第417話 炎の噴出口の中へ

 今日は平日だけど、春休みなので学校はない。ただバイトを入れているので、午前中は外に出ていた。お昼過ぎくらいに帰ってきて、ちょっと遅めのお昼を食べてからログインする。

 そして、今日も焦熱エリアの探索に向かう。恐らく、焦熱エリア内にいるモンスターから得られるスキルは獲り尽くしたと思うので、フラムとニクスに殲滅を頼む。基本的に多少凸凹とした地形をしている。それでも小高い丘とかがあるくらいで、何かが隠されていそうな地形は少ない。

 その中で、怪しい場所と言えば、溶岩湖と炎が噴き出している場所だ。いくつか溶岩湖があるので、フラムに中はどうなっているか訊いてみたら、特に何もないとの事。溶岩エリアのように、どこかに繋がっているという事はなさそうだ。

 でも、炎の噴出口は違った。


「ここの噴出口は大きいね」

『ん? その下、かなり深いな』

「そうなの? 一応、私も入れそう。中が狭い可能性もあるし、ニクスは一旦ギルドエリアに戻ろうか」

『キュイ!』


 ニクスは、肩に留まって、また喚べという風に鳴いた。ニクスをギルドエリアに帰して、私から穴の中に入っていく。炎が常に出ているけど、私には効かないので特に気にしない。防具もこういう系の炎にならあまり耐久値も減らされないしね。そのまま一分くらい落ち続けたかな。ようやく穴の出口に出た。【熾天使翼】で飛び、フラムを受け止める。


『別に受け止めなくても浮けるんだが』

「こっちの方が安全でしょ? それより、これって屋敷?」

『どちらかというと、宮殿に見えるな』

「ああ、確かに」


 私とフラムの視線の先には、広い敷地と大きな建物があった。広さで言えば、玉藻ちゃんの屋敷よりも広い。それ以外には特に何もない。強いて言えば、周囲に炎が燃え盛っているくらいかな。自分で浮いたフラムと一緒に門の前に降りていく。


「モンスターの気配はないみたいだけど、フラムはどう?」

『何も感じない。少なくとも、火に纏わる何かはいないだろうな』

「じゃあ、誰の家なんだろう?」

『さぁな。入らないのか?』


 私が門の前で待っているからか、フラムが訊いてきた。


「う~ん……廃墟なら入るんだけど、どう見ても廃墟じゃないじゃん? 下手に入って刺激しない方が良いかなって。すみま~ん! 誰かいませんか!?」


 大きな声で呼び掛ける。すると、建物の方から着物を着た女性が歩いてきた。女性は、私達がいる事を確認すると、少し慌てて奥へと行ってしまった。


「行っちゃった」

『誰か呼びに行ったんじゃないか?』

「ここの主かな。まぁ、私達がいる事に気付いたみたいだし、きっと戻ってくるでしょ」


 フラムと雑談をしながら待っていると、先程の女性が戻ってきた。女性は、手振りでこちらへどうぞと伝えてきた。何故手振りなのだろうと思ったけど、ライと似たような感じなのかな。まぁ、ライの場合は喋れないじゃなくて喋らないだから、厳密には違う可能性もあるけど。

 女性に付いていくと、玉藻ちゃんの屋敷とは違った形の建物の前に着いた。何か禍々しい柱とかが立っているけれど、何かを支えているわけじゃないみたい。置物的なものかな。

 女性は、そのまま建物の中へどうぞと手振りで伝えてくる。


「ありがとうございます」


 扉に近づいていくと、勝手に扉が開く。その中は、様々な布が垂れ下がっているちょっと神秘的な雰囲気を感じる。


「何者だ?」


 奥の方から綺麗な女性の声が響いてくる。そっちに視線を向けると、奥の方にある長椅子に女性がもたれ掛かっていた。その視線は、私達の方を向いていない。


「突然すみません。私は、吸血鬼のハクと申します。こちらは、私と契約している神霊のフラムです。炎が噴き出している場所に飛び込んだ際に、こちらを発見したので、少し興味がありお話を聞かせて頂ければと思い伺いました」

「吸血鬼?」


 女性は、ようやく私の方を見る。それだけでなく、長椅子から立ち上がって私の近くまで来てジロジロと全身を見てくる。ついでに、フラムの方も見たけど、すぐに頷いて私の方に戻っていた。


「本当に吸血鬼か?」

「正確に言うと、始祖の吸血鬼で、熾天使で、色欲の大罪と嫉妬の大罪を持つ悪魔で、精霊で、鬼王で、竜王です」

「……はぁ?」


 女性は眉を寄せながらそう呟くと、私の頬を摘まんだりとペタペタ触ってきた。触って種族が分かるのか疑問で仕方ないけど、取り敢えず大人しくしておく。せっかく迎えて貰えたのに、話も聞けずに追い出される事は避けたいからね。


「本当みたい……均衡を保っているのは、特殊な力があるからか。変な奴だな」


 そう言うと、女性は長椅子に戻っていった。


「自己紹介がまだだったな。妾は、イザナミ。ここ黄泉比良坂の主だ」


 まさかの人物だった。いや、神物って言った方が良いのかな。さすがに、この人の名前は私でも知っている。それくらいに有名だからだ。


「じゃあ、ここは地獄なんですか?」

「いや、地獄とは別物だ。妾は、管理というものが苦手でな。死者の魂を置く事も出来るが、全部地獄の閻魔に流している。今は、地獄と切り離された場所だな」

「そうなんですか。じゃあ、ここってどういう場所なんですか?」

「妾の住居だ。それ以上でもそれ以下でもない。本来なら常人は来る事は出来ない場所なのだがな。まぁ、お前達に害意はないようだからな。自由に出入りする事を許す。その代わり……何か食べ物を用意しろ。シコメくらいしか話す相手がいないのでな。退屈しのぎになれ」

「食べ物……一応、持っているのだと団子くらいなんですけど」


 イザナミさんに団子をあげる。


「ほう……中々に美味しそうだ」


 イザナミさんは団子を食べると、嬉しそうな笑みを浮かべる。気に入って貰えたみたいだ。


「これはお前が作ったのか?」

「いえ、メイドが作ったものです」


 メアリー作なので、メイドが作ったもので間違いない。それでも、ここまで喜んでくれるので、今度メアリーにご飯を多めに作って貰おうかな。


「ふむ。気に入った。これからも持って来い。場合によっては、褒美をやろう」

「分かりました。また来ます」


 ここで転移場所に黄泉比良坂が追加された。イザナミさんから許可を貰えたという事みたい。一度で何かを貰えるという訳じゃないみたいだから、何度か通ってみる事にする。何か良い物を貰えるかもしれないし。


「帰りは送ってやる」

「へ?」


 どういう事か訊く前に、イザナミさんが指を鳴らす。すると、私とフラムは、焦熱エリアの空中に飛ばされた。


「まぁ、かなり予想外の収穫だったね」

『本当に貰えるか分からないぞ?』

「大丈夫だよ。相手は神様だもん……大丈夫だよね?」

『さぁな』


 これまで、サクヤさん、ポセイドンさん、ヘスティアさんと良い人達ばかりだったから、大丈夫だと思っているけど、フラムに言われて本当に大丈夫か心配になった。イザナミというと、ちょっと怖いイメージもなくはないしね。でも、取り敢えず信用して通ってみる。何かしらのイベントには繋がるだろうしね。

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