで良いでしょう……」
「庭は直しておくんじゃぞ。ハク、戻るぞ」
「あっ、私が直しますよ。このくらいなら簡単に直せますから」
地面の抉れなどが目立つので、【大地武装】と【植物操作】で庭を元通りにする。このくらいなら、私でも問題なく直せる。ソイルやラウネだったら、もっと早く直せただろうけど。
「こんな馬鹿を甘やかす必要はないのじゃぞ?」
「いえ、私がやってしまったことでもありますから」
「ふむ」
アマテラスさんは私の頭をポンポンと叩くと、部屋に戻っていく。私もそれを追って中に戻った。
「ほんっとうに申し訳ありませんでした! 私からもキツく言っておきます!」
「いえいえ、本当に気にしないで下さい。私は何とも思っていませんから」
「そう言っていただけると助かります」
戻って来て早々、再びクシナダさんに平謝りに謝られた。ちょっと面倒くさかったくらいなので、別に気にしないで良いのだけど、クシナダさんからすると、謝っても謝り足りないって感じらしい。
元の位置に座ると、スサノオさんも席に着いた。
「改めて、愚弟のスサノオじゃ。昔はビービー泣いてばかりおったのじゃが、調子に乗ると今みたいな馬鹿みたいな事ばかりする馬鹿な愚弟じゃ。一応、クシナダを救った英雄というのは本当じゃがな」
「そうなんですね。でも、誰かを救えるのは良い事だと思いますよ」
「ふっ、そうだろう」
「あなたは黙っていて下さい。例え英雄でも誰彼構わず勝負を挑んで良いという訳ではないのですよ」
「うっ……すまん」
スサノオさんは、クシナダさんの尻に敷かれているみたい。長い夫婦生活という事もあり、色々あったのかもしれない。まぁ何はともあれ、大きな争いとかに発展しないで良かったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます