第398話 謎の刻印

 一番奥には、エアリー達の言う通り、コントロールルームにあったのと同型の機械が置かれていた。恐らく、上と同じようにUSBメモリが必要になるので、先に六つ全て挿しておく。

 すると、スムーズに起動して画面が移っていった。


「えっと……こっちのキーボードも何も書いてない。本当にいい加減にして欲しい」


 またもや適当にキーボードを打つしかない。切り替わっていく画面の中で、気になる情報を探していく。


「これは……廃都市エリアの監視カメラ? 管理社会かな。生きている監視カメラは……ない。さすが廃都市。他の情報は……」


 そうして画面を切り替えていたら、コントロールルームと同じように目をスキャンされた。すると、急に画面が赤く染まり、画面が切り替わった。同時に、天井からアームが飛び出してきて、私の手首を掴んだ。直後に、手首に焼けるような痛みが走った。


「痛っ!?」

『お姉様!』


 二人が心配して駆け寄ってくる。


「大丈夫。でも……これは、さすがに予想外かな」


 痛みが走った手首には、謎の刻印が刻まれている。何とも言い難い模様で、何を表しているのか全く分からない。見た感じ、まるで入れ墨だ。


「趣味じゃないんだよね」

『そのような問題ですか?』

「まぁね」


 私は、さっきまで赤く染まっていた画面を見る。画面は完全に黒く染まっていた。電源が落ちた感じだ。


「さっき、ちらっと見えただけだけど、鍵の譲渡って書いてあった。その直後に、これを刻まれた。つまり、これが鍵って事だよ」

『鍵……?』


 ソイルは、私の手首を見ながら首を傾げている。この刻印を見ても、鍵だとは思えないから気持ちは分かる。


『問題は、その鍵はどこの鍵かという事ですね?』

「そういう事。この辺りに私達が入った事のない鍵の掛かった部屋ってあるかな?」

『少々お待ちください』


 エアリーがそう言って、ソイルと一緒に目を閉じる。


『ありません。地上も含めて何もありません』

『隠されている……部屋は……ないよ……』


 このエリアに怪しい場所はないみたい。私達が入ってきた地下施設への出入口以外の出入口近くも何もないらしい。ただ、確認はしておく事にする。二人が感知出来ない何かがある可能性もあるし、私の【心眼開放】でも確認しないといけないしね。

 今日は隅々まで調べて、地下施設に何もない事を確かめる事にした。結果、本当に何もなかった。どうやら、私の手首に刻印された鍵だけが、この地下施設の収穫らしい。

 地下施設の探索が終わった段階で、多少時間が余っていたので、刀刃の隠れ里に寄って、師匠に生気を渡す。そのために温泉に入っていた。


「あら? こんなもの付けてた?」


 師匠が私の手首に付いている刻印を触る。これまで何度も一緒に温泉に入っているのに、一度も見た事ないから気付いたみたい。


「あの地下施設で刻まれたんです。何か知ってます?」

「う~ん……何かしらね。私も全部を知っているわけじゃないから」

「そうですか……何かしらの鍵みたいなんですが、使う場所が分からなくて」

「そうね……」


 師匠は、手首の刻印をジッと見る。師匠に心当たりがあるのなら、隠れ里に関連する可能性が高いのだけど、師匠は本当に心当たりがないみたい。


「師匠が知らないのなら、隠れ里関連ではなさそうですね」

「そうとは限らないわよ」

「そうなんですか?」


 どうやら私の予想とは違うみたい。


「ええ。繋がりのある隠れ里はあるけど、そればかりじゃないわ。私達の知らない内に隠れ里が増えていたりするからね。隠れる事情は、それぞれあるから。この刻印が何かしらの鍵というのなら、隠れ里に繋がるものという可能性がないとは限らないわ。まぁ、その可能性があるくらいに考えておいて。本当に隠れ里に繋がるとは限らないから」

「分かりました」


 隠れ里に繋がるものかもしれない。その可能性だけを考えておく。他には、普通に隠しエリアへの鍵というのが考えられる。取り敢えず、無駄に知識がある闇霧の始祖にも話を訊くかな。

 師匠への生気渡しを終えた後、一度ログアウトして夜ご飯などを済ませてから、再びログインし闇霧の始祖の元に向かった。


「ちょっと訊きたい事があるんだけど」

『来て早々なんだ?』

「これ何か知らない?」


 闇霧の始祖に手首の刻印を見せる。闇霧の始祖は、私の手首をジッと見る。


『知らんな。何だ、これは?』

「いや、知らないから訊いてるんじゃん。一応、鍵っぽいんだけど」

『鍵? 全く心当たりがないな。一応、調べておいてやろう。だが、期待するな』

「は~い。それじゃあ、またね」

『ああ。いや、待て』


 話も終わったので帰ろうとしたら、闇霧の始祖に呼び止められた。何かの実験に付き合え的なやつかな。


『身体の調子はどうだ?』


 予想と全く違った。


「ん? 別に変わりないけど」

『そうか。まだ均衡は保っているようだな』

「光と闇の話?」

『そうだ。お前みたいな例は少ないからな。確認出来る時に確認しておきたい』


 私は最高位の天使と悪魔の力が混在している。だから、闇霧の始祖にとっては、ちょうど良い観察対象になっているみたいだ。まぁ、こっちとしても自分の状態を知る事が出来るから、別に構わないのだけど。


「取り敢えず、異常は一切ないよ。一度も異変が起らないし、大丈夫なんじゃない?」

『その油断で死ぬぞ。まぁ、良い。引き続き光と闇を融合させるなよ?』

「分かってるって。そんじゃあ、またね」

『ああ』


 闇霧の始祖と別れた私は、一旦ギルドエリアに帰ってきた。すると、タイミング良くアカリがログインしてきた。アカリは、私が背後にいる事に気付いていなかった。だから、アカリを驚かせるために、背後から抱きしめる。


「ア~カ~リ~!」

「きゃっ!? ハ、ハクちゃん!?」


 ログイン直後に私から抱きしめられたからか、アカリは可愛らしく驚いていた。そんなアカリの前に私の手首を持ってきて見せる。念のため、アカリに見覚えがないか確認するためだ。


「うわっ!? 何これ!?」

「廃都市エリアで刻まれた。何かしらの鍵らしいんだけど、何か心当たりとかない?」

「う~ん……特にないかな。これって、取れるの?」


 アカリも心当たりはないらしい。本当に何の手掛かりもないから、手探りで探すしかなくなってしまった。まぁ、それがこのゲームらしいとは思うかな。

 それよりもアカリは、この鍵の刻印が取れるかどうかの方が気になっていた。


「さぁ? 一度使ったら取れると思いたいところだけどね。趣味じゃないし」

「だよね。もし嫌だったら、隠せるようなブレスレットを作るよ?」

「良いよ。今のブレスレットでも、軽く隠れるし」

「そう? ハクちゃんが良いなら良いけど」

「それじゃあ、光成分も補給できた事だし、レベル上げに行って来る」

「うん」


 アカリにキスをしてから、レベル上げをしに向かう。今日で、完全にマイナスから抜け出す事が出来るかな。まぁ、そこからが長いのだけど。

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