第387話 清ちゃんの蛇

 次の土曜日。今日も今日とてビルの中を探索していく。でも、今日はいつもと少し違う。それは清ちゃんがいる事だった。


『中々に凄いところですね。今は、何を探しているんですか?』

「ここにある建物の中を全部調べます」

『へ? 全部ですか?』

「はい。しかも、私の目で直接見ないと手に入らないものもあるので、隅々まで調べ回る必要があるんです」

『それは大変ですね。いつも同じような探索を?』

「はい。でも、これが楽しいので」

『なるほど。楽しめているのなら良い事ですね』


 清ちゃんはそう言いながら、頭を撫でてくる。それに乗じて、清ちゃんの首にいた蛇が私の方にやって来て、首にくるくると巻き付いてきた。現実でも首に蛇を乗せた経験はないので、ちょっとだけ緊張する。


『好かれているようですね。噛み付きはしないので大丈夫ですよ』


 清ちゃんと言う通り、蛇の方が私をジッと見て身体に巻き付いたりするだけで、害を為そうとする事はなかった。最終的に満足したのか清ちゃんの身体に戻っていく。


「その蛇は、清ちゃんの家族なんですか?」

『そうですね。私の化身のような存在です。だから、この子の行動は、私の意思でもあります』

「へぇ~……ん? じゃあ、さっきのは、清ちゃんがやりたかったって事ですか?」

『大正解です』


 清ちゃんは笑顔でそう言ってくる。私の身体を触りたいみたいな事に繋がると思うのだけど、それをちゃんと分かっているのかな。


『男に恋をして痛い目に遭いましたからね。まぁ、原因は私にもあるのですが……』


 清ちゃんはそう言うと、少し遠い目をしていた。過去に何かやらかした感じかな。清ちゃんについては調べてないからよく分からないけど、玉藻ちゃんも色々やっているし、女子会メンバーは何かしらやらかしていると考えた方が良さそう。まぁ、私には関係ないだろうし、気にしないで良いかな。


『それじゃあ、私も探索を手伝いますね』


 清ちゃんはそう言うだけで、何かが起きる事はなかった。胡蝶さんは沢山の蜘蛛を放って、気付かないところでモンスターを狩ってくれていたみたいなのだけど、清ちゃんは沢山の蛇を喚び出したりはしなかった。ジッと清ちゃんを見ていると、清ちゃんは首を傾げていた。


『どうかしました?』

「いえ、蛇が出て来るのかなと思いまして」

『蛇に変身は出来るけど、蛇を喚び出すのは無理ですね。なので、一緒に歩いてお手伝いします』


 蛇は喚び出せないらしい。普通に清ちゃんと歩いて探索するだけになるかな。でも、楽しそうだから良いか。

 エアリーとソイルを喚んで、いつも通りに探索を始める。清ちゃんやエアリー達と話ながら探索していると、清ちゃんの首にいた蛇が清ちゃんから降りてどこかに行ってしまった。


「清ちゃん、良いんですか?」

『問題ありませんよ。恐らく、敵意か何かを感じ取ったのでしょう。ただの蛇ではありませんし、ちゃんと戻って来ますから』

「それなら良いんですけど……」


 ちょっと驚いたけど、清ちゃんは落ち着いてそう言っているので、恐らくは大丈夫なのだと思う。ちょっと心配だけど、私で言うスノウやニクスと同じ扱いという事だと思う。あの二人なら、空を自由にさせておいても大丈夫だと思うし。

 そんなハプニングありつつも、探索を続けていると、USBメモリを一つ見つけた。


『それはなんですか?』

「USBメモリです。中に記録が入っているんです。ただ、これを調べる方法がないので、そこは探さないとですけど」

『へぇ~、発展している場所だと、そんなものもあるんですね。こういうのは使えないんですか?』


 清ちゃんはそう言って、私を手招きする。清ちゃんの元に来ると、そこにはパソコンが置かれていた。これまでのオフィスには一つも置いていなかったのに、回収漏れか何かかな。


「こういうので見るんですけど、電源がないですから……はっ! 私が電源になれば!」


 自分の指を電源プラグの代わりにして突っ込み、電気を送る。すると、パソコンが爆発した。黒煙まで出して、もはや完全に使い物にはならないだろう。


「…………」

『…………』

『お姉様?』

「出来ると思うじゃん!」


 【蓄放電】を持っているので、軽く電気を流せば都合良く電源が入ると思ったのだけど、そもそも出力をミスして、パソコンを吹き飛ばす事になった。唐突にパソコンが弾けたので、清ちゃんも驚いてぽかんとしていた。


「出力調整が出来てないからかな?」

『お姉様の出力ですと、最低限の出力でも強すぎると思います』

「そうかな?」

『私も……そう思う……』

「そっかぁ……」


 私の最低出力でも強すぎるという事は、ライも同じだ、これはちゃんとした電源に頼らないといけないかもしれない。


「せっかく清ちゃんが見つけてくれたのにすみません」

『いいえ、大丈夫ですよ。取り敢えず、こういうものを見つけたら教えてあげれば良いですか?』

「はい。お願いします」


 次は、自分でどうにかせずに、回収してアカリにあげようと思う。もしかしたら直してくれるかもしれないし。ギルドエリアには、そういう電気で動くような機械も色々とあるから。

 パソコンにも気を付けながら、探索を進めていると、清ちゃんの蛇が帰ってきた。どこかに行った時との違いは、お腹がまん丸に膨れていることくらいかな。


『たっぷり食べたようですね』


 蛇はみるみるうちに元の身体に戻っていき、清ちゃんの首の上に戻って来た。


「機械を食べて大丈夫ですか?」

『はい。この子は、何でも食べる事が出来ますから』


 一瞬、私と同じかと思ったけど、すぐに蛇と自分が同じって結構ヤバいな感じた。吸血とはいえ、ここのモンスターを食べたという点でも同じだし。


『道理で、モンスターの数が前よりも少ないわけです。私の方で処分する数が、三割程減っていました』

「そうなの? 結構沢山食べたんですね。お腹壊さないようにね」


 頑張ってくれたので、恐る恐るだけど頭を撫でてあげる。すると、蛇は少し嬉しそうにしていた。それどころから私の腕を伝って絡みついてきた。絞められるという事はなかったけど、ちょっと怖いという気持ちは抜けきらない。身体を一周してから、清ちゃんの元に戻った。

 そんな風に蛇とも仲良くなりながら続けた探索では、結局USBメモリ一つしか成果はなかった。取り敢えずは、見つかっただけ良しとする。まぁ、全部で何個あるのかは分からないから、何の指標にもならないのだけどね。

 一番の成果は清ちゃんともっと仲良くなれた事だと思って満足しておこう。

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