一周年の吸血少女

第384話 廃都市エリア

 翌日。ギルドエリアにログインした私は、アカリと一緒に作業部屋にいた。


「なるほどね。掲示板で見たけど、本当に混乱状態が酷いんだ。確か、プレイヤーの間では狂気状態って呼んでるみたい。最終的には、自分で自分を攻撃して死に戻りって形らしいね」

「私は実際に見た事がないから分からないけど、紙に書いてある通りの事だったら、普通の混乱状態じゃないっていうのは確かだと思う。亡くなった人の声が聞こえるとか書かれてたし」

「結構怖いね。それで、その狂気状態をどうにかしたいって話だよね?」

「うん。称号である程度はどうにかなると思うんだけど、多分完全には防ぎきれないと思うから。混乱状態にはなるって感じかな?」


 玉藻ちゃんと約束していたため、ここら辺の実験はしていない。なので、称号でどこまで狂気状態がマシになるのかは分からない。でも、無効化じゃないところを見るに、対策は必要と考える。


「まぁ、アクセサリーでどうにか出来るとは思うけど、無効化は無理だよ」

「そっか。出来るだけ視界に入れないとかで対応出来たりしない?」

「そうなると、サングラスかな。色々と考えてみるけど、すぐには無理かな」

「オッケー。じゃあ、しばらくは廃都市エリアを探索しようかな」

「それが良いかもね」


 さすが無効化のアクセサリーは作れないみたい。まぁ、無効化してくれるスキル自体がかなりレアだから、アクセサリーで都合良く無効化とはいかないって感じかな。


「それと、フェンリルが欲しいんだけど情報ってある?」

「へ? フェンリル? ないけど……どうしたの?」


 唐突にフェンリルが欲しいと言ったら、アカリは困惑していた。まぁ、私もアカリの立場だったら困惑すると思う。そのくらいには唐突だったから。


「玉藻ちゃんが九尾狐に変身したんだけどさ。ふわふわの体毛が最高すぎて、久しぶりにフェンリルに埋もれたくなったんだ。だから、昨日の夜はテイマーズ・オンラインにログインしてフェンリル達に埋もれてた。久しぶりに圧死するかと思った」

「あぁ……もしかして、こっちでもフェンリル天国を作ろうとしてるの?」

「うん! 玉藻ちゃんであれなら、ちゃんと手入れしたフェンリルは最高だと思うから!」


 ちょっと興奮している私に、アカリは若干呆れたような目をしていた。あの頃と全く同じなので、ちょっと懐かしい。


「でも、仮にフェンリルがいても、テイマーズ・オンラインと同じでボスモンスターなんじゃない? テイム確率は、かなり低いと思うよ?」

「いや、今回はちょっと自信あるよ。【神獣使い】のスキルを持っているし」

「ああ……確かに狼の神様だから、神獣って扱いになってるかもね」

「でしょ? アカリのミルクとシルクで同じモンスターをテイム出来る事も分かってるし、こっちでもフェンリル天国を作れそうじゃない!?」

「作れるだろうけど、普通に大変だと思うよ?」

「困難が大きければ大きい程、得られた時の快感が良いんだよ! という訳で、何か情報が入ったら教えて」

「分かった。何かしらの話が聞けたら、教えてあげるね」

「ありがとう」


 取り敢えず、アカリにフェンリル天国計画を話しておいたので、急にフェンリルが増えても驚かないと思う。アク姉達は、何となく適応するだろうから大丈夫。これで、心置きなくフェンリル探しを始められる。まぁ、多分すぐには見つからないだろうけど。


「それじゃあ、廃都市行ってくる」

「うん。いってらっしゃい。気を付けてね」

「は~い」


 廃都市に行くには、黄昏エリアを通る必要があるけど、空の高くを飛んでいけばモンスターに遭遇せずに進む事が出来る。探索は無理だけど、【電光石火】も合せれば一分くらいでボスエリアの前に着く。そこからは、【万能探知】でモンスターの居場所に気を付けつつ廃都市エリアに転移すれば良い。


「ふぅ……成功。やっぱり、エリアの奥の方はモンスターの数が多くなってたなぁ。かなり危険なエリアだったけど、こっちはどうなんだろう。玉藻ちゃんは、基本的に安全みたいな事を言ってたけど」

『調べてみなんすか?』

「わっ!? こ、胡蝶さん!?」


 急に隣に胡蝶さんがいて、本当に驚いた。玉藻ちゃんもだけど、現れるときにお知らせがないのは心臓に悪いかも。

 そして、その後にもっと心臓に悪いものを見た。胡蝶さんの身体から沢山の蜘蛛が出て来て、エリアに広がっていった。絡新婦である胡蝶さんの能力って事かな。


『中々に広いところでありんすね。それに、変わった生き物もいなんすね。いや、これは生き物ではなさそうでありんすな』

「ん?」


 【万能探知】をフルに使い、周囲を探る。すると、少し離れた場所にモンスターがいる事が分かった。その形は人型だけど、ちょっと角張っている感じがしている。


「何でしょう?」

『見てみれば早い思いなんす』

「ですね。【召喚・エアリー】【召喚・ニクス】」


 念のため、エアリーに周囲を警戒して貰う。周囲の探索も含めていて貰った方が安心だ。ニクスは、空からの警戒をお願いする。スノウだとちょっと身体が大きいから、小回りの利くニクスが良いと判断した。


「今回はよろしくね」

『はい。お任せ下さい。蜘蛛のような生き物もいますが、こちらは?』

「胡蝶さんの蜘蛛だから、何もしないで大丈夫だよ」

『分かりました』


 一応、どんなモンスターがいるのか、どういうエリアなのかも分かっていないから、喚び出すのはエアリーとニクスだけにしておく。

 胡蝶さんも連れて、モンスターの居場所に向かっていく。そこで、このエリアのモンスターがどういうものなのかが分かった。そこにいたのは、完全に全身が機械で出来た人型ロボットだった。モンスターとしての名前は、戦闘アンドロイドというものだった。


「メアリーとは違う機械人形?」

『そうでありんすな。自立思考ではなう、指定された命令で動くという感じでありんしょうか。メアリーと重ねて、攻撃を鈍らせないように』

「はい」


 戦闘アンドロイドは、私達を感知すると、手に持った銃を向けてきた。


『おっと、それは駄目でありんす』


 胡蝶さんが手を伸ばして指を動かすと、戦闘アンドロイドが向けていた銃が別方向に向いて、その動きを止めた。


『玉藻ちゃんから聞いていなんす。何でも吸いたいんでありんすね?』

「あっ、はい。ありがとうございます」


 胡蝶さんが止めてくれている間に、戦闘アンドロイドに吸血する。何を吸う事になるのか疑問だったけど、口の中に入ってきたのは、戦闘アンドロイドの内部機械だった。完全に機械という無機物を食べている状況だけど、吸血として発動しているので続けて全て吸った。


「ふぅ……金属って感じ……」

『本当に何でも食べられるんでありんすね』

「はい」

『では、そこの建物も食べられるのでありんすか?』

「えっ!? あ~……出来ますね」


 一瞬戸惑ったけど、何でもかんでも食べているので、コンクリートくらいなら食べられるとすぐに判断した。


『う~ん……あまり食べ物以外は食べてはいけんせんよ』

「あ、はい」


 普通は食べ物以外のものを食べるわけもないので、これには頷いておいた。まぁ、よっぽどの事がないと食べようとは思わないし。

 因みに、戦闘アンドロイドからは、【突撃銃】を手に入れた。


────────────────────


【突撃銃】:アサルトライフルの扱いに補正が入る。


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 この感じだと、本格的に銃系スキルが増えていく事になりそう。本格的に銃の取り扱いも考えた方が良いのかな。

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