第426話 大雪原エリア

 その日は、フェンリルのブラッシングなどをして過ごした。その時にアク姉達が帰ってきたので、フェンリルを紹介しておいた。皆驚いていたけど、私がやる事だからとなった納得していた。それと試しにアク姉に知恵の泉を飲んで貰ったけど、特に何も起きなかった。どうやら【北欧主神の祝福】がないといけないみたい。

 翌日。バイトもないので、早めにログインした私の元にヘスティアさんがやってきた。


「取り敢えず、フェンリルが悪さをする事はなかったよ」

「それは良かったです。今は、どこにいますか?」

「精霊の集会場で丸くなっているかな」

「ありがとうございます」

「うん。気を付けて、いってらっしゃい」

「は~い」


 屋敷を出て、精霊の集会場に行くとフェンリルが身体を起こして、こっちに歩いてきた。大きさは、皆に配慮しているのか大型犬より少し大きいくらいだ。


「おはよう!」


 フェンリルに正面から抱きついて身体を撫で回す。時間は経っているけど、まだお風呂に入った後のもふもふは生きている。


『ああ。おはよう。どこかに行くのか?』

「うん。氷城エリアの先に行くつもり。寒いと思うけど、一緒に来る?」

『行こう。鈍った身体を慣したいのでな』

「オッケー。それじゃあ、向こうで喚び出すね」

『ああ』


 フェンリルも一緒に探索してくれるみたいなので、氷城エリアから大雪原エリアに転移して、フェンリル、レイン、スノウを喚び出す。


「スノウは、自由に飛び回って良いからね。でも、無茶しちゃ駄目だよ」

『ガァ!』


 顔を寄せて来るので、目一杯撫でてあげる。満足したスノウは、元気に飛び立った。これで、マッピングの範囲が広がる。

 大雪原エリアは、雪原エリアよりも雪が深く歩きづらい。一面、雪景色だけど、結構凹凸がある。丘とかが多いのかな。


「レイン、何か感じる?」

『う~ん……雪の下は地面になっている場所が多いかな。詳しいところは、近くまで行かないと分からないかも。後、街みたいな場所があるかな』

「街? 転移場所が出来るのはありがたいかも。まぁ、まずは何にしても吸血だね。いつも通り拘束メインで。フェンリルもお願いね」

『ふむ。倒してはいけないという事だな。了承した。なら、我の上に乗れ。自分の足で歩くのは大変だろう』

「良いの!? ありがとう!」


 一気に大きくなったフェンリルに飛び乗る。一軒家より少し小さいくらいの大きさだから、視点をかなり高くなる。私の前にはレインが座る。レインの腰に手を回して、更に影を使って、私とレイン、フェンリルを繋ぐ。これで簡単に引き剥がされる事はないと思う。

 玉藻ちゃんに乗っている時にも思ったけど、やっぱりもふもふに乗るのは気持ちが良い。気分が高揚してくる。


「それじゃあ、ここら辺を探索していこう!」


 私の声を受けて、フェンリルが駆け出す。物凄い速度で走るのではなく、私が周囲を見られるくらいの速さで走ってくれる。その中で、こっちに向かってくるモンスターがいた。身体に氷を纏った狼で、名前は氷狼というモンスターだった。


『愚かな』

「倒しちゃ駄目だよ」

『分かっている』


 こっちに近づいてくる氷狼をレインが止める。身体に氷を纏っている時点で、レインの拘束対象に含まれる。レインが止めてくれている間に、フェンリルから降りて、氷狼を吸血する。不味いなと思いながら、飲み続けていると、他のモンスター達も集まってきた。身体が氷と雪の結晶で出来た雪の結晶霊のようなモンスターだ。名前も氷結霊と似ている名前をしている。全身が氷系で出来ているから、【完全支配(水)】を持つ私も簡単に引き寄せられる。氷結霊の吸血もしていき、この二種から【氷結牙】【氷結の魔眼】【催眠の魔眼】を得る事が出来た。

 そんな二種を全て倒したと思ったら、一体のモンスターが凄い勢いで近づいてきていた。その姿は、青い鬼。でも、角が氷で出来ている。名前は氷鬼。その氷鬼を、レインが周囲の雪などを駆使して拘束する。そこに、私の血と影を使って拘束を厳重にし、氷鬼も吸血する。氷鬼から得られたスキルは、そのまま【氷鬼】だった。


────────────────────


【氷結牙】:牙による攻撃に氷属性を付与する。また、噛み付いた対象を凍結させていく。


【氷結の魔眼】:MPを消費して、視界に入れた対象を氷結させる事が出来る。控えでも効果を発揮する。


【催眠の魔眼】:MPを消費して、視界に入れた対象を確率で睡眠状態にする。控えでも効果を発揮する。


【氷鬼】:鬼の力を解放している時に使用可能。攻撃に氷属性を付与し、攻撃対象を凍結させる。


────────────────────


 【鬼】の派生系スキルを手に入れたし、魔眼系も増えた。結構良い感じかな。これで消えたスキルもないから、SP稼ぎにも影響はないしね。


『これを繰り返すのか?』

「うん。取り敢えず、スキルを全部獲れるまでね」

『そうか』

「血は美味しくないから、飲まない方が良いよ」

『誰も真似をするとは言っていない。乗れ。また移動だろう』

「うん。ありがとう」


 フェンリルに乗って探索と吸血を続けていく。結局、これ以上新しいスキルは手に入らなかった。


「これで全部かな。後は倒しちゃって良いよ」

『うん!』


 レインが次々にモンスターを倒して行くのが、【万能探知】で分かる。


『中々に恐ろしいな』

「ん? レインの事?」

『貴様も含めてだ』

「私の恐ろしい要素なんて、吸血をするくらいしかないと思うけど」

『あの勢いで血を飲むのは、かなり恐ろしいぞ。それに、他にも妙な力が多いだろう』

「うん。そうだね。まだ自分でも試してない力があるから」


 【反転熱線】の本領である光と闇の混合熱線は、まだ使った事がない。下手にエリアで使うと、他のプレイヤーに迷惑を掛ける事になるし、最悪私も死ぬ事になるから、ボスエリアとかで試そうとは思っている。踏ん切りがついてないから出来てないけど。


「そういえば、フェンリルの戦闘力はどんな感じなの?」

『今のところ、昔よりは弱い。力自体は、長い年月で増幅していたが、まだそれを十分に発揮出来ていない』

「リハビリが必要って事ね。それじゃあ、なるべく戦闘した方が良い感じ?」


 フェンリルの本来の戦闘力を発揮するには、戦闘を熟す必要がありそう。現時点の戦闘力も分からないので、一旦戦闘をフェンリルに任せる事にする。


『出来る事なら、そうしたいところだな。この状態のままで構わん』

「私達が乗ったままで良いって事?」

『ああ』

「オッケー。レイン、ちょっと休憩ね」

『うん』

「少し影を増やしても良い?」

『ああ、問題ない』


 私とレインを乗せたまま、フェンリルは戦闘をする事が出来るらしい。でも、私達が振り落とされる可能性も捨てきれないので、影を増やして私とレインを固定しておく。


「準備オッケー」

『うむ』


 フェンリルの速度がぐんっと上がって、慣性の法則で後ろに引っ張られる。【ベクトル制御】で慣性を殺して、レインを支える。そして、フェンリルは次々にモンスターを引き裂いたり、噛み付いたりして、すれ違いざまに倒していた。それの何が凄いって、全部一撃で倒している事だった。


「単純に攻撃力が高いんだね。これ以上の力を引き出せるって事?」

『我の感覚ではな。まだ十分の一も出せていないだろう』

「わぁ……エグいねぇ」


 最高のもふもふだと思っていたら、最強の狼を仲間にしたかもしれない。多分、速度もこれが本気という事はないと思う。さすがは、北欧神話で主神オーディンを倒した狼って事なのかな。現実に戻って軽く調べてみて、そこに驚いた。そりゃ、オーディンさんも警戒するわけだよね。自分を殺すかもしれない存在を封印していたら、あっさりと封印を解く馬鹿が現れたわけだし。まぁ、これを知っていたとしても、私はフェンリルの封印と解いたと思うけどね。ここ最近は、このもふもふを求めていたから。

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