第419話 黄泉比良坂で食事会
黄泉比良坂に来たら、イザナミさんがシコメと呼んでいた女性がすぐに駆け寄って来た。シコメさんは、手振りで付いてくるように言ってくる。やっぱり話してはくれないみたい。というか、今思ったけど、シコメって良い言葉ではなかった気がするけど、名前なら仕方ないよね。
そのまま前も案内された場所に来ると、前と同じようにイザナミさんが長椅子にもたれ掛かっていた。
「今日も来たのか。まさか、連日で来るとは思わなかったぞ」
「イザナミさんと仲良くなりたいですから」
「ふむ。変わっているな。それで、持ってきたんだろうな?」
「はい。お口に合うか分かりませんが」
シコメさんが持ってきてくれたテーブルに、メアリーが作ってくれた和洋中の料理を並べていく。
「ほう。見た事のない料理もあるな。にしても数が多い。お前も食べろ」
「え? あ、はい。いただきます」
張り切って沢山用意し過ぎてしまった。まぁ、これでもメアリーが作り置きしてくれている量の半分もないのだけどね。シコメさんが座布団を持ってきてくれるので、そこに正座で座って、イザナミさんと一緒にご飯を食べていく。シコメさんは、すぐに出て行ってしまった。
「ふむ。こうなると、こちらも料理でもてなした方が良さそうだが、こっちの料理は色々な意味でお前達に合わないからな。そこは申し訳ない」
「いえ、気にしないでください。事情は分かっていますから」
「分かっている? 誰かから聞いたのか?」
イザナミさんは眉を寄せて訊いてくる。イザナミさんは、私に神様の友人がいる事を知らないから、そこで疑問に思っているのだと思う。
「私の家にヘスティアさんって神様がいるんです。後、神桜都市のサクヤさんと友人ですね。ポセイドンさんは……お守りをくれたってだけなので、知り合いですかね」
「家に神がいる……? いや、ヘスティアと言ったか。あれは、国家や家の秩序を司る神だったな。それなら家にいるのもあり得る。それにサクヤか……」
サクヤさんの名前を呟いたのと同時に、イザナミさんが少しだけ笑みを浮かべていた。でも、それは、寂しさを伴うような笑みだった。
「サクヤさんがどうかしましたか?」
「ん? 知らないのも無理はないか。サクヤは、妾の孫だ。まぁ、会った事はないけど。妾が一方的に存在を知っているだけだろうな。元気そうにしていたか?」
「元気に土地神をしていますよ。最近は会いに行けていませんが、沢山の着物を頂きました。サクヤさんの手作りです。そうだ。せっかくですから、見てみますか?」
「ふむ。なら、着替えろ。着物が映えるのは、誰かが着ている時だろう」
着物を並べて見せようと思ったら、着物限定ファッションショーを行う事になってしまった。イザナミさんの前で、次々に着物を着替えていく。それを見ているイザナミさんは、終始楽しそうに笑っていた。
「良い腕をしている。素材に合ったものだが、サクヤが選んだのか?」
「はい。私に似合うものを選んで頂きました」
「目も良いようだ」
孫であるサクヤさんの事が知られて嬉しいみたい。それなら、お節介かもしれないけど、一つ申し出てみようかな。
「サクヤさんと文通でもしてみますか? 私は黄泉比良坂も神桜都市も行き来出来ますから、私を挟めば、手紙のやり取りも出来ると思いますよ」
サクヤさんと会えない理由は、黄泉比良坂から出る事が出来ないからだと思うから、私が間に挟まれば、サクヤさんとの文通くらいは出来るはず。それを、イザナミさんが望むかは分からないので、本当にただのお節介だ。
「文通……してくれるだろうか」
「どうでしょう? でも、サクヤさんは無下にしないと思います」
「ふむ……分かった。文を書こう。そして、その前にお前に祝福を授ける」
「ふぇ?」
これでイザナミさんとサクヤさんの関係を構築出来るかなと思っていたら、突然祝福を授けると言われて変な声が出た。
「元々何度か食事をしたら授けるものだったが、真面目に授けてやる。本来の妾なら、子宝に纏わる祝福なのだけど、ここに来てから少し変わった。ただ、お前にとって、有益な祝福になるはずだ」
そう言って私に向かって、イザナミさんが手を向ける。
『黄泉津大神イザナミと一定以上の交友関係を結びました。スキル【伊邪那美の祝福】を収得します』
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【伊邪那美の祝福】:キル数百毎に、収得しているスキル全てに経験値が入る。控えでも効果を発揮する。
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かなり良いスキルを手に入れた。祝福系は、基本的にぶっ壊れスキルが多いのかな。これで、控えにあるスキルにも少しずつ経験値が入るようになる。元々大量のモンスターを相手にしながらレベル上げをする私にとっては、本当に有り難いものだ。
「これで終わり。少し待て」
そう言って、イザナミさんはシコメさんに紙と筆とインクを持ってきて貰って、手紙を書き始めた。その間、私は自分で持ってきたご飯を摘まんでいく。【飢餓】が発動しない時間を少しでも延ばしたいからね。シコメさんも食べるかなと思って、ちらっと見てみたら、シコメさんはあたふたとしながら部屋を出て行ってしまった。恥ずかしがり屋なのかな。
そうして、三十分くらい待っていると、イザナミさんが手紙を書き終えた。結構書く内容に困っていたようで、書いては捨てて、書いては捨ててを繰り返していた。会った事のない孫に手紙を書くわけだから、迷うのも無理はないかな。
「それじゃあ、これで頼む」
封筒に入れた手紙を受け取り、アイテム欄に入れる。
「それじゃあ、行ってきます」
黄泉比良坂から神桜都市に転移して、サクヤさんがいる城に向かう。お世話係さんに案内されて、いつものサクヤさんの居室に入る。
「こんにちは」
「いらっしゃい。さっ、こちらへどうぞ」
いつも通りちゃぶ台を挟んで対面に座る。
「今日は、とある方からサクヤさんへのお手紙をお預かりしてきました」
「お手紙……ですか?」
お手紙をくれる人に心当たりがないからか、サクヤさんは、少し困惑していた。そんなサクヤさんにイザナミさんからの手紙を渡す。
サクヤさんは、まったく警戒せずに開封して、イザナミさんからの手紙を読み始める。読み始めた瞬間に、目を見開いて私の方を見たけど、何も言う事なく、すぐに手紙に戻った。読み進める内に、少しずつ笑顔になっていく。サクヤさんは、二回程読み直すと、私の方を見た。
「これは……イザナミ様からのお手紙……ですよね?」
「はい。実は、黄泉比良坂に行く事が出来たんです。そこで、イザナミさんに、サクヤさんがお孫さんと聞いたので、せっかくだから、文通をしてみたら良いのではと提案したんです。私が間に挟まれば、お二人の文通もちゃんと出来ると思ったので。それに、サクヤさんの名前が出た時に、イザナミさんが寂しそうな表情をされていたので、お節介かなとは思ったんですけど」
「なるほど……ありがとうございます。イザナミ様に関しては、私も話を聞くばかりで、しっかりとお会いした事はないので、こうして私に向けられた言葉を見て嬉しく思いました。私の方からもお願いします。ただ、ハクさんがお越しに来た際に預かって頂ければ良いので。そうでないと、ずっとハクさんが行ったり来たりを繰り返す事になってしまいますし」
「確かに……」
その点は、全く考えていなかった。下手をしたら、ログインして郵便をするだけプレイヤーになるところだった。
「私も返事を書かないとですね。イザナミ様にもお伝えしておきますので、そのようにお願いします」
「はい。ありがとうございます」
サクヤさんのおかげで、そのゲームライフは回避出来そうだ。それだけでも有り難い。
「そうです。イザナミ様も祝福を授けられたようですし、私からも祝福を授けますね」
「へ? あ、はい。ありがとうございます」
サクヤさんからも祝福を貰える事になった。てっきり【神力(封)】がそれになるのかなと思っていたから、ちょっと驚いた。
『木花咲弥姫と一定以上の交友関係を結びました。スキル【木花咲弥姫の祝福】を収得します』
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【木花咲弥姫の祝福】:火への完全耐性を得る。テイムモンスターのステータスが上昇し、テイムモンスターの卵が孵りやすくなる。より上質で神気を纏った酒を醸造可能となる。控えでも効果を発揮する。
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テイムモンスターに卵があるらしい。それは初耳だった。これは、後でフレ姉とかに確認をしてみる。そして、最後のお酒に関する効果も意外だった。サクヤさんに、そんなイメージがなかったからだ。
「何だか凄いですね……」
「そうですか? 基本的に子育てやお酒、鎮火系統の祝福になるので、そこまで唸る程ではないと思いますが」
「私にとっては、凄く嬉しいです。いくつか気になる事はありますけど。お酒って、私でも作れるのかな……?」
「簡単にとはいきませんが、祝福を受けた今でしたら、良いお酒が出来る可能性は、十分にありますよ」
「なるほど」
正直、ゲームシステム的な面で出来るかどうか心配だ。一応、私は二十歳未満だから、お酒を飲むことは出来ないし。製造だけならオッケーみたいな感じなってくれるかも、検証が必要だ。
「では、すぐにお手紙を書きますね」
「はい」
サクヤさんは、別の机に向かって手紙を書き始めた。そのサクヤさんの表情は、私と話す時とは違う笑顔で綺麗だった。
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