第413話 スライム津波と小休止
第八フェーズは、一風変わったフェーズだった。あらゆる方向からスライム系モンスターが押し寄せてくるというものだ。スライムの波があらゆる方向から迫ってくる。スライム、黒蝕スライム、ジャイアントスライム、ラヴァスライム、ミミクリースライム、それと見た事のないスノースライムという真っ白なスライムがいた。
「エアリー、あのスノースライムだけ何体か通してくれる?」
『はい』
近づいてくるスライム達は、エアリーが密度の濃い風の刃のおかげで、私達の元には来ていなかった。HPが低いというのもあるのだろうけど、そもそも核を砕かれると一撃で倒れる存在なので、エアリーのミキサーのような攻撃で、どんどんと核を破壊されて倒されている。
なので、エアリーに頼めば何体か通して貰う事は出来る。スノースライムは初見なので、どんなスキルを持っているのか分からない。せっかく大量にいるので、持っていないスキルを全部獲っておこう考えて、スノースライムを掴んで飲み続けるけど、持っているスキルしか手に入らなかった。大分期待していたのにな。
「もういいや。フラム、エアリーと合わせて焼き尽くして」
『分かった』
『分かりました』
エアリーが撒き散らす風にフラムの炎を混ぜ込む。エアリーの風に煽られたフラムの炎が、奥の方にいるスライム達にも伝播していき、どんどんと灰になっていった。
「スライムって灰になるんだ……」
「いや、核が灰になってるんじゃない?」
「ああ、なるほど」
スライムが灰になっていると思ったけど、アカリの言う通り、核が灰になっているみたい。言われてみれば、スライムの体積のわりに、灰の量が少ないし。
第八フェーズは、簡単に切り抜ける事が出来た。まぁ、それもこれもエアリーがいてくれたおかげなのだけどね。もし、私とアカリだけだったら、かなり苦戦したと思う。道を埋め尽くす程のスライムが津波のように押し寄せてくるのだから。
何気に殺意の高い戦いが多い気がする。前回の殲滅戦での反省を反映させたみたいなものなのかな。
スライムを片付け終えた事で、第九フェーズが始まる。第九フェーズは、周囲から押し寄せるモンスターではなく、エリアの至る場所から現れるゾンビ達だった。私達がいる場所からも出ている。押し寄せてくるからこそ、エアリー達が作る安全圏が機能していた。でも、その内側にも現れるというのは、本当に厄介だ。
ここは、マシロが活躍する場と思ったのだけど、そう簡単にはいかなかった。マシロが浄化し続けても、ゾンビ達は何度でも復活してくるからだ。さっきのスライムの波と同じように、どんどんとゾンビが群がってくる。
「これ……何かおかしい」
『うむ。操っているものがおるようじゃ。じゃが……』
『周囲にはゾンビしかいません』
『つまり、操っている何かがいるって事ですね。うちの子に捜索させてますけど、未だ見つからないみたいです』
『こっちもでありんすね』
清ちゃんの蛇と胡蝶さんの蜘蛛達でも見つけられないらしい。清ちゃんの蛇は一匹だけだけど、胡蝶さんの蜘蛛は、百匹以上はいたように思えるし、恐らくはこのエリアの全体に広がっているはず。それでも見つけられないというのは違和感がある。
「エアリー、何かゾンビじゃない相手は見つからない?」
『はい。現状、ゾンビしかいないように思えます』
エアリーにも感知は出来ないらしい。そこで、少し考える。ゾンビを操っている存在がいるという事は、【死霊術】の類いを使っている可能性が高い。つまりは、闇の力が働いていると考えられる。闇となれば、メアだ。
「メア、何か感じない?」
『う~ん……結構離れた場所に闇の気配があるかな。ゾンビ達よりも濃いよ』
「それだ! どこ!?」
『向こうの方かな。何か形がはっきりしないんだよね』
メアにだけ感知出来ていて、形がはっきりしないという事は、今の相手には実体がない可能性が高い。
「取り敢えず、見てくるかな」
ちらっとアカリを確認してみると、ヒョウカが凍らせたゾンビを即座に砕いて倒していた。取り敢えず、この状況でも戦えているから大丈夫かな。
【大悪魔翼】を広げて、メアが教えてくれた方向に向かって飛んでいく。すると、エリアの端の方に、黒い靄が浮いているのが見えた。神殺しを使って、その靄を斬り裂く。すると、靄が集まっていき、人の姿になった。死霊術士の幽霊という名前のモンスターみたいだ。見た事のないモンスターなので、どこかのダンジョンかレアモンスターというところだろう。【浮遊】で足場を作り、思いっきり踏み込んで死霊術士の幽霊に接近する。でも、その前に、地面で蠢いていたゾンビ達が急に壁を形成して邪魔してきた。死霊術士というだけあって、ゾンビも意のままに操れるらしい。
「ああ、もう! 鬱陶しい!」
【神炎】を使って、ゾンビ達を焼き払う。灰へと還るゾンビ達だけど、その灰の中から再びゾンビとなって立ち上がってきた。
「無限に再生させられる力か……フラムに燃やし尽くして貰うんだった……」
神殺しにどんどんと血を吸収させる。その間にも、死霊術士の幽霊は、ゾンビをどんどんと増やして壁を作ろうとしていた。
『ほいっ!』
目の前のゾンビ達が一斉に稲荷寿司に変わった。
「えっ? 玉藻ちゃん!?」
『ほれ、さっさと倒すのじゃ』
「はい!」
神殺しに溜め込んだ血液を解放して、血の刃として死霊術士の幽霊に飛ばす。死霊術士の幽霊は、それでHPの八割を失う。そこで白百合と黒百合の大鎌に【死神鎌】を発動して斬る。【死神鎌】の効果で、死霊術師の幽霊はHPを全て失った。正直吸血したかったけど、さっさと倒さないと面倒くさくなるのは目に見えていたので、倒す方を優先した。
「玉藻ちゃん、どうしてここにいるんですか?」
『手伝いに来たんじゃろうが。この数に再生力じゃ、殲滅力に長けているハクでも苦戦すると思ってのう。実際面倒くさかったじゃろう?』
「まぁ、血で全部倒せば良いかって思っていたくらいには……」
『そこで玉藻ちゃん登場じゃ! まぁ……稲荷寿司は駄目になったがのう』
玉藻ちゃんは、悲しげな表情になっていた。死霊術士の幽霊を倒したことで、第九フェーズも終わり、稲荷寿司になったゾンビ達は消え去っていた。せっかく作ったのにという風な感じかな。まぁ、変身させただけなのだけど。
何て声を掛ければ良いのかと思っていると、またウィンドウが出て来た。そこには、十分の休憩時間としますと書かれている。
「また休憩みたいです」
『ふむ。さっきのようにならぬと良いがのう』
「そうですね」
黄昏エリアのモンスターが出て来ると、皆が一緒に戦えず、稲荷寿司の大食い大会になってしまう。さすがに、何度も経験したものでもないので、黄昏エリアのモンスターが出てこない事を祈るばかりだ。
そんな事を思っていると、玉藻ちゃんが尻尾で私を抱えて、皆のところまで連れて行ってくれる。そこから十分の休憩を満喫する。皆もきちんと労ってあげないといけないしね。
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