第418話 牛頭馬頭

 黄泉比良坂でイザナミさんと会った後は、ニクスを喚び戻して、普通に焦熱エリアの探索を進めていった。黄泉比良坂以外は、ただただ熱い場所という感じだけど、ダンジョンを発見する事が出来た。こっちは、また今度に回して、焦熱エリア全体の探索を進めていく。採掘ポイントを見つけたりするくらいで、大きな収穫はなかった。なので、そのまま焦熱エリアのボスに挑む事にした。

 ボスエリアに転移しようとすると、テイムモンスター禁止エリアとなっていた。


「ごめん、二人とも一緒にいけないみたい」

『そうか。気を付けてくれよ』

『キュイ!』


 二人をギルドエリアに戻して、ボスエリアへと転移する。ボスエリアは、円形の闘技場のような場所で、奥の方には大きな門が建っていた。その門を守るようにして、二体の巨大なボスが立っていた。片方は、牛の頭に人の身体を持つ牛頭鬼というモンスターだった。金棒を武器とするみたい。もう片方は馬の頭に人の身体を持つ馬頭鬼というモンスターだ。こっちは、先端が二叉に分かれた槍のようなものを持っている。

 有名な牛頭馬頭という事かな。テイムモンスターを禁止して、まさかのボスが二体。一瞬卑怯なと思ったけど、そもそもソロで動いている自分が悪いという事に気付いた。

 取り敢えず、白百合と黒百合を出して血を纏わせる。

 最初に動いたのは、牛頭鬼だった。金棒を振り上げて、私に向かって突っ込んでくる。それに対して【雷化】で移動して背後に回る。そのまま牛頭鬼を斬ろうとした瞬間に、第六感が働き、背後から馬頭鬼が攻撃してきているのが分かった。白百合と黒百合で槍を防ぎ、そのまま馬頭鬼に影を伸ばしつつ、馬頭鬼の背後に移動する。そして、その膝を斬ろうとした瞬間、再び第六感が働き、牛頭鬼の攻撃が来ている事に気付く。それを黒百合で受け流して、馬頭鬼に当てる。馬頭鬼は、槍の柄で防いでいたけど、ノックバックで離れる。

 その間に、牛頭鬼の方に影を纏わせて縛り上げる。牛頭鬼は、力尽くで影を引き千切ろうとしてくる。攻撃力は、かなり高い方みたいだ。なので、血液の拘束も追加して、噛み付こうとしたら、背後から馬頭鬼が槍を突き出してきた。それも第六感で認識出来ていたので、攻撃を受け流す。馬頭鬼の体勢が崩れたところで、更に血液と影を出して、牛頭鬼と馬頭鬼をくっつけて拘束した。

 二体の力が強くて、拘束が解かれかねないので、血と影を増量して、拘束を増やしていく。先に拘束していた牛頭鬼の方に噛み付いて飲む。本当に餓鬼達を飲んでおいて良かった。牛頭鬼からも同じ味がしていたので、これが最初だったら終わっていた。直接二体に触れて【黒腐侵蝕】と【氷結破砕】を使う。【氷結破砕】の方は、すぐに蒸発しているので、あまり効果はなさそうだ。

 ここからは、作業になるので、二体から吸血して倒し終える。影も完全支配になったおかげで、より強固な拘束が可能となった。前のままだったら、完全に抑えきれなかったと思う。手に入れたスキルは、【金砕棒】【断罪】という二種のスキルだった。


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【金砕棒】:金棒の扱いに補正が入る。


【断罪】:攻撃を与えた対象のバフを全て解除し、バフの数だけダメージが加算される。


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 武器系スキルが増えたけど、これが血液で再現出来るかどうかが問題になるかな。【断罪】の方は、バフを罪と捉えているという風に見れば良いのかな。正直、スキル名を見た時は、私の大罪に対する対策スキルかと思ったけど、違うようで安心した。ただ、バフを沢山使う相手じゃないと効果がないので、あまり使用しないスキルになるかな。モンスター相手だと、バフを使っているモンスターの方が少ないし。多分、対プレイヤー想定のスキルになるのかな。


「さてと、次のエリアへの転移も開けたし、一旦ログアウトしようかな。夜はレベル上げをして、明日はイザナミさんにご飯を持っていってあげよう」


 夜ご飯のためにログアウトして、夜にもう一度ログインした。明日もバイトはあるけど、今日よりも遅い時間なので、ちょっとだけプレイが出来る。まずは、セラフさんの元に向かう。


「こんばんは」

『こんばんは。今日も修行をしますか?』

「あっ、その前に、根源が増えました」

『それはおめでたいですね。どの根源が増えたのですか?』

「水、風、雷、影です。吸血したら獲れました」


 複数の根源が増えた事を知ると、セラフさんは目を丸くしていた。


『吸血ですか。そもそも根源を受け入れられる状態が整っていなければ手に入れる事は不可能だったでしょう。あなたが頑張った証拠ですね』

「ありがとうございます」


 正直、その身体が整った理由は、私が頑張ったというよりも、精霊達の血瓶を飲んだおかげだと思うけど。


『では、根源を得た力量を見させてもらいますね』

「あ、はい。お願いします」


 ここでセラフさんと属性攻撃での稽古をしていった。それでもセラフさんには、全く勝てなかったけど。

 その翌日。午後過ぎまでバイトをして帰ってきた私は、遅めの昼ご飯を食べてからログインした。ギルドエリアに来た私は、メアリーが作ってくれたご飯を回収する。


『ハクお嬢様。ご飯をご所望ですか?』


 いつの間にかメアリーが背後にいた。私がご飯を漁っていたから、新しく作るか訊いてきていた。


「ううん。ここにある分で十分だよ。ありがとう。でも、しばらくはご飯の量を増やしておいて欲しいかな」

『かしこまりました』


 イザナミさんのためのご飯が必要になるので、料理の備蓄は増やして貰う事にした。メアリーが料理を始めるのを見てから、イザナミさんのところに行こうとする。


「あっ、ヘスティアさんにイザナミさんについて訊いてみよ」


 身近にイザナミさんと同じ神様がいる事を思い出したので、イザナミさんについての情報収集をしておく。ヘスティアさんの部屋に行くと、暖炉の傍で椅子に座っているヘスティアさんがいた。


「ヘスティアさん。ちょっと良いですか?」

「ん? 良いよ」


 ヘスティアさんの前にある席に座る。


「実は、また新しい神様と知り合ったんです。イザナミさんって言うんですけど知っていますか?」

「イザナミ様? 知ってはいるけど、親しくはないかな。多分、基本的にどの神も親しくはないと思うよ。あっちは、あっちで複雑な家庭だしね。イザナギ様の話題は出さない方が良いくらいしか言えないかな。そもそも黄泉比良坂になんて、どうやって行ったの?」

「え? 炎が噴き出しているところに落ちたら、普通に行けましたよ?」

「そうなの?」


 私の話を聞いたヘスティアさんは、少し考え込み始めた。三十秒程してから、口を開く。


「黄泉比良坂は、異界としてこの世界とは別の空間に存在する場所なの。だから、普通は入る事自体が難しいはずなんだけど、何かの拍子に繋がっちゃったのかな。黄泉の炎を無効化出来るハクさんだから、辿り着けたわけだけどね」

「異界? それって、天上界とか神桜都市みたいなものですか?」

「まぁ、そうだね。ただ、天上界は異界に相当するものだけど、神桜都市は隔絶空間って言った方が良いかな。神桜都市は、空間を切り離しているだけで、こっちの世界に存在する場所ではあるから」


 確かに、そうじゃないとサクヤさんの力が桜エリアにあるというのに説明が付かない気がする。


「とにかく、普通に接する分には悪い人ってわけではないはずだから、安心して良いと思うよ。あっ、でも、出されないと思うけど、向こうの食べ物は食べちゃ駄目だよ。ハクさんなら大丈夫だとは思うけど、下手すると囚われる可能性もあるから」

「黄泉の食べ物を食べたら、黄泉の住人になってしまうみたいな話でしたっけ?」

「ピンポ~ン! 大正解! そもそもハクさんは、色々な世界の住人としての資格を所有しているから、問題ない可能性が高いけど、念のためね。イザナミ様もそこら辺は認識しているだろうから大丈夫だと思うけどね」

「なるほど……参考になりました。ありがとうございます」

「ううん。楽しんできてね」


 ヘスティアさんにお礼を言って手を振り別れてから、イザナミさんに会いに行くために、黄泉比良坂へと転移する。

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