第427話 ツンドラタウン
フェンリルの上に乗りながら、【心眼開放】で複数の視点を作り、周囲を見回す。その間、フェンリルは、モンスターを倒し続けた。レインも軽く援護をしていたので、フェンリルもモンスターを倒しやすいみたい。
そんな風に移動していると、大雪原エリアの街が見え始めた。雪と同じ白色を基調とした建築物が建っていた。見た感じ洋風かな。
「街に入ってみよう。フェンリル、ギルドエリアにいる時くらいの大きさになれる?」
『ああ』
「それじゃあ、レインは一旦ギルドエリアに戻っておいて」
『うん』
神霊になって実体のように身体が透けなくなっているけど、他のプレイヤーに見られる事はないと思う。実際、発見された事はないしね。でも、何かしらで見られると面倒くさいので、レインは一旦帰って貰う。フェンリルは、普通の大きさになれば、普通の狼系モンスターにしか見えないので、このまま連れて行く。
街より少し離れた場所で、フェンリルから降りて、フェンリルに小さくなってもらった。大型犬より少し大きいくらいになったフェンリルと一緒に街の中に入る。街の名前は、ツンドラタウンというみたい。住人は、もこもこした服を着ている恰幅の良い熊の獣人だった。ほとんど秋服のような私の姿を見て、住人達はかなり驚いていた。
『普通は、あのくらい厚着をするものなんだな』
「まぁ、【色欲悪魔】で氷系ダメージは受けないから、寒さにも強いみたいなんだよね。寒いと感じるは感じるんだけど。まぁ、今は寒くてもフェンリルをもふれるから、簡単に暖が取れるから助かるよ」
『そうか』
「そういえば、フェンリルの鼻で何か気になるところとかある?」
そう訊くと、フェンリルが周囲を見回しながら臭いを探っていく。私の方は、【心眼開放】で見えるものがないかを探しながら歩いていく。民家とお店があるのが分かる。ガラス張りで中が見えるようになっていた。そこから中を覗いてみると、私は使わなさそうなものばかりが並んでいた。そもそも回復薬を使わないし、武器も防具も壊れる事はほぼないから、NPC製の武具も要らないしね。何か特殊なものが売っていれば良いのだけど、そういう雰囲気もなかった。
『街の中に怪しいものはなさそうだ』
「そっか。それじゃあ、私の目で見つけられるものがないか見て回ってから、探索に戻ろうか」
『うむ』
ちょっと駈け足で街を巡って、青い靄がないかどうかを探していく。でも、ツンドラタウンに青い靄は存在しなかった。街中にあったのは、狼の氷像くらいだ。
「この氷像って、フェンリルの氷像?」
『いや、我は長年あの氷城の地下に捕まっていたからな。我のことを知っている者はいないだろう』
「そうなんだ。じゃあ、氷狼かな」
『近くにいる狼を元に作ったのならそうだろうな』
氷像の正体が分からずにいると、二羽の鴉が肩に留まった。ニクスと同じように留まったから、一瞬気付かなかった。
「うぇ!? 何!?」
『落ち着け。オーディンの使いだ』
「あっ、フギンとムニン?」
【北欧主神の全知】が、オーディンさんの使いであるフギンとムニンの目印になる。そのフギンとムニンが、肩に留まっている二羽の鴉の事みたい。
『氷像は氷狼だ』
『この街では、子供達が遊びで氷像を作るのです。なので、特に深い意味はありません』
ちょっとぶっきらぼうなフギンと丁寧なムニンで正反対の性格をしているらしい。でも、私が疑問に思っていた事を教えてくれた。多分、毎回とはいかないけど、この二羽が教えてくれるのだと思う。
「ありがとう、フギン、ムニン」
『ふん! またな!』
『また来ます』
フギンとムニンは、私の肩から飛び立っていった。
「結局何もないみたいだね。それじゃあ、探索に戻ろうか」
『ああ』
ツンドラタウンには何も無かったので、レインを喚び戻して、大雪原エリアの探索に戻る。フェンリルのリハビリをしつつ、【心眼開放】で視点を増やして、何か怪しいものがないか探る。レインにも全体を探って貰い、怪しい場所がないかを調べて貰う。
そうして走り回っていると、レインが何かに気付いた。
『お姉さん、向こうに穴がある』
「穴? 刀刃の隠れ里を隠していたみたいな?」
『似てるけど違うよ。縦穴じゃなくて横穴だよ。山の中にあって、結構大きい。でも、氷で閉ざされてる』
「なるほどね。それは、確かに似てるけど違うね。フェンリル、向かってくれる?」
『ああ』
フェンリルが方向転換して、レインが気付いた場所に向かってくれる。段々とレインが気付いた穴がある山に近づいていた。かなり大きな山だけど、マップの奥にあるから、エリアの入口からだと分からない。でも、段々と私にも氷に閉ざされた穴の存在が分かってきた。
『ガァ!!』
その山の上からスノウが飛んで来た。どうやら、ここら辺を探索していたらしい。
「スノウ、ここにいたんだね。ここら辺に何かあった?」
『ガァ?』
スノウは首を傾げるので、レインが気付いた穴は、山の向こうと繋がっている訳ではなさそうだ。
「それじゃあ、スノウは一旦戻ってくれる? 私達は、ちょっと洞窟っぽいところに入るから」
『ガァ!』
労いを込めてスノウを撫でてあげてから、ギルドエリアへと帰した。そして、私達は氷で閉ざされた穴の前に着く。山の崖になっている場所にある穴は、私の身長よりも大きい。裂け目という印象も受けるような形をしている。この感じだと内部の形も一定ではないだろう。
「レイン、氷を引き抜ける?」
『う~ん……ちょっと難しそう。壁面に引っ掛かってるから』
「そっか。なら溶かすしかないね」
『気を付けろ。下手に溶かして、山全体を崩す事がないようにな』
「うん。頑張ってみる」
【神炎】を出して、氷に向かって放つ。そうしたら、フェンリルが尻尾で頭を叩いてきた。
「んぐっ……な、何?」
『直接炙るな。熱が広がる。上から雪が落ちてくる可能性があるぞ』
「じゃあ、どうすれば良いの?」
『その熱を身体の表面に限定して氷に触れろ。そうして自分が通れる穴を作れば良い。我と神霊は、貴様程大きくない。それで十分だ』
「表面ね」
フェンリルのアドバイス通り、【神炎】を身体に纏う。その状態で、氷に触れて少しずつ溶かしていく。その熱の余波が、周囲に広がらないように熱も操作して止める。セラフさんとの修行ではぶっ放してばかりだったけど、セラフさんもこういう使い方をして欲しかったのかな。
『上出来だな』
「そう? やったね。レインは大丈夫?」
『うん。このくらいだったら大丈夫だよ。お姉さんが、こっちまで来ないようにしてくれてるし』
「それなら良かった」
氷の蓋に穴を開けつつ進んでいき、その後ろをレインとフェンリルが付いてくる。この先にあるのは、新しい隠れ里かな。
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