第428話 氷で閉ざされた洞窟の向こう

 氷を溶かして進んでいき、二分くらいすると、氷の壁を抜ける事が出来た。抜けた先にあるのは、ただの洞窟だ。でも、奥の方に続いている。


「やっと抜けた」

『後ろは氷で閉ざされたな』

「本当だ。レインがやってくれたわけじゃないよね?」

『うん。勝手に塞がったよ。ちょっと不自然な感じだったけど』

「不自然?」

『うん。急いで修復するみたいな感じ。普通は、もっとゆっくりと元に戻ると思う』

「まぁ、自然に直るのを待っていたら、月単位が経ちそうだしね。これで、この先に何かが隠されているっていうのは確定だね。フェンリルは何か分からない?」


 フェンリルがその場で臭いを探る。


『奥から人の臭いがするな。一人だ』

「そうなんだ。本当だ。熱源が一つだけある」

『私は分からないよ』

「じゃあ、氷で出来ている人とかじゃないね。ただ、どんな人か分からないから、レインは戻っておいて」

『うん。気を付けてね』

「うん。ありがとう」


 レインを一旦ギルドエリアに帰す。


「フェンリルって、私が喚び出す以外にギルドエリアに帰る方法ってあるの?」

『神霊と同じように帰せば良い。それで、我が同意すれば帰る事が出来る。まぁ、今回は同意せんがな』

「えぇ……」

『進むぞ』


 フェンリルが先に歩いてしまうので、急いでその横に並ぶ、本当に戻る気はないみたい。テイムモンスターと同じような方法で帰せるけど、テイムモンスターと同じ扱いじゃないから、フェンリルの同意が必要になるって感じみたい。玉藻ちゃん達は、来るも帰るも自由だから、そちらとも違う。自由に喚び出しが出来るだけ、フェンリルの方が扱いやすいって言えるのかな。


『抜けるぞ』


 先の方に光が見え始めた。どこか灯りがある場所に着くみたいだ。スノウは、山の向こうや山に何かあるとは言わなかった。だから、この先にあるのは、山の中だと予想される。

 そのまま歩いていき、洞窟を抜けた。そこには、刀刃の隠れ里のような山の中に出来た大空洞があった。空洞は下の方に続いている。中央に広い場所があって、一番奥に家が建っている。


「やっぱり隠れ里かな。フェンリル、大人しくしてね」

『ああ』


 フェンリルと一緒に中央の広場まで降りていく。そこに着いた途端、一軒家の扉が開いて、中から老爺が出て来た。


「ふむ。ここまで辿り着くとは、外の氷はどうした?」

「えっと、溶かしました」

「ふむ。生半可な火では溶けぬのだがな。それに、その狼……いや、深くは訊くまい。ここは、神闘の隠れ里だ。主に試練を与える。素手で儂に一発与えてみろ」

「えっ? あ、はい。それじゃあ、フェンリルは端の方にいてね。私一人で戦わないといけないみたいだから」

『ああ。気を付けろ』

「うん。ありがとう」


 フェンリル首回りをわしゃわしゃと撫でてから、装備スキルを【プリセット】で素手特化に切り替える。そして、【武闘気】を発動して、【爆熱闘気】【硬化闘気】【敏捷闘気】を発動する。


「ふむ。いつでも掛かってこい」


 そう言われたので、【雷化】で背後に移動して、背中に向かって拳を振う。でも、その拳は老爺の身体をすり抜けた。私が殴ったのは、老爺の残像だったらしい。老爺は、私の背後に回ってきて、蹴りを入れようとしてくる。それは【心眼開放】で分かっているので、その蹴りに後ろ蹴りを合せる。私と老爺の蹴りで、周囲に衝撃波が散る。互いにノックバックを受けて、距離が開く。

 その距離を【雷化】で詰めてお腹に向かって拳を振う。その拳を老爺が手で払いのける。師匠や師範と同じで一筋縄ではいかないらしい。普通に攻撃するのでは無理だ。なので、【雷化】で動き回って、翻弄しながら攻撃していく。老爺は、その悉くを避けていた。この方法でも一撃入れるのは難しいみたい。

 そこで、老爺ではなく地面に蹴りを入れて割る。そうして作り出した瓦礫を牢屋に向かって蹴り飛ばす。その瓦礫を老爺は次々に受け流していく。そこに交ざって、背後に回り、蹴りを入れる。老爺はそれを腕で受けた。


「ふむ。合格だ」

「ありがとうございます。でも、今のわざと受けました?」


 老爺の動きを見ていて思ったけど、最後の攻撃でも老爺は避けられたはず。あの程度で済むのなら、【雷化】で動き回って攻撃していた時にも当てられたはずだからだ。


「うむ。主の腕があれば、儂の武術を会得する事も出来るだろう。そのために、今は闘気を磨け。時が来たら、また来ると良い。そして、儂の事は老師と呼べ」

「あ、はい。老師」


 どうやら、ここのスキルは闘気系のスキルが一定レベルまでいっていないと収得出来ないみたい。まだ【硬化闘気】は取ったばかりだから、レベルが足りないのだと思う。攻撃を受ける事でレベルが上がるスキルは、レベル上げが面倒なのだけど仕方ないかな。【夜霧の執行者】の無駄遣いになるから、そこに抵抗があるってだけだし、そこを我慢すれば解決な訳だからね。

 老師に認められたからか、神闘の隠れ里への転移が可能になった。これでレベル上げを終えたら、すぐに来る事が出来る。


「それにしても、この極寒をそんな薄着で渡り歩くとは、主は馬鹿か?」

「いや、これでも平気だから、動きやすい格好をしているだけですよ。ちょっと寒いなくらいですし」

「ふむ。馬鹿かと思ったが、化物の類いか。主、人ではないな?」

「はい。吸血鬼、天使、悪魔、精霊、鬼、竜、人の混ざりものです」

「思ったよりも凄いな。なるほど。それなら主の状態も納得だ。残りは闘気だけだ。全く、素質はあるというのに……」

「あはは……」


 老師としては、素質がある私が闘気を極められていない事に不満があるみたい。なるべく早くレベル上げをして、ここに戻ってこよう。

 私は老師に挨拶をしてから、また氷を溶かしながらエリアに戻ってくる。フェンリルは、その後ろを付いてきた。


『奴の反応速度は異常だな』

「まぁ、隠れ里で武芸を納めている人は、大抵そんなものだと思うよ。私の攻撃がまともに入るのは、さっきみたいにわざと受ける時か、まぐれで入るときくらいだから」

『ふむ。人類の到達点という事か』


 師匠は妖命霊鬼だから、人類ではないのだけど、あの強さを得た時は人だっただろうから、フェンリルの言う通りなのかな。


「フェンリルが外にいた時代は、そういう人はいなかったの?」

『何人かはいた気もするな。よく覚えていないが』

「私もあの領域に行けるかな?」

『人をやめている時点で、足先は入っていると思うがな』

「足先か……」


 せめて片脚くらいは入りたかったけど、まだまだ力が及ばないみたい。そもそもリハビリ中のフェンリルよりも攻撃力が低い時点で駄目なのは当たり前か。

 そこからは、レインとスノウを喚び戻して、フェンリルに乗りながら大雪原エリアの探索を進めて、全体的に調べる事が出来た。ボスの討伐は、また明日かな。

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