第397話 初めての召喚

 一番下の階層は、短い廊下の先に扉があるだけだった。さっきの地図とエアリーとソイルのおかげで、この先にあるのが広い部屋という事は分かっている。

 ソイルに扉を開けて貰って、中に入る。すると、何となく空気が変わったような感覚がした。同時にエアリーとソイルが強制的にギルドエリアに送還された。


「テイムモンスター禁止エリア……ついでに、ボスエリアって事かな」


 背後の扉が閉まり、正面で何かが動く。照明が点いたところで、正体が判明する。巨大な戦車のようなそれは、身体中に銃を設置している。ただの戦車という訳では無く、その頂きには戦闘アンドロイドの上半身のようなものが付いている。名前は、対大型魔獣用拡張兵器アーマリーというらしい。

 即座に嫌な予感がして、左右の壁際にある衝立のような壁に隠れる。同時に、アーマリーが弾幕を張ってきた。盾にしている壁の厚さがかなりあるので、何とか貫通せずに止まってくれている。緊急の避難所って感じかな。


「この弾幕の中じゃ、【電光石火】を使っても穴だらけにされるかな……」


 【心眼開放】で弾幕の隙間を確認するけど、【電光石火】で抜けられるような隙間は見当たらない。


「どう切り抜けるか……【神炎】で命中する前に融かす事は出来るだろうけど……」


 そう呟いたのと同時に、背中の方で大きな音と振動がした。一応壁は残っているけど、多分ボロボロの状態にはなっていると思う。さらに、この状態でも弾幕は切れない。


「どんだけ弾薬を積んでるの……エアリーがいればなぁ……」


 エアリーなら、弾を全て弾く事も可能なので、ここにいて欲しかった。後は、玉藻ちゃん達がいたら、何かしら変わるかもしれない。


「玉藻ちゃん……ん? いや、もしかしたら……【召喚・ミカゲ】」


 師匠のクエストをクリアした際に貰った妖命霊鬼の指輪。その効果で、ソロかつボスエリアでのみ師匠を喚び出す事が出来る。師匠がどの立場になるのか分からないけど、テイムモンスターとなったわけじゃない。つまり、玉藻ちゃん達と同じ扱いになる可能性がある。

 その予想通り、私の目の前に師匠が現れた。やっぱりテイムモンスター扱いではないみたいだ。

 師匠は、すぐに私の隣に並んで壁を背にした。


「ようやく喚んでくれたと思えば、とても厄介な事になっているみたいね」

「すみません。ちょっと手数が足りなくて」

「そう? 影を移動出来るのだから……ってなるほど。影がないのね」


 あらゆる角度から照射されているのか分からないけど、アーマリー周辺には影がない。もしかしたら、薄くあるのかもしれないけど、どこに出るか分からないから銃口の目の前に出て行く可能性もある。【夜霧の執行者】で回避出来るけど、連続で受ければ、すぐに使い切ってしまう。


「魔法みたいに隙間が多ければ、簡単に通り抜けられるんですけど」

「まぁ、常に同じ場所に攻撃をしている訳じゃなさそうだものね」


 さすがは師匠。私が【心眼開放】で確認出来る事を、素で見切っているみたい。


「どうするの?」

「私が、【電光石火】で攻撃を避けるように動きます。その間に、師匠が接近して斬ってください。師匠なら、相手の武装を潰すなんてお茶の子さいさいですよね?」

「勿論よ。それじゃあ、やりましょうか」


 師匠が狐面を着ける。青色に変化したところから、速度重視に動く事が分かる。最後に師匠と目を合せてから、私は天井に向かって【電光石火】と【重力操作】を使って移動する。私が飛び出したことで、弾幕が追ってくる。しかも、しっかりと偏差撃ちまでしている。ギリギリで当たらないように動くのがやっとだ。【神炎】を纏って、何とか命中は避けているけど、命中するのは時間の問題だと思われる。

 でも、その間に、師匠が壁から飛び出して、一気にアーマリーに接近した。一部の銃が師匠を攻撃したけど、その全てを弾いていた。さすがに、私では全ては無理だ。

 アーマリーに近づいた師匠は、次々に武装を破壊していった。その時点で、既に黒狐になっている。どんどんと武装を破壊していってくれるので、弾幕が薄くなっていった。おかげで、私も【電光石火】で突っ込める。

 そんな私に向かって、アーマリー付属されている戦闘アンドロイドの上半身が、狙撃銃を構えていた。それを、師匠が斬った。その間に、大斧に変化させた白百合と黒百合で、一番大きな砲塔を破壊する。見た感じ大砲というよりもレールガンという感じがしたので、最優先で破壊した。隠れている時にした大きな音と衝撃の正体は、恐らくこれだ。


「師匠は、他の武装をお願いします! 私は食べます!」

「食べ……!? 分かったわ」


 師匠が驚いていたけど、すぐに私が吸血鬼だと思い出したみたい。師匠に武装を任せて、アーマリーに噛み付く。そして、アーマリーを吸収していく。師匠が武装を壊しつつHPもどんどんと削っていくので、大分早く倒し切れた。アーマリーからは、【狙撃銃】のスキルを獲得した。


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【狙撃銃】:狙撃銃の扱いに補正が入る。


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 取り敢えず、これで突発的に起こったボス戦も終わりだ。


「さてと、私はそろそろ戻るわね」

「はい。ありがとうございました」

「また隠れ里に来てね。生気が欲しいから」

「あ、はい」


 師匠は、そのままエアリー達のように刀刃の隠れ里へと転移していった。生気の補充のために、師匠に会いに行かないといけない。まぁ、それはここの探索が終わってからで良いかな。すぐに来てとは言われていないし。

 アーマリーを倒した事で、ボスエリアからも弾かれる事になる。試しにエアリーとソイルを喚んでみたら、二人とも喚び出す事が出来たので、ボスエリアではなくなったのは確かだ。


『お姉様!』

『お姉ちゃん……』

「心配掛けてごめんね。皆が入れない場所で戦ってたんだ。でも、大丈夫だよ。それより、この周辺に何かある?」


 戻って来たエリアは、さっきまでいたボスエリアと同じ場所に見える。アーマリーの残骸は私が吸い取っているのでなくても不思議とは思わない。


『この奥に上層でお姉様が弄っていたものと同じものがあります』

『それ以外は……特に……変わったものは……ないよ……』

「了解。それじゃあ、奥に行こうか」


 他には怪しいところはないみたいなので、周囲を見回しながら奥へと進んでいく。【心眼開放】で見つけられるものがあれば良いと思っていたけど、特にそんなものもなく奥まで進む事になった。

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