第441話 神界へ
神桜都市に来た私は、まっすぐにサクヤさんのお城へと移動する。いつも通りサクヤさんの居室まで通された。何度も来ているので、もう顔パスになっている感じだ。それでも一応お世話係さんが案内をしてくれている。結構広いお城だからかな。
「ハクさん、神の力を得たようですね」
「サクヤさんも分かりますか? ヘスティアさんにもすぐに気付かれました」
「神であれば、誰もが気付くと思いますよ。それ以外の力も強まっているようですが。本当に邪神へと変わらないのが不思議なくらいです」
「あはは……奇跡でも起きているんですかね」
そう言ってから、自分が奇跡や理論を超えた現象を引き起こすスキルを手に入れている事を思い出した。もしかしたら、ここで効果を発揮していたりして。まぁ、そんな分かりにくい奇跡とかはないか。いや、このゲームだったら、逆にあり得るかもしれない。光と闇が混在してダメージを受けていた時にもステータスとかでは現れずに急にダメージを受けていたし。
「そうだと面白いですね。そうです。先にこれをお預けしますね」
そう言われて、サクヤさんから渡されたのは、一通の手紙だった。イザナミさんへの返信だ。二人の文通は、ずっと続いている。定期的に私がお茶をしたりしに行って手紙の受け渡しをしているからだ。
「はい。おまかせください」
「お願いします。それでは、早速神界に行きますか?」
「へ? あっ、そういえば、【神力】を手に入れられたら、神界に行けるんでしたっけ。そんなすぐに行けるんですか?」
「今のハクさんであれば行けますね」
「じゃあ、お願いします」
「はい! それでは、お手をどうぞ」
サクヤさんから両手を差し出されるので、その手を取る。そして、エレベーターで一気に何十階も上がるような感覚を経て、周囲がお城のサクヤさんの居室から、自然豊かな外へと変わった。空は天上界のような黄色い空だけど、周囲の自然は緑色の普通の自然という感じだった。何だか神聖な雰囲気もあるような気がする。
「ここが神界」
「はい。高天原です。大昔にあった中つ国を吸収して広大な土地を得ています」
「中つ国?」
「元々地上だった場所です。今の地上は新たに作られた場所ですね。その一部に神界と繋がっている場所もありますが、基本的に人が入る事は出来ないでしょう」
「なるほど」
もしかしたら、他の神話の方でも元々地上だった場所が神界にあるのかもしれない。そう考えると、神界というエリアもかなり広そうだ。
「ここにはモンスターはいないみたいですね」
【万能探知】にモンスターの姿がない。だから、神界そのものが妖都のような扱いになっているのではと考えた。
「はい。好戦的な神や怪物はいますが、地上のように見境無く襲い掛かってくるようなモンスターはいません」
「あっ、やっぱりそういう神はいるんですね……」
「はい。ハクさんは、状態が状態ですから絡まれる可能性はそこそこあります。でも、大丈夫です。その時はボコボコにすれば良いのですから」
「えっ……それで良いんですか?」
「はい。好戦的な神相手であれば、力で制すれば大丈夫です。そういう神は力で序列を決めたがるので」
「へ、へぇ~……」
ヘスティアさんの言っていた問題って、そういう事なのかな。ヘスティアさんは関わらないようにした方が良い派みたいだったけど、サクヤさんは叩きのめせ派みたい。多分、叩きのめした方が後々楽になりそうではある。
「まぁ、戦わないといけない状況になったら頑張ります」
「はい。ハクさんなら大丈夫ですよ」
サクヤさん的には、私でも神様に勝てると思っているみたい。神殺しがあるから、有利と言えば有利なのだけど、さすがに神界で神殺しを使って戦うのは駄目だと思う。完全に敵だと思われるだろうし。神殺し無しで戦うとなったら、かなり苦戦しそうではある。まぁ、その時になったら考えれば良いや。
「では、私の故郷を案内しますね。こちらです」
サクヤさんと一緒に移動を始める。初めて来る場所だけど、サクヤさんがどこに向かっているのかは、すぐに分かった。その方向には大きな山があるからだ。
「あの山が故郷なんですか?」
「山の麓にある桜の森です。神桜都市の周辺と似ていますが、雰囲気は少々異なりますね。ですが、良い場所ですよ」
「楽しみです」
心地よい風を受けながら、草原を歩いていくと、段々桜の森が見えてきた。確かに桜エリアのような場所に見えるけど、纏っている雰囲気は全く違う。やっぱり神聖な雰囲気があるからかな。
そうして、サクヤさんの故郷である桜の森にやって来た。草原の清々しい空気とは、また違う感じがする。強く惹かれるような、そんな感じだ。
「良いところですね」
「はい。久しぶりに帰ってきましたが、改めて私もそう思いました。私ももっと頑張らないといけませんね」
頑張るというのは、神桜都市をもっと良い場所にしないとという事だと思う。確かに、ここを見た後だと、神桜都市には、まだ上があると思ってしまう。神界の雰囲気を再現するのは難しいだろうけど、それが出来たら良い場所になるだろうな。
そう思いながら歩いていて、一つ気付いた事があった。
「この森に家とかはないんですか?」
ここまで歩いていて建築物のけの字も見当たらないのだ。神桜都市では、大きなお城に住んでいたので、こっちでも大きな屋敷とかに住んでいるのではと思っていた。でも、それらしきものは何も見当たらない。神桜都市みたいに隠されているのかな。
「ないですね。基本的には外で暮らしていました。この桜の森の中なら、私は安全でしたから」
「そうなんですか?」
「はい。簡単に言えば、桜の木と同化出来るんです。神界にいる間のみですが」
「へぇ~、そんな事が出来るんですね。確かに、これだけ桜の木があったら、どれに同化しているか分かりませんし、安全ですね」
「はい。せっかくですから、この桜を持ち帰りますか?」
「えっ!? そんな事して良いんですか?」
「はい。私の所有物ですので」
サクヤさんが桜の木に触れると、桜の木がどんどんと縮んでいき、苗木へと変わった。その苗木は、神桜の苗木という名称だった。今もギルドエリアには、桜があるけど、あれは普通の桜の木なので、これはまた別のものだ。ラウネが喜ぶ。ちょうど今の季節は春だしね。
「この先の山に、私の父がいます。会っていきませんか?」
「えっ……会って大丈夫ですか?」
まだ神界にいる神様がどういう感じなのかは分かっていない。サクヤさんのお父さんが、私を受け入れてくれるような神様なのかという不安もある。
「はい。私も友人を紹介したいですから」
サクヤさんがこう言うという事は、本当に大丈夫なのだろう。それに、サクヤさんが私の事を友人と言ってくれる事が、ちょっと嬉しかった。それならサクヤさんのお父さんに会っていっても良いかな。どんな人なのか気になるし。
「じゃあ、お願いします」
「はい!」
元気よく返事をしたサクヤさんに案内されて、桜の森を抜けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます