第402話 神器の隠れ里

 玉藻ちゃんと一緒に進むと、一番奥にある一際大きな家の前に着いた。その家の扉をノックする。すると、中から片腕が義手になっている巨漢が出て来た。


「……お前達は何者だ?」


 開口一番にそう訊かれる。


「えっと、外から来ました。これで鍵が開いたので」


 手首の刻印を見せると、巨漢は少し驚いていた。


「ほう……中に入れ」

「あ、はい」


 私達は、巨漢の後に続いて家の中に入る。そして、一番奥の部屋に通された。そこは、どうやら鍛冶場のようだった。


「俺は、ここで鍛冶をしている。親方とでも呼べ。その刻印を、そっちの台座に付けろ」

「あ、はい」


 言われた通り、近くにある台座に手首の刻印を押し付ける。すると、刻印が読み取られた。


「もう良いぞ」


 言われて手を離すと、私の手首の刻印が消えていた。


『ほう。消えたのう』

「はい。これって、消えても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。その刻印は、お前の情報を記録するためにあったものだ。ここに登録すれば、もう用済みになる」

「なるほど……」


 確かにポータルを登録したので、もうあの入口を通る必要はない。だから、刻印も用済みだというのは分かる。そういえば、ポータルに登録した時に、まだこの隠れ里の名前は出てなかった気がする。親方に訊いてみる。


「そういえば、この場所は何て言う場所なんですか?」

「ん? 神器の隠れ里だ」


 何だか重要な隠れ里に辿り着いたみたい。神器がどういうものかは分からないけど。親方は、近くにあるパソコンみたいな機械を操作して、色々と見ている。多分、私の情報かな。どんな情報があるのか分からないけど、何だか恥ずかしい気持ちになる。


「お前は……異質だな。こんな状態で身体を保てる奴は、そうそういないだろう」


 もう言われ慣れているので、これがスキルの事を言っているという事は、すぐに分かった。


「良く言われます」

「ところで、お前は神器を持っているのか?」

「神器って何ですか?」


 気になっていた事を親方に訊く。


「いくつか種類があるが、お前達が持っていそうなのは、長年使われた武器や防具やアクセサリーを強化したものだな」

「長年……この二つはどうですか?」


 私は人斬りと竜狩刀を親方に見せる。この二刀は、師匠と永正さんが使っていた刀だ。長年と言えば、この二刀しか思い付かなかった。白百合や黒百合は勿論、竜霊血姫の装具も長年使っているとは言い難いからだ。


「ほう。確かに、これは神器になる事が出来る……が、二刀を合せる必要があるな」

「……へ? それって、人斬りと竜狩刀を一本にするしか神器にする方法はないという事ですか?」

「そういう事だ。この二刀は、本来の力を出す事は出来ていない。それは、二刀が不完全だからだ。これを直した鍛冶師は、相当な腕の持ち主だな」

「それぞれのまま本来の力を取り戻す方法はないんですか?」


 人斬りは師匠からの譲り物。竜狩刀は永正さんの形見。欲を言えば、二刀は、そのまま残しておきたいと思ってしまう。それを師匠に言ったら、私の好きにすれば良いと言うだろうけど。師匠が頓着しないというわけじゃない。既に私に託したものだから、どうしようと私の勝手という風に考えそうだからだ。


「ない。通常の修復方法では、絶対に無理だな。よくこの状態に戻したと言いたいくらいだ」

「でも、一本にしたら、どちらかの力しか発揮出来ないんじゃ?」

「いや、二つの力を掛け合わせる。ここの天辺を張ってないぞ。俺の腕を信じろ」

「……」


 親方の実力は、正直分からない。知り合って間もないわけだし、それは仕方ない。でも、双刀の隠れ里でも、刀刃の隠れ里でも、一番上の人の腕は確かだった。その点から親方を信じる事は出来る。

 後の問題は、私の気持ちの問題だ。悩んでいる私の頭に玉藻ちゃんが尻尾を乗っける。ちょっと驚いて、玉藻ちゃんの方を見る。


『無理に神器にする必要はないと思うぞ。嫌なら嫌と言えば良いのじゃ。じゃがな。妾は、姿形に拘り続ける必要はないと思っておる。どんなに大切な物も永遠には残らん。物を直す時、その物のみで修復が終われば良いが、中には素材を足さぬといかん物もある。ハクの刀も同じではないか?』


 確かに、人斬りと竜狩刀も、そのままでは使えずに血を使って構成されている。形は同じでも、元のままではない事は事実だ。それに、私の武器や防具だって、最初に作って貰ったものを作り替えている。正直、武器と防具に掛ける想いと形見とでは、色々と違うと思うけど、玉藻ちゃんの言いたいことは分かった。

 人斬りと竜狩刀が一つになったとしても、私が形見や託されたものだという事を忘れなければ良い。若干暴論な気もしなくはないけど、そう考えると気持ちも楽になってきた。

 それに、師匠が使ってくれた方が喜ぶみたいな事を言っていた気もする。それなら本来の力を発揮出来る形で使ってあげた方が良い気もした。


「分かりました。お願いします」


 私がそう言うと、親方はニヤリと笑った。


「任せろ! また三日後に来い! 最高の一振りに鍛え上げてやる!」


 言葉の一つ一つの語気が強すぎて、身体が吹っ飛ぶのではないかと感じた。でも、それだけ気合いを入れて打ってくれるという事でもあるのかな。


「分かりました。よろしくお願いします」

「おう!」


 親方に頭を下げてから、玉藻ちゃんを連れて親方の家から出て行った。二人きりになったところで、私は玉藻ちゃんの方を向く。


「ありがとうございます。玉藻ちゃんのおかげで踏ん切りが付きました」

『うむ』


 玉藻ちゃんは頷きつつも、尻尾で頭を撫でてくれた。手じゃなくて尻尾を使う事が多いのは、私が尻尾を気に入っているからかな。


「じゃあ、外に出て最後まで探索してから帰りましょう」

『む? まだ探索するのじゃ?』

「はい。目的は見つけましたが、まだ全部調べられたわけじゃありませんから。何か発見があるかもしれません」

『ふむ。完璧主義みたいなものかのう?』

「う~ん……でも、拘るのは探索くらいですよ? それに、自分に出来る範囲で満足しちゃいますし、完璧主義とは違うかもです」

『ふむ……まぁ、良いのじゃ。ハクとの冒険は楽しいからのう』

「ありがとうございます」


 玉藻ちゃんに乗って、黄昏エリアの残りの場所を調べに向かった。まぁ、何もなかったのだけど、玉藻ちゃんと楽しく冒険できたと思う。探索が終わる頃に夕食の時間が迫っていたので、玉藻ちゃんと別れてログアウトし、夜に再びログインして刀刃の隠れ里にやってきた。


「師匠いますか?」

「ん? 稽古?」

「いや、もう寝るので稽古は勘弁してください。ちょっと報告に来たんです」

「報告?」


 師匠の家に上がって、師匠と対面に座る。報告する義務があるわけではないけど、しっかりと言っておかないといけない気がしたので、こうしてやって来たのだ。


「実は、人斬りと竜狩刀なんですが、神器の隠れ里という場所で神器にして貰う事にしました。ただ、それぞれが神器になるわけじゃなくて、二本を一本にする事で神器になるようで……」

「へぇ~、ボロ刀だったのに、神器になれるんだ。まぁ、そのくらい長く使ってはいたかな。良い事じゃない」

「……やっぱり、師匠はそう言いますよね」


 師匠は、あっけらかんとした様子で笑っていた。ちょっと重い話になるかなと少しでも思った私が間違いだった。


「ん? 私が怒るとでも思った? あなたに渡した時点で、私がどうこういう権利なんてないし、使いやすいように変えて良いとも言った気がするけど。師匠も私も、そんな事で怒る程小さい人間じゃないしね。あっ、私人間じゃなかったわ。まぁ、それは置いておいて。あなたを守る力になるのなら、どんな形にされても良いのよ。それで師匠の遺志が消える事なんてないのだから。分かった?」


 師匠はそう言って、私の頭を乱暴に撫でる。ちょっと師匠っぽくはない撫で方だった。もしかして、永正さんにされていたみたいに撫でているのかな。永正さんの分も代弁して言うついでみたいなものなのかもしれない。

 でも、師匠達の気持ちは、ちゃんと分かった気がする。


「はい。分かりました。あっ……でも、一本になったら二刀流が出来ないのか……新しい刀を見つけないと」

「そうね。その刀は、自分で見つけると良いわ。自分に合ったものをね」

「はい!」


 明日は学校もあるので、今日はこれでログアウトする。気持ちの整理も付いたからか、ちょっとすっきりとした気分で眠りにつく事が出来た。

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