第424話 ハクの責任
フェンリルを見送り、このままギルドエリアに戻ろうとした私の目の前に長い髭を蓄えた白髪のお爺さんが立っていた。杖のような槍のようなものを持っている。どう見ても偉そうだ。
「うわっ!? だ、誰!?」
「我の名は、オーディン。貴様、自身が何をしたのか分かっているのか?」
「あ、これはどうも。ハクです。何をしたって、もふもふを手に入れたでしょうか?」
「もふもふ……」
オーディンさんは、何とも言えない表情をしながらこっちを見ていた。オーディンというと、どこかの神話の偉い神様だったかな。あまり覚えてない。
「奴は、この世界……そして、神々に災厄をもたらすかもしれない存在だ。そんなものを解き放ち、貴様は責任を負えるのか?」
「はい。そんな事をさせるつもりはありませんし。もしそうなるようなら、全力で止めます。フェンリルのやりたい事を尊重はしたいですけどね」
「…………」
私の言葉に、オーディンさんはまた黙る。フェンリル自身も迷っていたようだから、なるべく災厄をもたらすような事はさせないように誘導したいところだけど、それが出来なかった時は私自身が止める。そうじゃないと、せっかく迎え入れる事が出来たもふもふを手放す事になってしまうからね。
「はぁ……そもそもグレイプニルをどうやって切った?」
「これで切れましたよ」
神殺しを見せると、オーディンさんは警戒し始める。当たり前だ。自身を殺せる武器を見せられているのだから。
「その紐は、神の力の類いですよね。そうなれば、この神殺しで切る事が出来ると思ったわけです。合ってますか?」
「……合っている。なるほどな。それで、神を殺すつもりか?」
「私を殺そうとするのなら、そうせざるを得ないかもしれませんね」
これは、オーディンさんに対する牽制。私をこの場で殺そうとするのなら、私は全力で相手になるという事。それは、オーディンさんにとっても危険な神殺しを振うという事。これは、オーディンさんも避けたい事のはずだ。それだけ神にとって神殺しは危険だから。
「……臆しないな。貴様は、今神の前に立っているのだぞ?」
「神様の友人がいますから、神様というだけで臆するという事はないです。それに、今は事が事ですから」
「それほどまでにフェンリルを欲するか」
「はい!」
絶対食い違っているな。私が欲しいのは、フェンリルという戦力ではなく、フェンリルというもふもふだ。ついでに戦力になったら良いとは思うけど、私はあの身体が欲しいという考えの方が強い。
ただ、まっすぐオーディンさんの事を見て受け答えを続けていたら、オーディンさんは小さく笑った。
「貴様が真を言っているという事は分かった。良いだろう。フェンリルの処遇は貴様に任せる」
「ありがとうございます」
取り敢えず、オーディンさんも認めてくれた。それがどのくらい重要なものなのかは分からないけど、こうしてここに来たという事は、ここの管理者だろうから、認めて貰えると貰えないのでは天地の差があると思われる。受け答えに成功したとは思わないけどね。食い違いがありそうだし。
「して、貴様は何者だ? その身から世界樹の気配を感じる」
「へ? ああ、一応、私が管理してる空間に世界樹があります」
何者かと聞かれたので、また種族を答えないといけないのかと思っていたら、まさかの世界樹の方を訊かれた。でも、どうして世界樹なのかは分からない。あれは、確かラウネが仲間になった時に手に入れたレイド報酬だったはず。関係があるとしたら、神話関係かな。そこら辺に詳しくないから、どういう繋がりなのかが分からない。
「それがどうかしましたか?」
「……その世界樹には、泉はあるか?」
「泉ですか? う~ん……あっ、そういえばラウネが、泉が出来たみたいな事言ってたっけ。多分、あります」
「そうか。なら、その泉の水を飲むと良い。それと、我も貴様に祝福を授けよう。奴を制する事が出来るようにな」
そう言って、オーディンさんが私に手を向ける。
『北欧主神オーディンと一定以上の交友関係を結びました。スキル【北欧主神の祝福】を収得します』
ウィンドウが出て、また祝福を得たメッセージが流れる。こんなに祝福をいっぱい持っていて、私の身体は爆発とかしないのか心配になる。まぁ、そうなるのなら神様達が気付くだろうから大丈夫かな。
「そして、この力もやろう」
再びウィンドウが出る。そこには、しっかりとスキルが授けられた旨が書かれている。
『オーディンより、スキル【風纏】を授けられました』
急にスキルまで授けられたので、一瞬パニックになりかけた。でも、そこは心の中で深呼吸をして持ち直す。
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【北欧主神の祝福】:全ての魔法の効力を大きく上昇させる。レベルに関係なく装備している魔法スキルの魔法を全て使用する事が出来る。また、風に関するスキルの効果を大きく上昇させる。控えでも効果を発揮する。
【風纏】:風を吸収し身に纏う事が出来る。纏った風は、任意で爆発させる事が出来る。
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祝福の効果的には、正直そこまで嬉しいものではなかったけど、【風纏】の方は【無限風】に繋げられるスキルだったので、かなり嬉しかった。
「貴様の責をゆめ忘れるな」
そう言って、オーディンさんは消えた。
「あっ……何で風系のスキルなのか聞きそびれた……後で、ヘスティアさんに訊いてみよ。取り敢えず、ギルドエリアに戻ってフェンリルを喚び出さないと」
オーディンさんに言われた責。もしもの事があったら、フェンリルを止めるという責任。それは、絶対に全うするつもりだ。フェンリルを解放したのは、私欲からだし。
取り敢えず、空を飛んで、氷城エリアを抜けていく。そして、ギルドエリアへと転移した私は、フェンリルを喚び出す。フェンリルは、私よりも一回り小さいくらいの大きさで喚び出された。
『遅かったな』
「ごめんね。オーディンさんに捕まっちゃって。でも、大丈夫だよ。ちゃんと許可は得たから」
『……そうか。迷惑を掛けたな』
「迷惑だなんてとんでもない! こうして、ここに来てくれただけでも嬉しいんだから!」
『そ、そうか……』
鼻息荒く力説したら、若干引かれた。だけど、これくらいでへこたれるようなメンタルはしていない。これから、もっとドン引きされるくらい堪能するつもりだし。
「そうだ。世界樹の泉に行かないと」
『世界樹……あれもあるのか』
「知ってるの?」
『見た事はないが、存在は知っている。我も付いていって良いか?』
「うん!」
歩いて世界樹の方へと歩いていく。その間、私はフェンリルの身体を撫で続けた。やっぱり良い。早くブラッシングとかをしてあげたい。
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