第401話 黄昏エリアに隠された場所
翌日。ログインした私は、妖都へと転移して玉藻ちゃんのところに来ていた。
「玉藻ちゃんいますか?」
門の前で狐に訊いてみると、こっちにおいでというように後ろを振り返りつつ、尻尾で脚を撫でられた。飼い主に似るみたいな感じなのかな。私は、先導してくれる狐の後に続いて屋敷の敷地に入っていく。
狐に付いていくと、玉藻ちゃんが縁側で寛いでいた。
『む。今日も行くのじゃ?』
「はい。お願いします」
『うむ! では、後は任せるのじゃ』
玉藻ちゃんが狐達にそう言うと、狐達が任せろと言わんばかりに鼻から息を吐いていた。頼もしい感じだけど、狐達は言葉を話せないのに大丈夫のか心配になる。まぁ、玉藻ちゃんの口振り的に、大丈夫なのだろうけど。
玉藻ちゃんを連れて、黄昏エリアへと転移する。そして、九尾狐になった玉藻ちゃんの背中に乗って、黄昏エリアを探索していく。廃村を見つけたけど、そこにはやっぱり何もない。
「やっぱり村には何もなさそうですね」
『そうじゃのう。地面にも何もなさそうじゃ』
「【心眼開放】でも何も見えないですし、周囲の探索に移りましょう」
『そうじゃな』
玉藻ちゃんに乗って、村の周囲を調べて行き、近くにある林の中に入った。その林の中に、青い靄が見えた。
「玉藻ちゃん! 止まってください!」
『む? 何じゃ?』
玉藻ちゃんは地面を削りながらブレーキを掛けて止まる。その玉藻ちゃんの上から飛び降りた私は、青い靄の場所まで歩く。その後ろに玉藻ちゃんも付いてきた。
『そこに何かあるのじゃ?』
「はい」
【心眼開放】で青い靄を固めると、地面にぽっかりと穴が空いた。
『ほう。鬼火を助けたものじゃな。しかし、こんなものが隠れておるとはのう』
「結構深いですね」
『ふむ……涸れ井戸の跡かもしれぬのう。取り敢えず、入ってみるのじゃ』
玉藻ちゃんが私を抱えて、穴の中に飛び込んだ。穴は結構深く二十メートルくらい落ちていった。玉藻ちゃんはふわりと着地する。
「本当に深いですね」
『井戸と考えれば、そこまで不思議な深さでもないじゃろう。それよりも、横穴が続いておるぞ。行くか?』
「はい。行きましょう」
『うむ!』
元気の良い返事をした玉藻ちゃんは、私を抱えたまま歩き出した。私は普通に歩けるのだけど、玉藻ちゃんは気付いていないのかな。まぁ、抱えられて移動するのは慣れているから良いのだけど、相手がアク姉じゃないから、若干複雑な感じもする。
『ふむ。あれは扉のようじゃな』
「本当ですね。しかも、廃都市の地下にあった扉と似ています」
『当たりじゃな』
正面に見えている扉は、周囲の土壁に全く合っていない機械的な扉だった。違和感が凄いけど、ここが目的の場所なのだと一目で分かる。
玉藻ちゃんは、扉の前まで来ると私を地面に降ろした。抱き抱えている事を忘れているわけじゃなかったみたいで、少し安心した。
扉の横にあるパネルに、自分の手首を翳す。すると、パネルから赤い光が出て、私の手首の刻印を読み取った。
『ほう。それで鍵が開くのじゃ?』
「多分……」
スキャンを終えた瞬間、扉の方でガチャガチャと音がし始める。そして、十秒程で扉が開き始めた。どうやら、こっちは定期的にメンテナンスをされているようで、途中で突っかかるという事もなかった。
『ふむ。せっかく目的の場所を見つけたのじゃ。もう少し喜んでも良いのではないか?』
玉藻ちゃんが私の口角を指先で上げながら、そんな事を言う。
「まだこの先に何があるか分かりませんし、油断してはいけないなと思ってしまいますので」
『ふむ。見た目よりも大人な考えじゃな』
「でも、人並みに喜びはしますよ。良い物を手に入れた時とか」
『楽しみにしておくとするかのう』
玉藻ちゃんはそう言って、尻尾で私の身体を掴むと扉の中に入っていった。玉藻ちゃんの尻尾という特等席に座りながら周囲を見回してみる。
扉を潜ったのと同時に土壁から機械の壁に変わった。地下施設のような印象を受けるけど、廃都市エリアのものよりも綺麗だった。
取り敢えず、【万能探知】に引っ掛かるモンスターの姿はないので、モンスターに襲われる心配はないのだと分かる。でも、まだ罠とかがある可能性もあるので油断は出来ない。恐らくだけど、玉藻ちゃんが私を尻尾で運んでいる理由は、そうした罠から守るためだと思う。そうじゃなきゃ、尻尾で運ぶ必要はないし。
『ふむ。この先は、さらに下に行く事になりそうじゃな』
「本当ですね」
一本道の先には、下り階段があった。玉藻ちゃんが下りていくなかで、周囲を見回しながら何かないか探していく。取り敢えず、階段に何かが隠されているという事はなく、下の階に着いた。
再び一本道が続いており、どんどんと進んでいく。また階段が続くのかなと思っていると、一本道の先に開けた場所が見えた。玉藻ちゃんが、少し警戒したのが分かる。この先に何があるのか分からない以上、最大限警戒はしておいた方が良い。今回は、エアリー達もいないわけだからね。
そして、一本道を抜けると、かなり広い空間に出た。それもその空間の上部の方に出ている。階段はないと思ったけど、実際にはまた下らないといけない。
そして、その空間には自然と村が存在した。空間を囲っている壁は機械的だけど、地面は自然豊かな感じになっている。そして、そこで生活している人も確認出来る。
「何でしょう、これ?」
『どうやら隠された場所のようじゃな』
「隠れ里……本当に繋がっているなんて……」
隠れ里に繋がっている可能性もあると師匠は言っていたけど、まさか本当に隠れ里に着くとは思いもしなかった。私としては、何かしらの武器や防具などが手に入るものだと思っていたのだけどね。
『下りて良いものか?』
「取り敢えずは、大丈夫だと思います」
隠れ里で唐突に襲ってきたのは師匠くらいなので、普通にしていれば襲ってくる事はないはず。師匠は特殊な分類だろうから。
玉藻ちゃんは、周囲の様子を確認しつつ階段を下って地面に着いた時に、私を降ろしてくれた。私の大丈夫という言葉を信じてくれたのだと思う。
隠れ里という事もあり、里の中央には転移するためのポータルがある。周囲の人達は、ちらちらと私達を見るけど、襲ってくるという事はなかった。
『ところで、ここからどこに行くのじゃ?』
「そうですね……一番奥の家を訪ねてみましょう。大体、そこに偉い人がいますから」
『ふむ。それは否定できぬのう。妾がそうじゃから』
「そうですね。こういう場所には、二回程来てますが、どっちも奥にある家が目的の場所でしたし」
『うむ! では、参ろうぞ』
里の人達にちらちらと見られながら、奥の方まで進んでいく。
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