第444話 アマテラスの宮殿

 アマテラスさんの宮殿への道程は、途中で空を飛ぶ事になった。サクヤさんも普通に浮遊して移動していた。神界で空を飛べるのは、アマテラスさんだけの特権じゃないみたい。神界という事もあるので、【熾天使翼】で移動した。下手に【悪魔王翼】とかを使って目立ちたくないしね。まぁ、【熾天使翼】も三対の翼だから、結構目立つけど。


「こちらが、アマテラス様の宮です」

「おぉ……」


 アマテラスさんの宮殿は、オオクニヌシさんの宮殿と比べものにならない程の大きさをしていた。それでも派手とかという印象よりも荘厳な印象を受ける。


「あちらの高い場所にあるのは、イザナギ様の宮です」


 サクヤさんが手を向けた先を追って見えたのは、アマテラスさんの宮殿よりも遙かに上空にある雲の上の建物だった。本当に高い場所にあるから、その屋根が微かに見えるだけだった。


「イザナギ様がこちらに降りてこられる事は、あまりありません。また、私達が伺う事もありません。では、中に入りましょう」


 サクヤさんがそのまま入っていくので、一応頭を下げてからサクヤさんの後を追っていく。サクヤさんの案内でどんどんと進んでいく。勝手に上がって大丈夫だったのか、ちょっと心配だけど、サクヤさんが一緒だから大丈夫かな。

 そうして着いたのは、滅茶苦茶広い謁見の間のような場所だった。それだけなら広いなくらいの感想で終わるのだけど、その奥に座っているアマテラスさんと、傍で控えるように立っている複数の神様の圧が強すぎた。控えている神様は、女性の神様が二人と男性の神様が二人だった。

 サクヤさんは、頭を下げてから中に入る。私もそれに倣ってから中に入った。


「よく来たのう。すまぬが、他の者も興味を持ったらしくてのう。少々圧が強いだろうが、勘弁して欲しい。この場では、まともな歓迎も出来ぬな。移動するぞ」


 アマテラスさんは、すぐに立ち上がって、私達の方に歩いてきた。その後ろを他の神様達が追う。私も一番後ろを歩こうと思ったら、アマテラスさんに腕を掴まれて隣で歩く事になった。サクヤさんは、さりげなく一番後ろに行って、他の神様と話している。知り合いの神様でもいたのかな。


「オオクニヌシとは有意義な時間を過ごせたかのう?」

「どうでしょう? 友人として認めて頂いたので、私に取っては有意義だったと思います」

「そうか。なら、良かったのじゃ。祝福もされておるようじゃのう」

「はい。私の事を信用していただいたみたいです。悪い事には使わないと」

「ふむ。良縁を悪用する輩はいるかもしれんからのう。良縁と言っておきながら、結局は祝福されたものにとっての良縁じゃからな。悪意を持てば、それに合せた良縁が引き寄せられる事もあり得るのじゃ」


 思ったよりもオオクニヌシさんがくれた祝福は危ないものだったみたい。悪意に対する良縁というのも、ちょっと怖いし。悪意がどこまでの事を指すのかも私には分からない。本当に気を付けないと。


「主が欲する関係。そうじゃな。恐らくは、悪魔との縁なども結ばれるじゃろうな。じゃから、一つだけ忠告しておくぞ。悪魔の甘言に拐かされてはならぬ。奴等は聞き心地の良い言葉で騙すのが得意な奴等じゃ。自身に都合の良い事ばかり並べられたら、まずは疑う事じゃ」

「なるほど。そういえば、悪魔の言葉って、私に分かるんですか?」


 【悪魔】を手に入れる条件を満たした時、私は何を言っているのか分からない存在がいるのを見た。あれは十中八九悪魔だ。甘言と言われても、言葉を理解出来なかったら、そもそも何の意味もないのではと思ってしまう。


「分かるじゃろう。主は悪魔でもあるのじゃからな」

「あっ……なるほど」


 あの時は悪魔じゃ無かったけど、今の私は悪魔になっている。それならあっちの言葉を理解出来るようになっている可能性は高い。


「そうでなくとも、高位の悪魔なら、主に合せる事など造作もないじゃろうな」

「高位の悪魔……そういえば、リヴァイアサンを倒して【嫉妬の大罪】を手に入れたんですが、リヴァイアサンも悪魔だったんでしょうか?」


 あれが悪魔だったとしたら、本当に話が通じる相手か不安になる。


「リヴァイアサンか……あれは、悪魔寄りの怪物じゃ。力の地位も高位の悪魔に属するが、本質は怪物じゃろうな。もっと話の分かる悪魔が出て来るじゃろう。まぁ、気を付けろという事に変わりはない」

「分かりました。取り敢えず、気を付けてみます」

「うむ。ここじゃ」


 アマテラスさんが部屋の扉を開ける。そこは、謁見の間ほどではないが、かなり大きな部屋だった。奥には大きな庭が見えている。部屋の中央には、ちゃぶ台が置かれていた。私達は、それを囲うように座る。何故か、私はアマテラスさんとサクヤさんの間に座る事になった。


「色々と訊きたい事もあるが、その前に自己紹介じゃな。妾は、アマテラスじゃ。ほれ、お前からじゃ」


 そう言ってアマテラスさんが、横にいる美形で男性の神様を小突く。


「初めまして。ツクヨミと申します。夜と月を司る神です。よろしくお願いします」

「妾の弟じゃ。ほれ、次々自己紹介せい」


 アマテラスさんからそう言われて、隣に座っていたもう一人の男性の神様が私を見る。オオクニヌシさんより小柄だけど、筋肉などの発達度で言えば、こちらの方が上だ。


「我はタケミカヅチ。よろしく頼む」


 タケミカヅチさんが自己紹介を終えて、次の神様が私を見て微笑む。女性の神様で、巫女服のような着物を着ている。そして、何故か狐の面を側頭部に着けていた。


「私は、ウカノミタマ。よろしくね」


 結構明るい神様みたい。続いて、その隣にいる女性の神様が私を見る。緑色の着物を着て、頭に櫛を刺している。


「クシナダです。よろしくお願いします」


 ツクヨミさん、タケミカヅチさん、ウカノミタマさん、クシナダさんという神様らしい。そして、クシナダさんとサクヤさんが仲良しらしい。


「初めまして。ハクと申します。よろしくお願いします」


 ちゃんと挨拶をすると、何故か感心された。何故こんな反応なのだろうと思って、サクヤさんを見る。


「神様も全員が礼儀正しいわけじゃありません。なので、ちゃんと挨拶をしたハクさんに感心しているのです」

「なるほど……そんな反抗期みたいな事が……」

「神など大体が悪ガキみたいなものじゃ。高貴なイメージなど早々に捨てた方が良いぞ」


 アマテラスさんの言葉に、皆が苦笑いで頷く。全員同じような認識の神様もいるのかな。


「そういえば、ハクちゃんは農業とかやってるの?」


 ウカノミタマさんがそう訊いてくる。【農業】のスキルを持っている事を感じ取ったのかな。


「はい。まぁ、私が面倒を見ているというよりは、神霊の子達が面倒を見ている感じですけど……」


 畑も牧場も既に私の手からは離れている。皆がやりたい事をさせてあげていたらこうなった。まぁ、牧場に関してはメアリーがやってくれているから、神霊とは関係ないのだけど。


「神霊が? ハクちゃんのところには、神霊がいるの?」

「はい。火、水、土、風、雷、花の神霊がいます。光と闇の精霊もいますね。後は、氷炎竜王と雷霆馬、氷姫、フェニックスがいますね。他に一緒に住んでいるフェンリルと神様のヘスティアさんがいます」

「へぇ~……」


 ウカノミタマさんは、唖然としていた。他の神様も同じだ。割と異常な顔ぶれではあるので、これには納得する。


「悪魔の力は、どの程度のものなのですか?」


 ツクヨミさんは、どちらかと言うと悪魔の方が気になるみたい。


「大罪を三つ所有しています。色欲、嫉妬、暴食です」

「なるほど。納得しました」


 大罪を三つ持っていると言うと、皆納得する。そんなに邪気を纏っているのかな。私は何も感じないけど。


「それだけの強さを持ちながら、武の頂きを目指しはしないのか?」

「あまり興味はないですね。どちらかというと、色々な場所に行きたいです」

「旅好きという事か」


 旅好きと言われると、そこまでかと思ってしまうけど、色々な場所の探索をしたいというのは、旅好きに繋がりそうな気がする。


「そんな感じです」

「そうか。勿体ないな」

「あははは……」


 タケミカヅチさんからしたら勿体ないと思える程の強さはあるって事かな。見た感じタケミカヅチさんは強そうだし、武闘派の神様なのかな。

 こんな話をしていたら、急に庭に何かが落ちてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る