第382話 黄昏エリア
夜中と翌日一日を掛けて、妖都の探索を終わらせた。基本的には、拡散している鬼火を固めてあげるくらいがやる事で、他はただの観光となった。その際に、玉藻ちゃんがやって来て、観光案内をしてくれた。玉藻ちゃんは、妖都の住人達から慕われているようで、皆が気さくに挨拶をしていた。その中で、清ちゃんのお店で清ちゃんの手料理も食べられた。行列が出来ていたけど、玉藻ちゃんが通ったら皆が列を開けていた。割り込みになるのではと思ったけど、通された場所は、他のお客さんとは別の場所だったので、VIP待遇って感じだった。因みに、清ちゃんの料理は、本当に美味しかった。あのレシピの料理が食べられるのなら、行列に並ぶ理由もよく分かる。
それと、玉藻ちゃん達の扱いがどういうものなのかも分かってきた。特殊なモンスターという説明があった通り、玉藻ちゃん達はレイン達とは違う存在となっている。一つは、玉藻ちゃん達のスキルを私は見る事が出来ないという事。そして、テイムモンスターと同じ括りの扱いではなく、実際のパーティーメンバーに数えられるという事。つまり、フルパーティーの状態では、一緒に冒険をする事は出来ない。
そして、玉藻ちゃん達を私が喚び出すわけではなく、皆が勝手に来るという事も大きな違いだ。玉藻ちゃん曰く、私がフィールドにいる時くらいしかやれないとの事だった。任意で喚ぶことが出来ないので、いて欲しい時に喚べないというデメリットがある。
まだ戦闘をしている時に来た事はないので、その実力は分からない。でも、これらの点があるから、かなり強いのではと思っている。
平日を挟んだ次の土曜日。私は西方面の新エリアである黄昏エリアに来ていた。黄昏エリアは、その名前の通り夕方だった。墓地エリアでは常に夜だったけど、ここでは常に夕方みたい。
エリア内での何かあるかと思ったけど、特に何もないみたい。なので、エアリー、メア、マシロを喚ぶ。黄昏という事もあって、光と闇に関する何かが出て来るかもしれないからだ。
『そして、妾も登場じゃ!』
唐突に玉藻ちゃんが飛び出してきた。本当に気まぐれに来るので、ちょっと驚いた。
「玉藻ちゃん?」
『うむ! 楽しそうな気配を感じてやってきたのじゃ! ふむふむ……なるほどのう。面白ところじゃが、エアリーは帰した方が良いぞ』
「そうなんですか?」
『うむ。この場所には狂気が満ちておる。いる分には大丈夫じゃが、モンスターと遭遇すれば、影響を受けるかもしれぬ』
「それじゃあ、仕方ないですね。エアリー、態々来てもらったのにごめんね」
『いえ、ご迷惑はお掛けしたくありませんので』
エアリーをギルドエリアに帰す。代わりに誰かを喚ぶという事はない。玉藻ちゃんの話から聞いた話を考えると、誰も喚ばない方が良いと思ったからだ。
「メアとマシロは大丈夫ですか?」
『闇と光の精霊であれば、大丈夫じゃろう。いざとなれば、即座に戻してやれば良い。無論、妾は大丈夫じゃよ』
玉藻ちゃんは、尻尾で私を撫で回しながらそう言う。もふもふが気持ち良いので、このまま続けて欲しいと思うけど、先に進めないので放して欲しいとも思う。因みに八対二くらいの割合で続けて欲しいが勝っていた。この体験は、現状玉藻ちゃんからしか得られないものだから。時々ラッキーが頭の上に乗ってきたりするけど、ラッキーの小もふもふじゃ満たされない欲もある。
さすがに、この状態だと歩きにくいという事に玉藻ちゃんも気付いたのか、すぐに解放されてしまった。
「それじゃあ、行こうか」
名残惜しさを心の奥底に押し込めて、黄昏エリアの探索を始める。黄昏エリアを歩き始めて五分程すると、急に玉藻ちゃんが尻尾で私の顔を覆ってきた。
『ふむ……これはちっとばかり厄介じゃのう。其方らもモンスターを見るでないぞ。出来うる限り見ない事が正解じゃ』
「どういう事ですか?」
『恐らくじゃが、この場にいるモンスターは、見る事自体が危険なものばかりじゃ。自身を見失いデタラメな行動を取ることになりかねん』
つまり見るだけで混乱状態になる可能性が高いって事かな。豪雨エリアでも苦労した混乱状態を見るだけで掛けられるというのは、結構厄介なモンスターかも。環境の方なら、対策のしようもあったのだけどね。
『ハクさえ構わぬのなら、このまま倒してしまうのじゃが』
「取り敢えず、吸いたくはありますね」
『そうじゃろうな』
魅了と呪いは無効化されるけど、混乱状態は、まだそこの領域にない。薬を飲めばどうにか出来るけど、【万能探知】に引っ掛かるモンスターの量を考えると、現実的ではない。モンスターの形的には不定形の人型なのでシャドウナイトとかそういう類いのものだと思う。
『ふむ。では、こうすれば解決じゃな』
玉藻ちゃんが指を鳴らすと、モンスター達の姿が変わった。モンスターとしての反応はあるけど、これは稲荷寿司だ。稲荷寿司になったモンスター達が次々に玉藻ちゃんの傍に集まっていき、いつの間にか出現したお皿の上に載っていた。
『これなら良いじゃろう』
「えっ……これってモンスターの判定になります?」
『無論モンスターじゃよ。変化で形を変えているだけじゃ。因みに、味も稲荷寿司に調整しておるぞ。化かすのは、妾の十八番じゃ』
「おぉ!! 味も変わるのは嬉しいです。血は美味しくないですから」
『吸血鬼なのに変わっておるのう。そもそもこやつらに血が通っているのかは不明じゃがな……』
「大丈夫です。そういう場合は、存在ごと食べたりしてるので」
『ほう。それはそれで興味があるのう』
『姉々は闇とか光も食べてるんだよ』
『姉様に食べられないものはないと思うわ』
『ふむふむ。なるほどのう』
私を興味深げに見ている玉藻ちゃんを放っておいて、玉藻ちゃんが稲荷寿司に変えてくれたモンスター達を食べていく。モンスターという判定は生き残っているようで、牙を突き立てた瞬間に、するりと身体に入り込んでいった。微かに稲荷寿司の味がするけど、ちゃんと味わえないのは悔しい。だけど、いつもの嫌な感覚がないので、そこだけでも物凄く有り難い。
私が食べたモンスターは、ファントムシャドウ、ナイトメア、くねくねの三種類がいた。そこから得られたスキルは、【幻影】【混沌】【悪夢】【絶望】の四つだった。ここ最近では珍しく既に持っているスキルがあまりなかった。
────────────────────
【幻影】:MPを大きく消費して、自身の姿を別の場所に映し出す。その際、本体の姿は周囲の認識の外に置かれる。
【混沌】:MPを大きく消費して、自身を認識した対象を混乱状態にする事が出来る。
【悪夢】:MPを大きく消費して、対象に幻覚を見せる事が出来る。また睡眠状態の対象に使用した場合、大ダメージを与える事が出来る。
【絶望】:MPを大きく消費して、対象の動きを止める事が出来る。対象となるのは、自身より弱い相手に限る。
────────────────────
基本的に控えでは効果を発揮しないものばかりなので、またレベル上げが面倒くさい事になる。でも、SPは貰えるから積極的に上げないと。
『ふむ。問題は無かったようじゃな』
「はい。ありがとうございます」
『うむうむ。それなら良いのじゃ。残りは、どうするのじゃ?』
「スキルは全て獲れたと思いますので、倒しても大丈夫です。メアとマシロも倒しちゃって良いからね」
『やった♪ じゃあ、倒すね♪』
メアがそう言うと、一気に【万能探知】に引っ掛かるモンスターの数が減った。相手は闇に連なる存在なのかもしれない。
『私は、何をすれば良い?』
マシロが私を見上げてそう訊いてきた。
「そうだなぁ」
『このまま一緒に居れば良い。ハクがモンスターを見ないとも限らんからのう。ハクも、探索をするのは自分の眼でする方が良いじゃろう?』
「そうですね。でも、視界を別に移す事も出来ますから、目を閉じていても問題はないですよ?」
『無駄じゃ。視界を移したところで、結局のところモンスターを見てしまう可能性があることに変わりはないからのう。視界を増やせば危険が増すと考えるべきじゃな。まぁ、正直その心配は限りなく減っておる。精霊の力は、恐ろしいのう。ここまで広範囲まで攻撃が届くとは思わなんだ。神霊になれば、さらに広範囲……神に匹敵する力を持つと考えれば、それが当たり前かもしれぬのう』
今回の黄昏エリアの探索に玉藻ちゃんが現れてくれて、本当に良かった。知らなかったら、多分道に迷うことになっただろうし、まとも戦えていたかも分からない。それに、エアリーに危険が及ぶ可能性だってあったわけだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます