第400話 黄昏エリアの本格的な探索

 今日は、三年生の卒業式だった。一年生は参加しないので、普通にワンオンをプレイする。今日の探索は、予定通り黄昏エリアだ。アカリに作って貰ったゴーグルを着けて、黄昏エリアを歩く。今日は誰も喚ばない。メアとマシロなら耐性があるだろうけど、ちょっと心配なので喚ばない。称号も【混沌に対抗する者】に入れ替えて、混乱耐性を上げておく。

 準備を整えて歩き出そうとすると、私の身体をふわふわの尻尾が包み込んだ。


「玉藻ちゃん?」

『全く、この場所に来るのなら、妾に一声掛けてからにするのじゃ。危ないじゃろう』

「ごめんなさい」

『うむ。分かれば良いのじゃ。対策はしておるのか?』

「はい。アカリにゴーグルを作って貰いました。ちょっと見えにくいですけど、混乱せずに済みそうです」

『ふむ……まぁ、これなら大丈夫じゃろう。じゃが、用心はした方が良い。なるべくモンスターを見ぬようにのう』

「はい」


 今の私は混乱状態になりにくいのであってならないわけじゃない。だから、基本的にはモンスターを見ないに越した事はないのだ。


「あっ、そういえば、玉藻ちゃんは、これがどこの鍵か分かりますか?」

『入れ墨のように見えるのう。ふむ……妾は知らぬな。これが鍵なのじゃ?』

「廃都市の地下で付けられたものなんです。一応、鍵という事は分かっているのですが、どこの鍵なのか不明で……」

『その廃都市にはないのじゃ?』

「エアリー達が調べてくれましたが、鍵の掛かった扉などは見つかっていないんです。だから、どこか別の場所にあるんじゃないかと思いまして」

『ふむ……少なくとも妖都で、この形の鍵を使う場所は見た事がないのう』


 玉藻ちゃんは、私の手首の刻印を指先でなぞりながらそう言う。


「やっぱり自分で探さないといけないみたいですね」

『そうじゃのう。取り敢えず、妾に乗って探すと良いぞ。広い範囲を探さねばならぬじゃろう』

「はい。ありがとうございます」


 九尾狐に変身した玉藻ちゃんの上に乗る。玉藻ちゃんに走って貰えば、広い範囲を調べられる。問題は、玉藻ちゃんの柔らかい毛で探索に集中できるかどうかだった。


「はぁ……玉藻ちゃんの身体って最高ですね……そういえば、玉藻ちゃんはフェンリルって知りませんか?」

『フェンリル? 知らぬのう。何じゃ、それは?』

「でっかい狼です。玉藻ちゃんよりも大きいと思います。狼の姿をした神様って感じかもしれません」

『ふむ……やはり知らぬのう』

「そうですか」


 玉藻ちゃんもフェンリルについては知らないみたい。これは長い戦いになりそうだ。

 玉藻ちゃんの上から黄昏エリアを見回してみて、改めてここが怖い場所という事が分かる。ゆらゆらとして不気味な不定形のモンスターが多い。見ただけで混乱状態になるのも頷ける。


『あまり見ちゃ駄目じゃぞ』

「はい。分かってます。なるべく見ないようにするというのも難しいですけど」


 アカリのゴーグルは、しっかりと機能している。混乱状態にはなるけれど、錯乱する程の状態にはならないし、【血液変換】で状態異常の時間を減らせるので、すぐに治す事も出来る。それでも、玉藻ちゃんの言うとおり、見ない越した事はない。


「う~ん……あっ、玉藻ちゃん。あっちにある廃墟に向かってください」

『あっちじゃな』


 少し遠いけど、朧気な輪郭が見えたので、玉藻ちゃんに進路を変えて貰う。近くまで来ると、そこが廃墟だという事がよく分かった。


『ふむ。どこからどう見ても廃墟じゃのう』

「前は誰かが残した日記がありましたけど、こっちは何かありますかね」

『周囲には何もなさそうじゃのう。それに、向こうに塀の跡があるのを見るに、ここは村の跡というところかのう』

「本当ですね。この廃墟を調べたら、他の家の跡も調べましょう」

『うむ』


 廃墟の中に入ると、そこには特に何もなかった。青い靄もないし、何か重要そうな本が残っているという事もない。ただ、他に調べるものもある。それは床だ。私の手首の鍵が何かを隠している場所への鍵と考えると、地下などが怪しくなる。なので、床を重点的に調べて行く。


「ここの床には何もなさそう……」

『廃墟の周囲にも何も無しじゃ。隠し通路も見当たらぬのう』

「分かりました。ありがとうございます」


 玉藻ちゃんも地面に何かないか調べてくれたみたい。おかげで、探索が捗る。後は家の周りを軽く見て青い靄がない事を確認し、次の家の跡を調べて行くだけだ。玉藻ちゃんが見つけてくれた家の跡を調べて行くけど、特に何かがある訳じゃない。そこに家があったという事が何となく分かるだけだ。


「う~ん……こういう廃墟にはないのかなぁ……」

『ふむ。村に置いておく事が出来なかったと考えておるのじゃな?』

「はい。危険なものの管理用とかだったら、寧ろ村からある程度離した場所に作るんじゃないかなと」

『あり得るのう。この村の周囲を回ってみるか?』

「はい。お願いします」


 再び九尾狐になった玉藻ちゃんに乗って、村の周りをぐるぐると回って貰う。地面に目を落としながら、違和感や青い靄がないかを探していく。


「見当たりませんね」

『尻尾で地面を探っておるが、怪しい場所はないのう』

「完全に埋もれているって事もあり得るでしょうか?」

『ふむ。ないとは言い切れんのう。じゃが、それを調べる方法もあるまい』

「いえ、頑張れば、私でも感知は出来ると思います。一々止まらないと駄目だと思いますが」


 私の【大地武装】でも、ソイル程ではないけど、地面の中を感知する事は出来るはず。ただ、動き回りながら感知するとなると、結構難しい。止まって一定範囲内を調べるというのを繰り返す方が現実的だった。


『ふむ。それだと、時間が掛かるのう』

「はい。なので、まずは表から見える部分を全て調べ上げる事からしていきたいと思います。玉藻ちゃんには悪いのですが」

『うむ! 付き合うのじゃ! この場所を調べる時は、一度妖都に寄るのじゃぞ』

「はい」


 皆を喚び出せない黄昏エリアでは、玉藻ちゃんと一緒に探索するのが一番安全だ。なので、玉藻ちゃんの厚意には甘えさせて貰う。玉藻ちゃんに走って貰いながら、黄昏エリアの探索を進めていく。

 玉藻ちゃんのおかげで、順調に探索が進んでいき廃墟や廃村を見つける事が出来たけど、その廃墟や廃村の中に地下への入口や隠し通路などは見つけられなかった。

 この日は、特に何の収穫もなくログアウトする事になった。黄昏エリアの探索は、半分近くまで進める事は出来ている。明日も休みだから、黄昏エリアの探索自体は明日で終わらせる事が出来るかな。

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