第442話 山の神様

 サクヤさんの案内で、桜の森の奥にある山へと着いた。サクヤさんは、そのまま山の中に入っていくので、私もそのまま付いていく事になった。勝手に入っても良かったのかな。


「サクヤさん、私、完全に部外者ですけど、勝手に入って大丈夫ですか?」

「私がいるので大丈夫ですよ。このまま山頂まで行きましょう」

「はい」


 サクヤさんが大丈夫と言うので、多分大丈夫なのだろう。サクヤさんが傍にいる時に攻撃をされる事はないと思うし。そのまま山頂まで登っていく。山頂は、神社のような和風の建物が建っていた。鳥居はないけど。


「ここが父の家です。お父様、サクヤです」


 サクヤさんがそう言うと、家の扉が開いて、中から恰幅の良い神様が出て来た。短いけど濃い髭を貯えている。


「本当にサクヤだな。地上に降りたのではなかったのか?」

「はい。今日は、友人に神界を案内しようと思い帰省してきました。またすぐに帰る事にはなりますが」

「ほう。サクヤが友人を……ん? 君は……中々に変わった中身をしているな」

「あっ、初めまして。ハクと申します。一応、神の力に加えて、吸血鬼、天使、悪魔、鬼、精霊、竜の力を持っています」

「悪魔の……なるほど。まぁ、サクヤが連れてきたのなら信用が出来るのだろう。それに……それは母上の祝福か」


 サクヤさんのお父さんは、イザナミさんから貰った祝福にも気付いた。


「はい。イザナミさんのいる黄泉比良坂にも行けるので」

「ふむ。なるほどな。おっと、私の自己紹介がまだだったな。私の名はオオヤマツミ。サクヤの父でイザナミの息子だ。そして、山の神でもある」

「よろしくお願いします」

「ああ。せっかくだ。二人とも中に入ると良い。歓迎しよう」


 オオヤマツミさんの家に入って、お茶を振る舞われる。飲んでみると、サクヤさんのところで飲むお茶とよく似ていた。だけど、ちょっとだけ、こっちの方が濃い気がする。


「サクヤさんのところで出るお茶よりも濃いですね」

「ほう。そうなのか?」

「はい。私のところは渋みを抑えていますから」

「これも神茶なんですか?」

「うむ。その通りだ」


 同じ神茶でも違いが出るのは茶葉の種類か淹れ方の違いか。でも、美味しいから良いか。


「母上はご健勝か?」

「はい。元気そうですよ。最近は、サクヤさんとの文通が楽しいみたいで、何度も読み返していました」

「そ、そうか」


 オオヤマツミさんは、意外という風に少し驚いた表情をしていた。オオヤマツミさんの知っているイザナミさんからは想像も付かないって感じかな。


「改めて、母と娘が世話になった。感謝する。そして、これからもよろしく頼む」

「はい。私も色々と話せて楽しいので」

「そうか。それなら良かった。その礼と言ってはなんだが、私からも祝福を授けよう」

「えっ!? な、何か、皆さんポンポン授けてくれますけど、そんなに沢山祝福されて大丈夫なものなんですか?」


 若干怖くなってきたので確認してみる。すると、オオヤマツミさんは大きな声で笑った。


「はっはっはっ! 問題ない。祝福を授けられて死んだものなどおらん。何なら、全ての神から祝福を授かっても変わらんよ。普通は多くの祝福を持てば、権威を得ようと考えるものだがな」

「そうなんですか?」

「残念ながら、そう言った例はいくつかあります。神からの祝福を得た事で、その神の使者などと嘯いて取り入ろうするなどです。私はハクさんがそう言った方ではないと知っていますので、安心して祝福を授けられました」

「なるほど」


 神の代行者とか適当を言っても、祝福という説得力があるから、他の人達は信じてしまう。そういう事が色々な場所で起こっていたのかもしれない。皆は、私がそういう事をしないと信じて祝福をくれたのかな。結構気軽にお礼としてくれたりしていた気もするけど。


「では、祝福を授ける」


 オオヤマツミさんがそう言うと、目の前にウィンドウが出て祝福を授けられた事が分かった。授けられたのは、【大山津見の祝福】というものだった。


────────────────────


【大山津見の祝福】:山において、素材となるアイテムを見つけやすくなる。山における農業などに補正が入る。山の精が力を貸してくれる事がある。控えでも効果を発揮する。


────────────────────


 山の神様というだけあって、山関連の効果だった。アカリと相談してギルドエリアにも山を作って、農業を始めてみようかな。


「ありがとうございます」

「ああ。これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


 こうして、オオヤマツミさんとも友人となった。結構良い神様っぽいから、仲良くは出来そう。


「そういや、このままオオクニヌシの元には行くのか?」

「いえ、あまり動き回ると危ない目に遭う可能性もあるので」

「そうか。なら、寧ろ会いに行っておけ。先にオオクニヌシに認められておけば、後々の面倒のいくつかは簡単に解決できるだろう」

「なるほど……分かりました。ハクさんもよろしいですか?」

「はい。よくわかりませんが、面倒ごとが簡単に解決できるのであれば、私もその方が良いです」

「では、参りましょう」


 サクヤさんとオオヤマツミさんの家を後にして、山を下りていく。


「それで、これからどこに向かうんですか?」


 オオクニヌシという神様の元に向かう事は分かるけど、それがどこなのかは分かっていない。


「オオクニヌシ様の宮殿です。中つ国の統治を退き隠居している場所ですね。元々私達をまとめる役割を担っていましたので、オオクニヌシ様に認められれば、同じように認めてくれる神も増えると思います」

「なるほど。そんなに偉い神様なんですね」

「はい。まぁ、それよりも上の神様もいるのですが」

「へぇ~、そうなんですね」


 もっと上の神様というと、アマテラスとかかな。私が知っている中だと、結構偉い神様だったはず。


「そちらにもお目通りが叶えば良いのですが、さすがに、私ではそこまでの伝手はございませんので」

「いえ、気にしないでください。自分で言うのもなんですが、私は、そういう縁に恵まれてるみたいなので、普通に出会うかもしれませんし」

「ふふふ、そうですね。ハクさんが持つ縁は異常ですから」


 このゲーム内におけるNPCとの縁は、かなり恵まれている。そうじゃなきゃ、そもそも神界に来る事も出来なかったわけだし。


「もしかしたら、こうして歩いている間に出会ってしまうかもしれませんよ」

「そうなったら、ハクさんの縁の力を、もっと信じてしまいますね。これから会うオオクニヌシ様も縁結びと国造りを司る神なので、相性が良いかもしれないですね」

「へぇ~、もう恋人がいる私にはあまり関係なさそう……」

「いえいえ、そういった縁もありますが、もっと広い意味での縁です。例えば、友人としての縁などですね。なので、ハクさんが持つ縁も強化されるかもしれませんよ」

「ああ、なるほど。このまま本当に縁が私の力になるのかな」

「何の話をしておるのじゃ」

「ん? 私の神の力が何を司るものになるのかなって」

「ほう。面白い話じゃのう」

「うん。吸血鬼としては神秘を得てるからね。どんなものになるのかたの……し……み……」


 言葉が途切れ途切れになる。のじゃ口調だし、玉藻ちゃんと話すように返事をしていたけど、ここに玉藻ちゃんはいない。だって、ここは神界だから神の力を持っていないと来られないから。つまり、こののじゃ口調は、人や妖怪じゃなくて神様。そして、サクヤさんがいつの間にか頭を下げているという事は、かなり上位の神様だ。

 恐る恐る声の方、つまりサクヤさんがいる方とは逆の方に首を向けると、物凄い煌びやかな着物を着た女性が微笑んでいた。

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