第443話 オオクニヌシ
女性は、私の事を上から下へ何かを見極めるような目で見てくる。この神様に私は心当たりがある。とは言っても、このゲームで見たという事じゃない。煌びやかな衣装、頭には太陽のような冠。そこから連想される日本の神様と言えば、天照大神。太陽の神様だ。そして、さっき私が偉い神様から連想した神様でもある。
「ふむ。邪気はあれど、邪神ではないか。何とも奇妙な身体じゃのう。邪神にでもなるつもりか?」
「いえ、出来る事なら、敵対はしたくないです。悪い事もなるべくならしたくないですし」
「む? 確かに邪神を嫌うものは多いが、だからといって、それが安直に敵へと繋がる訳ではないぞ。邪心がないから神と呼ばれておる訳ではないという事じゃ。それに加えて、主からは邪気はあれど悪意を感じない。うちの馬鹿よりも遙かに可愛いものじゃ。のう、サクヤ」
「い、いえ、うちの人は言動があれなだけですし……」
「それが駄目なんじゃろう。話が逸れたのう。取り敢えず、主が悪い者ではないという事は確認出来た。不躾にも疑いの眼差しを向けて悪かったのう」
「いえ、こんな身体ですから、お気になさらず」
不躾と言われて、どのことだろうと思ったけど、私の事を上から下までジロジロと見たのが不躾だったって感じなのかな。私の状態が状態だし、いつもそういう風に見られるから、特に気にならなかった。闇霧の始祖なんて、その筆頭だ。
「ふむ。慎ましいのう」
「えっ、身体がですか……?」
確かに、目の前の女性と比べれば、遙かに慎ましい身体だけど、そういう意味でこんな身体と言った訳ではない。
私の言葉に、女性は手と首を横に振る。
「いや、そういう意味じゃないのじゃ。本当じゃぞ! のう、サクヤ!」
「えっ? ああ、そうですよ。ハクさんの身体では無く、ハクさんの心持ちの話です」
「あっ、なるほど。勘違いをしてしまいました。すみません」
「良い。妾も少し言葉が足らんかった」
絶対にそんな事はないけど、これ以上広げる話でもないので、ここでこの話題は終える。
「これからオオクニヌシのところに行くのじゃったな?」
「はい。変な軋轢を減らすのに良いかもしれないという事もあり、面識を持っておこうという考えで」
「なるほど。なら、その後に妾の宮に連れて来るのじゃ。頼んだぞ」
そう言って、女性は空を飛んで、どこかに消えていった。
「えっと……」
「あっ、すみません。ご紹介も出来ず、あの御方は、アマテラスオオミカミ様。ご本人は、アマテラス様と呼ばれる事を好みますので、そちらでお呼びください」
「分かりました」
やっぱりアマテラスさんだった。日本神話の最高神だから、サクヤさんが畏まっていたのも頷ける。オーディンさんとは違って、話しやすそうな神様だったな。まぁ、オーディンさんとは出会い方あれだったから、色々と疑われて話しにくかっただけだけど。
「アマテラス様もお望みのようですので、オオクニヌシ様の宮殿の後に、アマテラス様の宮にも寄って下さいますか?」
「はい。良いですよ」
アマテラスさんとちゃんと知り合いになりたいし、こちらとしてもお願いしたい事だ。
次の予定も決まったところで、私達は移動を再開した。そうして着いたのは、かなり大きな屋敷だった。敷地面積で言えば、玉藻ちゃんの屋敷の方が広いけど、屋敷自体の大きさはこっちの方が上だ。二階とか三階までありそう。この家に呼び掛けても、中の人には聞こえないだろうなと思っていると、玄関から大きな人が出て来た。筋骨隆々で強そうな感じだ。身長も二メートル以上ある。
「オオクニヌシ様。お久しぶりです」
「おお、サクヤ殿。これはお久しゅう。して、そちらのお嬢さんは?」
「あ、初めまして。ハクと申します。サクヤさんの友人です」
「ほう。なるほど。だから、アマテラス様が何もせずに戻ったのは、そういう事だったか」
「やっぱり、私の邪気ですよね。アマテラスさんにも言われました」
「そうだが……なるほどな。邪気は纏っていても、悪事を働く気はないという事か。多くの祝福を授かっているところから、神々の信用がある事も分かる。中に入りな。サクヤ殿もどうぞ」
「お邪魔します」
オオクニヌシさんの屋敷に入る。中も結構広い。一人で住んでいるわけじゃないらしく、サクヤさんのお城のようなお世話係みたいな人達がいっぱいいた。そこから応接室のような和室に通されて、オオクニヌシさんと対面に座る。サクヤさんは、私の隣に座った。
そして、ここでもお茶が振る舞われた。
「飲むと良い」
「頂きます」
ここのお茶は、結構さっぱりとしている。万人に愛されそうなお茶という感じだ。
「神茶を飲んでも大丈夫という事は、本当に見たとおりの身体をしているのだな」
「そうですね。一応、【熾天使】ですので、神聖属性のものは効きません」
「ほう。天使だとは分かっていたが、そこまでの位を持っていたか。悪魔の方はどうなんだ?」
「大罪を三つ所有しています。一応、このまま七つ得ようと思っています」
「ふむ。確かに、それが良いかもしれんな」
「えっ?」
肯定的な言葉に、ちょっと驚いてしまう。ヘスティアさんもだけど、一応悪魔の最上位に位置する大罪を全て得ようとしているのに、全く止めようという意思を感じない。
「中途半端よりは良いだろう。お嬢ちゃんなら、大罪に飲まれる事もなさそうだしな」
「飲まれる?」
「大罪という重荷に耐えきれず亡くなるという事も少なくはないのです。ですが、ハクさんは、最初から素養があったようですので問題はないという事です」
「なるほど」
最初から闇の因子が多かったから、大罪に進化出来たみたいな事もあるのかな。
「多かれ少なかれ、罪を持たないものなどおらん。一々気にしていたら、人付き合いも神付き合いも出来んぞ。神々も善神ばかりではないからな。神と人の違いなど、力の差くらいなものだ」
「そういうことって言っちゃって大丈夫なんですか? 神様の威厳に関わったり……」
「威厳を示す場とそうではない場がある。今はそうではない場だ。何せ、友人同士の語らいなのだからな」
オオクニヌシさんはそう言って豪快に笑う。オオクニヌシさんは、私を友人と認めてくれたみたい。
「せっかくだ。俺からも祝福を授けよう。お嬢ちゃんなら、悪い事には使わなさそうだ」
「あっ、ありがとうございます」
オオクニヌシさんからも祝福を授けられる事になった。
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【大国主の祝福】:ギルドエリアの土地を限りなく広げる。ギルドエリアにおいて必要な費用が大幅に下がる。様々な良縁に恵まれる。控えでも効果を発揮する。
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何というか、他とは一風変わった祝福を受けた。ギルドエリアの発展が進むようなスキルだ。それに、最後には良縁に恵まれるとある。それが、どのように働くのか気になるけど、多分、あまり意識していないところで働くのかな。
「うむ。良き国を造ると良い」
「く、国ですか? 頑張ってみます」
「うむ。ここからアマテラス様の元に行くのか?」
「はい。ご招待いただいたので」
「ほう。気に入られたな」
「そうなんですか?」
「そうでなければ、御殿に招待などしないだろう。もう行くと良い」
「分かりました」
オオクニヌシさんに見送られて玄関まで歩いていく。そこで外に出ようとした時に、オオクニヌシさんから声を掛けられた。
「時間が出来たら、また来ると良い。いつでも歓迎しよう」
「ありがとうございます。また機会があれば」
オオクニヌシさんに頭を下げてから、オオクニヌシさんの宮殿を後にする。そして、またサクヤさんの案内で、今度はアマテラスさんの宮殿へと向かう。
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