第449話 全く思いもしなかった話題

 夕食を食べた後、再びログインしたところで、フェンリルがやってきた。私を見たフェンリルは何とも言えない表情をしていた。


「どうしたの?」

『一体、いくつの祝福を授かってきたのだ……』

「えっと……十一かな。後、特殊なスキルを一つ……やっぱり、貰いすぎだよね?」

『それだけ気に入られたという事だろう。だが、一度にそこまで貰うものは数少ないはずだ。人となりだろうな』

「後は、最初からサクヤさんとかオーディンさんと面識があるっていうのも大きいのかな?」

『だろうな。誰かが信用しているという事実は、それだけで信用しても良いのではという考えが生まれるきっかけになり得る。それにしても父も気に入ったのか……』


 フェンリルが父と呼ぶ神様に一人心当たりがある。その神様は、フェンリルの事を『僕のフェンリル』と言っていた。


「ロキさんの事?」

『ああ。何をした?』

「えっと、最初は祝福はあげないって言われたから、それが普通ですよねって言ったら、何か授けられたって感じかな。オーディンさんは気難しい奴って言ってたけど、そういう事?」

『気難しいというよりも、普通と言われたのが気にくわなかっただけだろうな。色々な神に悪戯をして、他者を陥れる事が好きな方だ。それを普通だと言われたのが、ある意味で屈辱的だったのだろう』

「でも、それが祝福に繋がる?」

『ハクが普通じゃないからだろう。神に対してフランクに接するのは、普通じゃないからな』

「それ、ロキさんにも言われた。友人だと思うのは駄目なのかな?」

『神にもよるだろうな。大体の神は気にしないだろう。だが、それでも普通ではないという事は確かだ』


 私が普通ではないという事は、フェンリルのお墨付きになってしまった。まぁ、スキルも異常だし今更な気もしている。

 取り敢えず、フェンリルと一緒に精霊の集会場に来て、縁側に座る。そして、クシナダさんから貰った祝福で櫛を生み出して、フェンリルの毛を梳く。これは便利なものを貰った。まぁ、この使い方はクシナダさんも予想外だと思うけど。

 そこにヘスティアさんもやって来た。


「その様子だと、神界に行ってきたのかな?」

「はい。サクヤさんのところとオーディンさんのところに行ってきました。フレイヤさんとも友達になれましたよ」

「フレイヤ? う~ん……何か動く理由でもあったのかな」

「私がフェンリルを解き放った理由に興味があるようでした」

「ああ、そこから愛に繋がったのね。まぁ、そもそもハクさんにはアカリさんとの愛があるから、興味を持った可能性が高いけど」


 やっぱり、フレイヤさんは愛のあるなしで動いているみたい。フェンリルを解き放った話から私がフェンリルへの愛で動いていたと考えたというのは、本当に間違いないみたい。


「そうだ。ヘスティアさんに質問なんですけど、フレイヤさんをこっちに顕現させる方法とかってありませんか?」


 フレイヤさんは難しいって言っていたけど、もしかしたらヘスティアさんが知っている可能性もあるので訊いてみた。


「う~ん……多分、彼女にも聞かされたと思うけど、神殿を作るのも大変なの。ただ石像を置けば良いって話でもないしね。特に彼女は、美、愛、生、死、豊穣を司るでしょう? 私みたいに、具体的な物……炉とかを司っていれば、それを神殿と依り代に出来るのだけどね。私の場合は暖炉とあの炭ね。彼女の場合、豚の生贄をして一時的に降りる事が出来るみたいな感じになるかな。私みたいに完全に顕現するのは、ここでは無理だね」

「そうですか……」


 フレイヤさんが言っていた事とも一致するし、やっぱり難しいみたい。


「あれ? でも、ポセイドンさんは……」

「海の神だからね。海が依り代になって顕現していたって感じかな。主神に近い存在だから、ある程度自由は利くはずだよ」

「やっぱり主神になると、自由に顕現出来るんですね。でも、主神に近いってどういう基準があるんですか?」

「まぁ、やっぱり神としての力かな。私は姉弟ではあるけど、力で言えば向こうに及ばないからね」

「なるほど……結局、環境もしくは物質として存在するようなものを依り代や神殿の代わりに出来る神様じゃないと、顕現は難しいって事ですよね」

「そういう事。まぁ、自然現象と環境で顕現するのも厳しいとは思うけどね。土地神として降りてきている神は、大体物質を依り代に出来るタイプになるかな」


 これから先土地神を探すとしたら、そういうのが目印になるかもしれない。そのエリアにある物質で依り代になりそうな物がないかみたいな感じで考えていけば良いかな。まぁ、そんな上手く出会えるわけもないけど。いや、オオクニヌシさんに祝福を貰ったから、会える確率は上がっているのかな。


「そうだ。せっかくだから、こっちの神界にも来てみる?」

「…………また明日で」

「まぁ、心的疲労はあるよね。相手が神だし。それじゃあ、また明日迎えに来るね」

「はい」


 ヘスティアさんは、ここで屋敷の方に戻っていった。フェンリルもどこかに駆け出していく。それと入れ代わるようにしてアカリがやって来た。


「ハクちゃん」

「アカリ、もう仕事は良いの?」

「ん? 大丈夫だよ。メアリーちゃんのおかげで、作業効率が上がっているしね」


 アカリはそう言いながら、隣に座る。


「その櫛は?」


 アカリは、私が手に持っていた櫛が気になったみたい。まぁ、普段持っていないようなものを持っていたら気になるよね。


「祝福で自由に出せるようになった櫛。アカリの髪も梳いてあげようか?」

「え、祝福? よく分からないけど、お願いしようかな」


 アカリが後ろを向くので、髪を梳いていく。


「実は神界に行ってきたんだよね」

「神様の世界?」

「うん。そこで十一の祝福と一つの強いスキルを貰ったんだ」

「十一!?」


 アカリは数の多さに驚いていた。まぁ、私も改めて数えてみて貰いすぎって思ったけど。


「その中の一つに追加効果の【愛】の効果を高めるものもあってね。アカリの方にも影響が行くスキルだから、一応覚えておいて」

「そうなんだ……ハクちゃん、いずれ運営からBANされそうだよね」

「ゲームシステム内で、ちゃんとやっているのにBANされたら、運営に苦情入れるレベルだと思うけど」


 少なくとも不正は一つもしていないので、BANはされないと思う。


「だね。そうだ。最近、【吸血】を取る人が増えたみたいだよ」

「へ?」


 全く思いもしなかった話題に、呆けた声が出た。


「何で?」

「ハクちゃんの他に【吸血】を取っている子から、色々と情報が出回ったみたいだね。普通には得られないスキルが沢山手に入るから、一気に強くなれるみたいな話になっているみたいだよ」

「そこに至るまでが地獄だと思うけど」

「うん。そもそも吐いちゃってスキルが手に入らないとか、そういうので色々と文句が出てるみたい。今更の話だけどね」


 そういう文句は、ゲームの初めの方で出て来るものだ。まぁ、多分出てはいるのだろうけど、今改めて文句が出て来た事で運営がどう動くのか気になる。今更改善しますとか言われたら、助走を付けてぶん殴りたくなるけど。


「本当に今更だし、吐くのが悪いと思うけどね。でも、吸血鬼が増えるのかぁ……闇霧の始祖は喜びそうだけど、私はどうでも良いかな」

「まぁ、【吸血】を取れたところで、ハクちゃんみたいにはなれないだろうしね。また普通のプレイヤーからかけ離れたし」

「あはは……明日は、。ヘスティアさんのところの神界にも行くけどね」

「えっ? 神界って一つだけじゃないの?」

「うん。今のところ三つあるかな。神話の数だけあるのかもね。まぁ、運営が登録してある神話の数だけになるだろうけど」


 マイナーな神話とかは、ちゃんと入れているか怪しい。多分、運営がメジャーと思った神話を取り入れているのだと思う。神話を知らない私からしたら、何がメジャーなのか分からないけど。


「そうなんだ。普通には行けない場所なのに、そこまで作り込んでいるんだね。そしたら、地獄も作られてるのかな?」

「さぁ? 黄泉比良坂はあるけど、地獄になると、今作られているかは分からないね。確か、イザナミさんがあるみたいな事を言っていたような気がしないでもないけど」

「滅茶苦茶曖昧……」

「会ったばかりの時に話した内容だった気がする。まぁ、それは良いや。他のスキルは? 【天使】とか【悪魔】とか」

「ある程度人数は増えているみたいだね。でも、天使の試練が難しすぎて、【大天使】から進化はしていないみたいだけどね」

「ああ、まぁ、天聖竜は酷いからね。でも、大分増えたんだ。そのうち、私に追いつくプレイヤーも現れるかな」

「それはないかな。ハクちゃんにあって、他のプレイヤーにないものな~んだ?」


 唐突なクイズが始まった。でも、真っ先に一つ思い付いた事があった。


「レイン達?」

「正解。神霊と精霊の情報は、全然出ていないから、祈りの霊像を洗う人はいないみたいだね。まぁ、普通のオブジェクトと思って無視する人が多いんだろうね」

「まぁ、確かにね。普通にある石像と思って、特に何もしないってプレイヤーばかりだと思う」

「そういう事。それに、神様が他のプレイヤーに祝福を授けるかは分からないしね」

「それもそっか。あっ! 祝福で思い出した! ギルドエリアの敷地が滅茶苦茶広がったのと、ギルドエリアの開発に掛かるお金がかなり下がったみたい。それと畑と豚から採れる素材が増えるから」

「ん? んん?」


 一気に伝えたから、アカリが混乱していた。髪も梳き終えたので、アカリに私の祝福を見せて説明する。


「…………それじゃあ、色々と作っても大丈夫?」

「うん。一応、皆にも相談してね。ラウネ達も畑を広げたいっていうだろうから」

「うん。分かってる。これで、色々と諦めていた事が出来るようになるかも。私もハクちゃんを驚かせたいから頑張ろっと」

「がんば」


 それから、アカリと色々話しながら過ごしていった。フレイヤさんに言われた通りに色々と確認してみたけど、アカリとしては特に何も気にしていないようだった。でも、ちゃんと話を聞けたから良かったかな。

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